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番外 パーティー崩壊への道 −2−


「いよいよ深層だ! 皆気を付けろ!」


 深層域への入り口でライオルが叫ぶ。


「はーい!」


「……わかってる」


 仲間はずいぶんと余裕がある様子で返事を返した。ミカはどんどん進んでいく彼らになんとか付いていく。

 迷宮で怪我をした状態で一人になることは非常に危険だ。だから付いていくことしか選択肢はなかった。

 彼らはクエストを強行するつもりである。


「……待って、待ってってば!」


「……ゆっくり歩こう」


 ミカの苦しげな声を聞いてライオルがミーナとガレにそう指示する。

 ガレは黙って従ったが、ミーナはそれに文句を垂れる。


「ちょっと、ミカなんかに合わせる必要性ないでしょ! 必要ならガレに背負わせれば?」


 だが、そのミーナの提案をライオルは一蹴した。


「……背負うなら俺がやる」


「はぁ? なんでよ」


「俺が、リーダーだからだ」


「ライオルっていつも同じことしか言わないよね……他になんかないの?」


 ライオルの有無を言わさぬ論理に深い息を吐くミーナ。それっきりは黙って歩き続けた。

 ライオルは言ったとおりに、ミカをおんぶしようとしたのだが、それをミカは断る。

 クエストの工程はなんだかギクシャクしたまま進んでいくのだった。





「……居たな」


 目的地に到着したライオル達は、すぐ手前の通路の影に隠れてその先を観察する。

 彼らの視線の向こうには、今回の討伐対象である、トリコロール・ドラグーンが周囲をつぶさに探っていた。ライオル達の気配を感じ取っているようだ。


「よし、やるぞ」


 その掛け声と供にミカ以外の三人は一斉にドラグーンの前に躍り出る。

 そのままライオルは剣を抜いて斬りかかった。突然の出来事に一瞬身動きを止めるドラグーン。その間にガレが槍で足を貫きドラグーンは体勢を崩す。

 ガレとライオルは二人で着実にダメージを与えていっていた。


「ミーナ、魔法の準備をしろ!」


 剣で自分を切り裂こうとドラグーンが伸ばした腕を切り落としながらミーナに指示を飛ばす。

 ドラグーンは怒りと苦しみのこもった鋭い金切り声をあげる。


「あいよ!」


 彼女はすぐにスキルを使用し、火球を生成する。そして、自分の体力を注ぎ込み、圧縮していった。


「……青い首に注意しろ!」


 ガレがそうミーナとライオルに注意する。それと同時に彼ら目掛けてドラグーンの青い方の首が突っ込んでいった。

 

 ズパァンッ!


 大きな音を立てて地面が崩れる。大きな土煙が立ったあと、そこにはライオルの姿はなかった。

 潰されたのではなく、ドラグーンの首の上だ。

 そのまま直剣を薙ぐ。それだけでドラグーンの首の一つが切り落とされた。


「ッォオオオオオオオオオォォ……」


 ドラグーンは苦しみの声をあげる。ライオルが一旦離れて様子を伺うと、青い首が再び生えてきてしまった。


「やつの首はすぐに再生してしまう。殺すには三つの首を同時に潰すしかない……出来るか?」


 それを見たライオルはミーナとガレに協力を頼む。二人は快諾してそれぞれ目の前の首に向き直る。


「爆炎魔法さえあれば楽勝でしょ!」


「……俺の槍で貫けない物はない」


 彼らは神経を研ぎ澄まして、ドラグーンの動きを待つ。特級探索者の彼らに、不覚はない。今回もあっさり成功するだろう。

 全員が全員、トップクラスの実力だ。大丈夫だ。自分たちでやれる。

 そういう確信が彼らの心には合った。


「合図をしたら突っ込め! いいな!」


「いつでも撃てるよー」


 ライオルの言葉に元気よく反応するミーナ。彼女の手の中にはすでに高密度の巨大な火球が出来上がっていた。


「……今だ!」


 ドラグーンが動き出そうと首をそれぞれもたげたところで一斉に攻撃を放った。

 真ん中の赤い首に爆炎魔法が炸裂し、大爆発を起こす。ライオルの剣が再び再生した首を落とし、ガレが白い頭を脳天目掛けて槍で貫いた。

 全ての頭を同時に潰されたドラグーンは力なく崩れ落ちた。周囲はドラグーンの流した血で染まり、生臭い匂いが充満する。

 ドラグーンは絶命した。誰もがそう思った。


「ミカ、破片なんかは飛んでこなかったか?」


 ライオルは剣をしまうとミカの安全を確認に向かう。


「……別に何もなかったわよ」


「ならいい。……どうだ。俺たちには支援職など必要なかっただろう? 俺たちは、強い」

 

 ライオルは得意げに言う。反して、それを聞いたミカの表情は暗い。


「確かに強いわね。みんな」


「ああ、わかったらヨータのことなんかもう忘れて……」


「この分なら私だって要らないよね。今回なんかみんなの足引っ張ってばっかりだったし、やっぱりだめだよ」


「何を言っているんだ。ミカ、お前は貴重な戦力だ。いらないなどと思ったことはないぞ」


 ライオルがそう慰めるように言うが、ミカの言葉は止まらない。


「なら、なんでヨータは要らないなんて言ったのよ! 私が要るならヨータも要るはずでしょ! こんな支援魔法がなきゃ、ヨータの魔法がなきゃ何も出来なくなっちゃうような無能なんて要らないでしょ!」


 ミカは涙を流しながら訴えかける。それにミーナが怒り出した。


「たく、ピーピーさっきからうるさいのよ! そんなにヨータが好きならヨータのとこに行けばいいって言ってるじゃん! だいたい剣士職ならライオルが居るんだし……!」


「ミーナ、黙れ!」


 それを見たミーナは責め立てるように彼女を非難しようとするが、それをライオルにまたもや止められてしまう。

 ミーナは不服ながらも仕方なく黙るのだった。


「ミカ、それは違う。お前はヨータとは違うんだ。今回は慣れていなかっただけだ。すぐに慣れて動けるようになる」


 ライオルは必死に彼女の説得を試みる。彼女にパーティーを抜けられては困るのだ。ヨータなんかの元に行かれては困る。


「もう耐えられないよ……みんな仲間なんかじゃない! 今のみんなに、友情もなにも無いじゃない!」


「ああ、俺はヨータに友情なんか抱いたことはないさ。昔からあいつが嫌いだったからな。だが、ミカ、お前は違うんだよ」


「何言って、一緒に村で育った幼馴染同士なのに……!」


「……自分がそう思ってるからって、相手もそう思っているわけじゃない」


 ライオルは少し考えてそう言った。ミカはその言葉に失望したように目を見開く。そして、目を伏せると言った。


「私、このクエストが終わったらパーティーを抜けさせてもらうわ。こんな酷い人たちと一緒に居られない」


「……ミカ! お前は俺の……!」


 ライオルがミカの腕を掴む。彼女は逃げ出そうともがきだす。


「離してよ! 触らないで! あんた達なんか大嫌いよ!」


「お前は俺の物だ! 誰にも渡さない! 誰にも!」


 ライオルがついに決定的な言葉を口にする。


「嫌よ! 私は物なんかじゃない!」


 彼のいつもと違う態度に恐怖を抱いたミカは必死に逃れようとするが、ライオルの手にはますます力が籠もっていく。


「いいか、ヨータのことなんか金輪際忘れろ! あいつはただの役立たずで、クズなんだ! さもないと……」


 ――その時だった。


「危ない!」


 ミーナの鋭い声が響く。


「どうしっ……がふっ」


「……ぁ」


 それと同時に、ライオルは後ろから脇腹を貫かれた。頭が再生し、起き上がったドラグーンの鋭い鉤爪によって。









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