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第十一話 支援魔導士、ギルドマスターにお使いを頼まれる


 次の日。僕は今日こそは普通にクエストを受けようとサラを連れて掲示板の前までやって来ていたのだが……。


「キミ、ちょっと頼みごとがあるんだけどいいかな?」


 ギルドマスターが後ろからそう声をかけてきた。昨日の今日でどういうつもりだろう。


「頼み事ってなんですか?」


「ああ、それはね……」


 彼女はいつものニコニコとした顔で用件を述べる。


「ちょっと迷宮で取って来て欲しいものがあるんだ。大丈夫、初心者向けの難易度だし隣の子も一緒に行ける」


「クエストですか、……なんで僕達に?」


 初心者用クエストなら、わざわざ自分たちにオーダーする必要がないだろう。僕は不思議に思い彼女に聞き返す。


「いやー、どういうことなのか誰もクエストを受けてくれなくてねぇ。昨日依頼主が怒鳴り込んできたんだ。いつになったら頼んでいた品は届くのかって」


「そんな誰も受けないようなクエストにするような依頼主が悪いんじゃ……」


 僕達には特に義務と行ったものはない。あるとしたら迷宮で何かあった時の招集に必ず応じる必要があるくらいかな。

 僕がそう口にするとアレクはすこし困ったように笑って頭を掻く。


「それが、初心者でも出来るような簡単なものだから……」


 そういうことね。でもそれはそれで探索者達が受けたくない理由が存在するわけで、そこはかとない地雷臭が既に漂ってきているが。


「……それで、そのクエストの内容は?」


 まぁまだまだ内容も聞かない内から断っても仕方がないのでとりあえず聞くだけは聞くことにする。


「ダンジョンワームの討伐でその糸袋五個の納品だよ」


「却下で」


 サラは虫が苦手と言ってこの間は受けなかったし、ずいぶん受けてなくて忘れていたが、このクエスト超地雷だ。

 不人気度で言えばダントツのナンバーワンだろう。

 まず嫌がられるポイントとして必ず汚れる。討伐難易度はスライムと同じか、それ以下なのだが倒した時に体液がよく飛ぶ。

 斬る、潰すなどの方法以外で殺せばいいと思うだろうが何故か魔法に強い耐性を持っており物理攻撃しか効かないのだ。

 しかもその体液がものすごく臭い。家あるいは宿に戻るまですごい臭気を発しながら歩くことになる上に、報酬はスライムと大差ない。

 探索者達が楽で汚れないスライムを選ぶのは必然だった。もちろん上級探索者はもっと割のいいクエストを受けるため見向きもしない。

 結論から言えばこのクエストは糞、ということである。


「……」


 真顔で即答した僕にアレクが固まる。いつもの笑顔だ。まぁ、美人である。


「いやいやいや、頼むよー! 報酬十倍にするから! ね!」


「お金には困ってません」


 彼女が必死に食い下がってくるが僕はバッサリとそれを切り捨てる。わざわざ自分から拷問を受けに行くようなマゾではないのだ。前にも言ったが僕はノーマルだ。


「じゃあ金貨十枚でどうだ! これなら流石に……」


 あ、それはちょっといいかも。難易度自体は低いし、楽して大金を手に入れられるのはいい。……恥を捨てればだが。


「それなら、と思ったんですが僕たちをそんなに優遇していいんですか? そんなに出せるなら最初からその条件で掲示板に貼り出せばいいんじゃ」


「いや、金貨十枚に付いてはボクの懐から出しているんだ。それに、キミにはこれだけの報酬にする意味があるが他の探索者たちには無い。これは賠償の意味もあると思ってくれないか?」


 うーん、今のところ特にお金がほしいわけではないし、正直迷う。これといった趣味もいままで持ったことがないのでこれ以上持っていても持て余しそうである。


「頼むよー、キミ達今宿で寝泊まりしてるんだろう? パーティーを組んでいるなら拠点(ハウス)がほしいんじゃないか? 金貨十枚もあればそこそこの一軒家が買えるよ?」


「受けましょう!」


 と、いままで青い顔で冷や汗ダラダラだったサラが急に表情をパッと明るくして叫んだ。

 ……欲しいのか、拠点。


「やっぱり家ほしいの?」


 僕は彼女に確認を取ってみる。いや、顔を見れば答えは明らかなのだが。

 彼女はこちらにキラキラとした目で上目遣いをしてお願いしてくる。


「……いけませんか?」


 可愛いから許した。





「ヒィいいいいいいい来ないでぇえええええ!」


 サラが涙目になりながら必死に剣をブンブン振るっている。僕はそれを見ながら裏拳で後ろから襲いかかってきたワームを一匹、粉砕した。

 現在、ギルマスからのオーダーを受けることにした僕達はダンジョンワームの巣へとやってきていた。

 彼女は先程の希望に満ちた表情からはほど遠く、恐怖に歪んだ顔でブスブスワームの腹をメッタ刺しにしている。どう見てもオーバーキルだ。

 ワームは既に事切れているようで力なく横たわっている。害虫とはいえちょっと可哀想だ。


「あんまりズタズタにしちゃうと糸袋が傷ついちゃうよ! 気をつけて」


「あっ、すみません……」


 僕がそう注意するとサラは慌てて剣を抜き取る。抜いた剣はヌラヌラと緑色の体液で染まり、抜き取ッタ場所からは糸を引いていた。気色悪い。


「うう、ベタベタで臭いです……」


 僕達の体はすっかり返り血? でべっとりだ。前述したと降り物凄い臭気である。強烈な刺激臭に鼻がひん曲がりそうだ。

 これは一刻も早くクエストを終わらせてお風呂に入るべきだ。

 ワームはまだまだ居るようで次から次へと巣から出てくると糸を吐いて攻撃を仕掛け手くる。僕達はそれをどんどん斬り殺し殴り殺して蹂躙していった。

 もはや悪者は僕たちの方である。

 ほどなくして、巣にいるワームを全て倒し終わると、今度は糸袋の回収に移る。


「よし、糸袋を回収しよう」


 僕は彼女にそう呼びかけて自身もワームの腹の中に手を突っ込み糸袋を引っ張り出す。

 ……これも不人気な理由の一つだ。糸袋を回収するためにはそのモンスターが朽ちて魔石だけになる前に体内から取り出さなけれはいけない。そのためにこの生温かくて生臭いブヨブヨしたお腹に手を突っ込まなければならないのだ。

 正直言って最悪である。


「うあぁぁあ……気持ち悪い」


「我慢するんだ」


 サラもそんな泣き言を漏らしながら糸袋だけを回収する。

 そんな苦痛な作業を三十分ほど続けてどうにか依頼にある量の糸袋を回収する。

 これであとは帰って報酬を受け取ってお風呂に入るだけだ。実に簡単な仕事である。


「早く帰ろうか」


「はい、そしてお風呂に!」


 サラも元気よく返事する。やはり女の子だから早く綺麗にしたくて仕方がないのだろう。すぐに出口に向かって駆け出していった。少しして僕もそれを追うのだった。





「……おい、早く担架持ってこい!」


「いや、応急措置が先だ! 上級ポーション、誰か持ってないか!?」


 僕達が迷宮入り口付近まで戻ってくると、なにやら入り口の辺りが騒がしいことに気づく。


「何かあったんでしょうか」


 サラが僕に聞いてくる。僕には大体見当がついていたため、それを彼女に教えてあげた。


「迷宮内で怪我をした探索者が居るんだろう。かなり切迫した雰囲気だし相当な重症なんだろうね」


「迷宮って危険なんですね」


 サラがそう納得したように言う。


「ああ、危険だ。特級探索者が深層に出かけて、それっきりなんて過去に何度もあったくらいだ。ここで仕事をするってことは命を賭けるってことなんだよ」


 僕が探索者をやってきた三年間でもニ、三回はあった。こうやって簡単なクエストばかりをこなしていると忘れそうになるが、迷宮は常に危険と隣り合わせの場所なのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「まぁ、野次馬なんか迷惑なだけだから、さっさと行こうか」


「……はい」


 そう言って慌ただしく動き回る彼らの横を通り過ぎようとしたのだが……。

 

「!?」


 その中に見覚えのある顔ぶれが居るのを見て迷宮を出ようと踏み出していた足を止めて振り向く。

 ミーナ、ガレだ。彼らは大怪我をして担架に載せられている男の横で手当てを受けている。二人とも暗い表情だ。

 次に担架に横たわっている男に目を向け、僕は驚きに目を見開いた。


「……ライオル」


 青い髪、かなり整った顔。脇腹に血の滲んだ包帯を巻かれて、死人のような青白い顔で気を失っている男は、間違いなくライオルだった。

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