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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

愛しい人がやってくる

掲載日:2024/10/31


「大好き。ずっと大好きだよ」


そう言って、あたしを抱きしめてくれた。

あたしもそっと抱きしめる。


「ありがとう。大好きなトーマスに言われて、とっても嬉しいよ」


「ほんと?」


「もちろんよ」


 年よりも幼くて、口喧嘩になる時もあるけれど、すぐに仲直りして、一緒に過ごす。


 あたしが家や畑のことをする時は、手伝ってくれることもある。

 優しいところも発見できて、ちょっと自慢にも思ってしまう。

 いや、思うだけじゃなく、友達につい言ってしまって、すっごくからかわれたっけ。


 トーマスとの日々は、春夏秋冬、色鮮やかで、思い出がどんどん積み重なっていった。


 そんな日がずっと続くと思ってた時、いろいろあって、トーマスは旅に出ることになった。


 いや、行かないで。

 ずっと一緒にいるって、大好きって言ってたじゃない。

 一人にしない、幸せになろうねって約束したじゃない。



「帰ってくる。約束する。もっと強くなって、絶対に帰ってくる」


 トーマスも少し泣いてたけれど、歯を食いしばって、後ろも振り向かずに、旅の魔術師と行ってしまった。

 あたしは動けなくて、そのまま見送るしかなかった。



 それからだ。


 1年に1度、この季節になると、トーマスの知らせが届くようになった。

 師匠になった、旅の魔術師が魔術で教えてくれる。



『元気にやってるよ。苦手だったニンジンも食べられるようになったんだ』


『この1年で、背がすっごく伸びたんだ。チビチビ言ってたから、びっくりするぞ』


『やっと初級魔術を覚えたよ。すっごくしごかれたけどね』


『初めて魔物を倒した。小さい魔ウサギだ。

師匠と一緒だったけど、すっごくドキドキした。

もっと早く覚えたい。会いに行きたいよ』


『1人で魔鹿を倒せるようになったよ。

うちの村でも畑を荒らして困らせてたよね。

村がどうなってるか心配だ。帰れなくてごめん』


『魔猪を倒せたんだ!まだ中型だけど。

絶対に帰りたいから、がんばってるんだ。

待たせてごめん。大好きだよ。ずっと大好きだ』



 魔術師からの知らせは、年に1度だけ——


 それでもあたしは嬉しくて、トーマスの帰りをずっと、ずっと待ち続けて——


 トーマスがやっと村に帰ってきた時、10年が経ったのに、村はちっとも変わってなかった。


〜〜*〜〜


「師匠。これはいったい……」


「ん?お前の師匠を誰だと思ってる?

弟子のふるさとを荒らすと思うか?」


「じゃあ……」


「お前をこうして《転移》で連れてきたのは初めてだが、俺は毎年来てたんだ。

魔術師としてはまだまだだが、おまけで一人前に認定してやる。

俺の背中を預けられるようになったからな。

さあ、会いに行くといい」


「ありがとうございますッ!」


 師匠に背中を押され、トーマスは走りだす。

 思い出とちっとも変わっていない道を——

 愛しい人に会うために——


 早く来て!

 待ってるのよ!ずっと、ずっと、待ってたの!

 トーマス、愛してる!



「長い間、待たせてごめん。やっと帰ってきたよ。

今も大好きだよ、愛してる。母さん」



 師匠の言葉どおり、村は変わっていなかった。

 外れの墓地の見覚えがある場所に、トーマスは立つ。

 師匠が作ってくれた墓碑もそのままに、美しい花が手向けられていた。

 両親の墓だけじゃなく、家族のようだった村人全員の墓もそうだった。


 出稼ぎに出ていた父が数年ぶりに戻ってきた時、村に流行り病を持ち込んだ。

 物心ついてから初めて会う父は頑丈で、村でどんどん人が死んでも、母さんが謝り続けても死なずに、最後は母さんにも病気を移して、やっと死んだ。

 俺が大好きだった母さんは、身体を燃えるように熱くして、痩せ細って、息を引き取った。


 そして、俺だけが、生き残った。

 1人にしない。幸せにする。

 だから生きようって約束したのに。

 母さんを、大好きな母さんを助けられずに、俺だけが——



トーマスの背後に師匠がそっと立つ。


「トーマス。俺がどうしてこの日にやってきたと思う?」


「え?」


「この世に愛する者への想いが残ってる霊魂が、今夜は帰って来れるんだ。

知ってるだろう?」


「でも、あれは、伝説で、昔話で、お祭りみたいに騒いでるけど……」


「じゃあ、あそこにいる人は誰だ?

はるばる、毎年やってきてくれてたんだぞ」


 師匠が指差した先には、愛しい人が、母が、元気なころのままの姿で立っていた。


「トーマス……」


「母さん……。夢じゃない。そんな、“あっち”から……」


「もちろんよ。あんたを残して、そうそう“あっち”にいられるもんですか。

あ、ごめんね。もう触れないのよ。あんたも連れて行くことになってしまうからね」


「母さん……」


 10年ぶりに逢えた母と子は、会えない時間を埋め尽くすように語り合う。

 師匠が手向けた花は、星月夜の晩、不思議な光を放ち、二人を温かく照らしてくれていた。


「ごめんね、もうすぐ時間だわ。また来年ね、トーマス」


「母さん……。ごめん。助けられなくて、大好きだったのに、ごめん、ごめん……」


「トーマス。あたしは幸せだよ。

こうして、約束どおり、やってきてくれたんだから……」


 泣いて謝り続けるトーマスに、母が優しく微笑みかけた時——


 青く染まった不思議の時間に、太陽の光が一閃、差し込んだ。


 トーマスの母の身体が透けていき、朝露がきらめく墓碑にすっと溶け込んでいく。


「母さん……」


「想いあっていれば、また来年も会えるさ。

早く一人前になれよ。自力で会えるようにな」


「はい、師匠」


 師匠と弟子が《転移》で消えた後、墓地までの道沿いに、赤いリコリスの花が美しく咲いていた。


ご清覧、ありがとうございました。

この作品は、拙作『精霊王とのお約束〜おいそれとは渡せません』の世界を間借りしています。

よかったら、本編もお楽しみください。

https://book1.adouzi.eu.org/n3030jq/

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― 新着の感想 ―
 こんばんは。作者様♬  ハロウィンで泣けたのは、初めてです… 泪泪泪… 恋人同士にしては違和感を感じておりまして、息子くんと彼のお母様(故人)なのね、と解った瞬間に涙腺決壊でした…  1年に1度の逢…
再度感想を失礼いたします。先程、文末が「ありがとうございましたあ」になっていたのは完全なるタイプミスでございました。 お目汚しにも関わらず、温かい返信を賜り、恥ずかしくも有り難い限りです。今後、このよ…
ハロウィンに相応しいお話でしたね。素敵なお話をありがとうございましたあ
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