第一話 ごきげんよう異世界へようこそ…裸体で
「べびしゅッ!!」
大きなクシャミが反響して響く。
背中から腕と足、床に面する全ての部分に酷く冷たく硬い感触とそれを上回る寒さからの自分のクシャミによって目を覚ました。
反射的に横たえていた体を起こすと、まず目に入ったのが白い世界。
いや石の壁といった方が正しい。
周囲を見渡すと、石壁が俺を中心に四方にそびえる。
白い石は無機質な圧迫感をだし、人が20人くらいは入れる棺桶みたいな生をイメージさせない印象。
例えるならば広い白い四角の箱に閉じ込められたようなハムスターのような気持ちにさせられ、そして次に俺の脳裏に浮かんのは、俺はどうしてこんな所にいるのか?という疑問。
今日は高校の授業も家の稽古もなくて真っ昼間から自分の布団で寝ていたはずなのに、空気の冷たさと体の寒さに目を覚ませばこの有様。
だったらさっさとこの石の部屋から出ればいいだろうとお思いだろうが、壁は真っ白で前後左右に俺を取り囲む壁は小動物の一匹も逃がす隙間がなくピッチリと俺に立ちはだかる。
唯一の出口らしきものは天井に窓が一つ、円状に石が切り抜かれた其処から太陽の光が注がれていた。
密閉された空間で息苦しくも暗くもないのはそのおかげ、時間帯はまだ昼ごろだろう明るい日差しが白い石壁に反射して少しも暗くない。
その天井の窓から脱出したくてもピカピカに磨かれた石壁をよじ登るのはごくごく普通の一般人には無理っしょ?
つまり俺は推測するから石の箱に閉じ込められた哀れな男。
ここから脱出する方法がおもいつかない、どうしよう?
兎に角ここは寒い、息が白くなるほどではないが俺は自分の体を擦る。
ムニュ
「あっ柔らかい」
俺が触ったのは女性が女性として認識される大きな要素の一つ、男たちのロマンが、夢が、希望が詰まったモノに俺の手が触れた。
これは素晴らしい!!哺乳類の奇跡だね。
全ての男を石器時代より昔から惑わせ続けた魅惑、女性のおっぱい、乳房、バスト。
高校生で童貞の男としては家族以外の胸にトキメキを感じるなって方が無理な話で、しかも俺の手から余るほどの大きさ。
胸のサイズはよく分らないけど、スケベな男友人からグラビア雑誌を見せられて「この新人の子はなんとバストDだぜ」と教えられたサイズよりも大きい気がする。
もみもみと掴んだ胸の感触を堪能する、誰に咎められるわけでもない。
だって此処には俺一人、そうオンリー俺……つまり。
「なんで俺についているんじゃボケーー!!!」
自己紹介が遅れました。俺、神田 光喜15歳 どこにだしても恥ずかしくない日本男児、現在中学三年生――今は全裸な女の人です。
「ひえ~~女の人ってこうなっているんだ」
恐る恐る自分の体を点検し始める俺、だって他にやる事ないんだもん。
だから俺は浅ましい気持ちではなく変わってしまった己を確かめるために、いか仕方なく、断じて下心をもってやっているわけではない!!
だが言葉と裏腹に光喜の顔は引き締まりのない鼻の下を伸ばした顔をして、自分を必死に納得させようと必死な顔だった。
自分の胸についてある豊満な胸を両手で掴み揉んでみる、たわわな弾力とすべすべとした肌の感触はもう最高。
胸がでかいと自分の足元が見えないもんだなぁ、性別が変わって胸が大きい人は重くて大変なんだとはじめて分った。
(まさか自分が実感する予定はなかったけど)
胸を一通り触った後、興味の対象は勿論下半身へ。
童貞の俺にとって其処は未知の小宇宙に等しい、まさに未知との遭遇。
唾液を呑み込み、光喜は意を決して手を伸ばす。
「きゃ~~~~!!」
次の瞬間には光喜は甲高い悲鳴を上げてしまった。
凄いです、女体の神秘でした。
俺の未使用な男の下半身は全て女の器官にとって変わり、完全に女の体になっていた。それ以外変わったところは無いかと体中一通り確かめた後、俺は恥ずかしさの余り冷たい床に転がって手で顔を押さえて溢れる激情に耐えようと努めた。
顔から火が出ないのが不思議なくらい悶絶中に蹲ったまま。
「触っちゃった!触っちゃった…。女の人の<ピ―――(放送禁止用語)>を」
ほんと勘弁してください、青春真っ盛りで思春期の俺にはクラスの女の子がスクール水着になっている姿ですら直視できない位にシャイなんですから。
こういうのは可愛い彼女をつくって一年間交換日記を経て、デートを重ねて、ロマンチックな場所でキスをして、将来を誓い合ってから女体に触れるものでしょう!?
はっ破廉恥!!
しばらくの悶絶のあとに急に光喜は冷静になっていき。
好奇心→羞恥心→後悔→落ち込みへ感情が移行を一人で数分の間ですますと、光喜はげっそりとした顔を上げ。
(マジでへこむ、何やってんだ俺は最高に馬鹿じゃん…一人で勝手に盛り上がってアホ丸出し)
変わってしまった体は腕や足を客観的にみると、鍛え上げられたとは到底思えないすらっとした体。
詳しくは鏡がないので、顔も全体を確認するのもできないが15歳の俺とそう変わらない年齢だと思う。
暫く裸体のまま一人で落ち込んでいると、ふと光喜の視界に光を強く反射している箇所に気が付いた。
この閉じ込められている石壁部屋は天井からの光で十分明かったが、今はそれを群を抜いて明るい。
明るいというよりもそこが光っているようだ。
本能的に何か起こったのかと光喜は上半身を起こす。
光は光喜に存在を示すように目の前の石壁に一振りの剣が刺さっていた。
ついさっきまで何も壁にはなかったはずなんだけど、光喜の手の届く位置に最初からあったみたいにそれ(剣)はあった。
しかも剣の周りに魔方陣のような複雑な紋様で輝き、剣を中心として規則正しく魔方陣は動いているのだ。
剣や魔方陣から光る輝きが優しくて、誘われている気がしてつい光喜は立ち上がり剣の前まで移動して剣の柄(剣を握る所)に触った。
剣に光喜が握ったその時、県の周辺に巡らされていた魔方陣が生き物めいた動きをみせ、まるで紋様が意思を持っているかのように剣を這い伝い、剣を握る光喜の指から体中に移動し体に吸い込まれるように紋様が光喜の体へ入っていく。
「うわっ!!」
咄嗟に剣の柄を慌てて放しても光喜の体中へ魔方陣が移ったまま、手の指先から足の裏、体の隅々まで魔方陣が描かれるとスッと光喜の体から消えた。
「何だったんだ」
剣の柄を触った指先を撫でて呟く。
改めて自分の体を見ても魔方陣の跡はどこにも見つからない、それよりも自分のお尻がプリンとして可愛いと無意識に思った自分は如何なものだろう。
次々と起こる異常事態に流石の楽観野郎を自称していた光喜も頭を抱えて座りこむ、裸体に石の床は酷くひんやりして有難くない。
「だーーっ!!何がどうなっているんだよ!!さっぱりわかんねぇーー!」
学校から帰って布団に入るまで男だったし、男として産まれてきて戸籍も正真正銘性別は男として登録されている。
なのに目覚めたら有り得ないこの拉致監禁、もっと有り得ないのは女に性転換しいるときたもんだ。
それから変な剣が現れて、触ったら変な紋様が俺の体に入り込んで…もう訳わかんない!ヘルプミープリーズ…。
「そうだ…。もしかして俺は宇宙人に攫われてきたのかも…」
ピンと俺の頭がひらめく、寝ている間に俺が突然こんな場所に連れてこられたのも女になっているのも俺を攫って人体実験したせいなのかもしれない。
だって宇宙人なんだもん、あいつらに俺の常識が通じはずが無い。
ああ……どうしようきっと俺が死ぬまで実験を繰り返すんだ。
そう怪奇雑誌のアトランテスに描いてあった(もっぱらデタラメで有名な雑誌)。
もう目の前の壁に刺さっている剣には触る気にはなれない……宇宙人のモルモットにもなりたくない。
でも武器といったらあの剣しかない訳で、付け加えておれは全裸の超無防備でして。
ちらりと視線を剣に向けると剣自体が光っていた光を潜めて、そ知らぬ顔で天井からそがれる光を浴びている。
まあ第一あの剣は壁に深々と刺さっているから俺の力で抜けるかどうか、抜けないほうの確立が高いよ。
もし抜けたとして宇宙人と戦って勝てるかも?いやチャンスがあるかもというその程度のレベルだ。
どうやってと聞かれると返答に困るのですが、ほら奇跡の力とかその辺りの力に縋るしかない。
ともかく光喜は何もせずよりは立ち上がり、剣の柄を両手で握り締める。
今度は触っても変化なし、少し躊躇してから光喜は思いっきり引っ張った。
スポン
などの擬音が聞こえてきそうな程簡単に壁から抜けた、勢いつけて引っ張ったんで数歩後ろへよろめく。
もうスポンジにさした爪楊枝を抜くぐらい簡単だった、むしろ力んだのが無駄に感じるほどのあっけなさ。
その剣を持ち上げてマジマジと見つめた、よく映画や物語で中世の騎士が持つソード。
とりあえず刃物をブンブン振り回すのは危ないから剣先を床にさして固定しておく、剣の長さは床から俺の腰より少し短い。
刃の部分はため息が出そうな美しさで、まるで清んだ湖を覗くように惹きつけられ素人の目から見てもさぞかしの高名な者の逸品だろう。
でも、刃の部分が素晴らしいのに比べて柄と剣身と鍔(「つば」 剣身と柄の境目にある手を保護する為の板)にさえ一切の細工が施されていない。
刃は一流のつくりなのに素っ気無い印象を与えるほど飾りが見受けられなかった。
まるで数億する宝石をあしらったネックレスなのに、首にさげるチェーンが100円ショップのチェーンで済ましたネックレス。
光喜は軽く剣を振ってみる、ブンと空気を切る音がして頼もしい。
剣はそこそこ長さが在るが、重さはなんと棒切れを握る程度しかなくて女になった細腕の俺にも十分扱えるだろう。
けどこの軽さは金属にはあるまじき軽さだ、あなどりがたし宇宙のテクノロジー。
流石は宇宙人の剣なだけはある。
だけどうせなら銃を置いて欲しかったな、いくら多少の武術の心得はあるといえ女の体になってしまったので体力勝負は避けたい。
この体の華奢さに体力があるとは思えない。
いや、銃の扱いなんか知らないから逆に危険かも……とブツブツ光喜が考え事をしていると、ゴゴゴゴと地響きが光喜の耳に突然届く。
光喜は音のなる方に向くと、其れは真後ろからだった。
後ろを振り返り剣の柄を力一杯握り締めてその場所を見つめる、剣を手にしても本気で勝ち続けるなんて思っていない。
せめて無駄な抵抗ぐらいしてやるという意気込みなのだ。
それが今のこの瞬間に起ころうとしている、俺は緊張で体が少し震えた。
地響きがした真後ろの壁が振るえて動き始めた、壁がシャッターのように上に収納されていく。
壁と壁が擦れると音が鳴り、完全に後ろの壁は天井の一部となって一体化した。
ゴクリと音がするほど唾液を呑み込む。
石の壁が消えその先は通路になっており、開けた部屋の向こう。
光喜の視線の先には一人の男がいた。




