第45話 緋色の英雄スコール
疾走するリッカに抱き抱えられながら、命は春祭りのパンフレットを開いた。
「これで頼む」
宙に空いた【小袋】から魔法石が落ちる。見慣れないそれをたどたどしく使い、命は記載された番号をコールした。
「お電話ありがとうございます。春祭り警備センターでございます」
繋ぎ先は、春祭り用に特別に設営されたコールセンター。礼儀正しい声に焦れったさを覚えつつ、命は早口で用件だけを伝えた。
「レイア姫が誘拐されました!」
「……少々お待ち下さい」
のほほんとした保留音が続くと、緩い傾斜を下るリッカが口を開いた。
「イタズラだと思われたかもな」
冗談めかした声だが顔は真剣そのものだ。終わらない保留音に気を揉み、一分ほどの待ち時間が続いたときだった。
「大変お待たせいたしました。本件については、担当のヴェスタ=ヴェチカがお受けいたします」
上品でおっとりとした声が魔法石から届いた。クレーマー対応に回されたのかと焦るも、命には懸命に伝えるほかに手がなかった。
「だから、レイア姫が誘拐されました。7区の鍛冶屋ディルティ前で人型の紙に!」
「……その声、八坂か?」
通話先の相手は、途端に声の調子を変えた。
成人の儀を控えたレイア姫関連のコールは、全てオープンカフェの魔法石へ回すように手筈が整っていた。
「まさかマグナ先生ですか」
「あー、ちょっと取り込み中でな」
”王宮騎士団”に働かされているとは、守秘義務の問題で言えるべくもない。マグナは言葉を濁して会話を続けた。
「ともかくだ。それマジ話なのか!?」
「マジもマジだよ、不良教師!」
多人数通話にした魔法石に、リッカは怒鳴り声で参加する。
「おお、リッカもいるのか。デートか?」
「うるせえ。手錠を繋いで回るデートがどこの世界にあるんだよ」
「……あたしの方が大人とはいえ、急に散歩プレイの話を振られても困る」
「んなディープな世界の話は聞いてねえ!」
実際は互いの腕を手錠で繋ぐコント状態なのだが、魔法石越しでは見事に勘違いが炸裂していた。頬を桜色に染めながらリッカは吠え続ける。
「ともかくだ。こっちも取り込み中なんだ!」
「るせえ。わかったから早く情報を寄越せ!」
「この……偉そうに!」
本格的な喧嘩に突入する前に、命が仲立ちするように会話に入る。今までの経緯と現状をかいつまんで説明した。
「今はえっと、ルミナ工芸品店前です」
「ちょうど7区の中心ってとこか」
マグナは黙考してから、命とリッカへと指示を飛ばす。
「リッカは北東方向から5区に入ってくれ。八坂は戦力にならないから帰れ」
「私の扱い雑――ッ!」
命自身も薄々勘付いていたが、改めて人の口から聞くと堪えるものがあった。
チュートリアル真っ只中の魔法使いは、いざというとき到底戦力にはなれない。【羽衣】で身体能力を底上げしているといっても、怪我人であるリッカにおんぶに抱っこの状態である。
「でも私、リッカから離れられません」
「……お前ら、どんだけ愛が深いんだよ」
「だから、手錠で繋がってるんだよ!」
ようやくマグナは二人の現状に気付く。冗談抜きでコントスタイルなのだと。
「はあ? 馬鹿なのかテメエら!」
要らぬ奇跡を起こす二人を罵るマグナ。
負けじと魔法石に応答するリッカ。
似たもの同士の言い争いは止まらない。数分に及ぶ舌戦には、命もただ苦笑し続けるしかなかった。
「大丈夫だよ。命一人ぐらい問題ねえ」
「命一人じゃ、ないだろうが……!」
ギリとマグナが歯噛みする音が届く。
心配を超える声には怒りすら籠もっていた。
「本当に大丈夫なのか」
「……」
ブチ――ッ、と断線音が響いた。
「ああー! 何しているのですか!」
「さあな。電波が悪いんじゃねえの」
「魔法石に電波も何もないでしょう」
直接魔法石を繋げていた命にはわかる。リッカが無理やり風の魔力を流し込み、相殺現象で通話をぶち切ったのだ。
「それに、今の話はなにか」
漠然とした不安が、命の胸中に募る。
五人の才媛にも数えられるリッカは、女学院でも高位に位置する魔法少女だ。だがそれを知ってなお、拭えぬ不安があった。
「……大丈夫なのですか」
「片腕なんてハンディになるかよ」
毅然とした態度で言い切られては、それ以上口を挟めなかった。
「わかりました。貴方を信じます」
「任せとけ」
命を抱えたリッカは更に加速する。
無数に枝分かれする小径を迷いなく選択すると、最短距離を風となり切り裂く。心配するなと言外に言わんばかりの動きだ。
徐々に春祭りの喧騒が大きくなる。
式神の微細な魔力を辿ってきた二人だが、その猛追もここで打ち止めだった。
――春祭りの中心地となる5区。
7区より人口密度が高いそこには、多様な魔力が混じり合っている。
「問題はこっからだ」
王都を縦横に走る十字路が見える。接続する7区の道幅は広がり、職人街の終わりが近いことがわかった。
地面を掘削し、リッカは速度を殺した。あの勢いで春祭りに突入はできない。
「ここからは歩きだな」
「手元はどうしましょうか」
「人混みのなかで隠すしかねえよ」
(……どうしても不安は残りますが)
いざとなれば、リッカの感知能力がある。
頼みの綱があることで命は前へと歩けた。5区から溢れた観衆が疎らに混じる道を、何食わぬ顔して進んでいく。
それを観衆と勘違いしたままに。
「――え」
俯きがちな面差しに表情はなかった。重みのない手足は鞭のようにしならせ、人に擬態した【式紙】が二人を襲った。
「来るぞ!」
咄嗟に回避に移るも手錠が邪魔をした。
二人は左右に足を引っ張り合う形になる。その隙を逃さず、【式紙】は紙の腕をリッカの左足に絡ませた。
「リッカ!」
奇襲に遅れて命が迎撃に入る。
【呪術弾】を形成する靄を広げるも、直ぐに形を成さずに霧散した。
「な――ッ!」
後方から伸びた紙の腕が絡まり、命も右手の自由も奪われる。
あの人も、その人も人間ではない。
わらわら湧き上がる顔なしは、すでに命たちを包囲していた。
喧騒は聞こえども、気付かれない。
ここはまだ7区の出口部分であり、5区への道は顔なしが抑えていた。
そして音もなく【式紙】が攻勢をかける。
無数の紙の触手が二人に絡み付いた。
(これ窒息――)
嫌な予感が命の口元を覆う。
触手が顔面を巻き付いていく。一重、二重と顔が締まる。
理事長室に呼ばれたときと同じだ。
抗えない力に押される恐怖が、ひしひしと命の胸を満たす。
左側のリッカも同様だ。
わずかに青褪めた顔つき。鋭い鷹の目も弱まっていた。
(わたし……が……動かなくては!)
その強い意志とは裏腹に、命の身体は言うことを利かない。酸欠の頭は痛みを訴え続け、視界がぐにゃりと歪んだ。
もはやこれまでかとおもわれた矢先、
「――ったく。何してんだよ、鷹女」
皮肉を込めた救いの声は、熱を連れて耳へと響いた。
石畳を尾びれに似た炎が走り、接触した顔なしが燃えさかる。水面下に潜む鮫が襲いかかるように、続々と尾びれが顔なしを燃やしていった。
「けほっ、はあはあ」
拘束が解かれて地面に落ちると、酸素を求める荒い呼吸が続いた。絶え間ない燃焼音を耳にしながら見上げた先には、彼女がいる。
「ハロー命たん。大丈夫かい」
初対面のときはまるで違う。
温厚な笑みで朱色のショートヘアを揺らす。
「悪のカリスマが――」
己をそう自称して憚らない彼女は、足元を揺れる炎の出力を上げた。
赤く揺れる。敵を討つ準備はとうに済んだ。
「午後三時をお知らせするぜ」
灼熱の焼き菓子タイムが始まった。
◆
買い出しを終えて一度は実家の菓子屋に戻るも、ルバートはあの光景――リッカが鬼ごっこのように命を追う――に引っ掛かりを覚えていた。
「やっぱり物取りだったようね」
いち早く情報を掴んだ母親が注意を促した。
例の物取りがどの様な風貌をしているのか、その説明を聞いている途中で、ルバートは矢も盾もたまらず駆け出していた。
「違う。命たんは盗みなんてしない!」
母親の制止を振り切り、弾丸の勢いで。二人の足取りをなぞるように7区に入り、そしてルバートはついに二人を見つけることに成功した。
「だらしねえな。天下の才媛さまともあろうお方が」
「うるせえな。この小悪党」
感謝の気持ちはあれど、相手が悪かった。ルバートの前で醜態を晒したということが、どうしても悪態へと繋がった。
「命たんは平気かな。絆創膏は要るかい」
「いえ、お気持ちだけいただいておきますね」
「……なんだよ、この差は」
リッカのうんざりとした視線に、さも当然とルバートは応える。
「命たんと私は親友だからな」
「おい、そうなのか」
「……そうですね」
(知らぬ間に、変なあだ名まで付けられています)
演舞場で助太刀した一件を命は軽く考えていたが、ルバートは深い恩義を感じていたようだった。
「うむ。その銀髪もとても似合うな」
「あ、ありがとうございます。」
ルバートの好意を無碍にもできず、命は曖昧な笑みを浮かべた。
「趣味悪っ! 友達は選べよ」
「そうだな。くせっ毛のデカ女とか、命たんは友達を選んだ方が良いな」
「なんか言ったかよ、猫目」
「聞こえないのかよ、鷹目」
ネコ科と猛禽類が睨み合う。バチバチと火花を散らす両者の間に、「まあまあ」と命は仲裁に入った。
「そうだな。手前と遊んでる暇はねえ」
「それが恩人に対する口の聞き方かよ」
「チッ……ありがとよ」
「チッ……どういたしまして」
(なんて刺のある感謝の応酬)
吐き捨てるような言葉遣いだった。二人にすれば日常会話であっても、傍目から見れば喧嘩にしか思えない光景だ。
「行くぞ、命」
「おい。ちょっと待てよ」
背中にかかる言葉を無視して、リッカが手錠を引いた。
――次の瞬間。
鷹と猫の瞳が驚愕に染まる。
ひらりと紙吹雪が空から舞い落ちる。それは接地する前に人の形を成すと、再び顔なしの集団となって命たちの行く手を阻んだ。
「また、ですか」
目前の脅威に命がこぼすと、鷹と猫は声を揃えて否定する。
「違う」
飛躍する現実を信じられない、と。
唇の端を持ち上げながら続けた。
「――もっとだ」
重なり合う悲鳴が開始を告げる。
春祭りの喧騒は恐怖で彩られ、王都を覆う空気が一変した。
「何ですか……これ」
二人に遅れて命も気取った。
膨れ上がる魔力に肌がざわつく。
日差しを反射して煌めく紙吹雪。見上げた空を舞う白い紙片は、群れを成して延々と降り注いでいく。
「そういうことなんだろ」
直後、爆発音が命の耳朶を打った。
赤黒い花が咲く前方には、焼き焦げた顔なしがいる。
「ルバート」
「わかってる」
二人は短く言葉を交わす。
深呼吸を繰り返すルーティン。
ルバートは、静かに猫の瞳を燃やした。
「ここは任せとけ」
炎が道を切り開くと、真っ直ぐに走る。混乱する人波を掻き分けて、命とリッカは悲鳴のるつぼと化す5区へと突入した。
◆
「――させると思うかよ」
混乱する王都の中心でつぶやく主は、慌てることなくテラスで踏ん反り返る。マグナは飲み干した紙コップを握り潰した。
対面のワルウの待機令は解かない。
祭りの花火が咲き誇る前に邪魔立てしては、主役に対して失礼に当たるからだ。
「さあ出番だぜ」
びくりと、背筋を震わせたワルウが立つ。
半分寝ていたのか、口元には涎のあとが見えた。
「……いや、お前じゃない」
申し訳なさ気な声を聞くと、ワルウは無言でいそいそと着席した。
◆
逃げ惑う人の波に逆らい進む。
肩がぶつかり、足を踏まれてもなお、命とリッカは北上することを止めない。
「良いのですか!」
「そうする他ねえ!」
周囲の声に飲まれないよう、怒鳴り声で互いの意志を確認する。阿鼻叫喚とまではいかないものの、陽気な春祭りの面影はそこにはない。
なかには果敢にも【式紙】に立ち向かう者もいたが、多勢に無勢である。セントフィリア住民の大多数は、すでに魔力摘出手術を終えている。
戦力となる魔法少女の数は少なく、大人が武器を片手に立ち向かったところで、【式紙】は切れも破れもしなかった。
「きゃあ」
紙が絡んだ女生徒の声が上がると、命は【呪術弾】で顔なしを撃ち抜いた。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
乙女の微笑を応えるも余裕はない。侵攻してくる敵の数はあまりに多く、【呪術弾】の連射も自棄っぱちに近いものがあった。
「さっさと行くぞ」
「わかってますよ」
その人助けすら咎める左手の声には、命も思うところがないわけではない。
(理屈はわかりますが)
式神を破る方法は大まかに分けて二つある。
一つは式神自体を壊す手段。
これが最もポピュラーな手法であり、破壊後に術者へ反動が返ってくるのが特徴である。
もう一つは術者を叩く手段。
魔法は精神力に依存する面があるため、術者を叩いて式神とのリンクを断つのが目的だ。この場合、反動は返ってこないが、一度に多数の式神を壊せる利点がある。
――と、ここまでなら教科書通りなのだが。
それらが選択できないのが問題だった。
数から見るに複数の術者がいるのは明らかである。オマケに【式紙】は式神のなかでも反動は薄い部類として知られている。
「だらあ――ッ!」
カフェ・ボワソンの女神もこの時ばかりは声を荒らげた。【式紙】に向かって風の刃を突き立て、鋭い突風を吹かす。何もリッカも無情なわけではない。
「こうやって足を止めずにやるんだよ」
「……そんな無茶な」
求めるものが高すぎる。人波を掻き分け、足を止めず、魔力を練る。これは言うほど簡単にできる芸当ではなかった。
「なら黙ってついて来い」
「亭主関白ですねえ」
「まだ余裕ありそうだな」
お互い控えめに白い歯を見せ合う。
切迫した状況が続く今だからこそ、その下らないやり取りには意味がある。
(それにしても、リッカの消耗が激しい)
続け様に魔法を行使した代償なのか、或いは左腕の負傷が響いているのか。一息ごとにリッカの呼吸が深くなっていた。
「さっさと先に進もうぜ」
北から南に侵攻する顔なしの軍勢を囮として、本丸は北上しているとリッカは睨んでいた。レイア姫をさらう【式紙】の撃破を最優先として、二人は先を急いだ。
「ああ、うざってえ」
倒せども倒せども湧いてくる【式紙】に、八つ当たりするように風の線が走る。命も微力ながら【呪術弾】で援護した。
「おい、冗談じゃねえぞ」
愕然とした声音につられて空を見る。その光景には、疲労がにじむ命ももはや笑うしかなかった。またもや、第二陣となる紙吹雪が揺れ落ちてくる。
絶望が空を舞う光景に誰もが息を呑んだ。
疲れた顔に影が差す、まさにその直前。
荘厳な鐘の音が王都中へと鳴り響く。魔法石のスピーカーを経由する音色は、無数に重なり耳に吸い込まれていった。
「何の音ですか」
命を始めとしたよそ者たちが困惑するなか、地元住民の顔には希望が差し込んでいく。
希望は絶望より天高くにあった。
杖に跨る英雄の姿は小さけれど、緋色に輝く髪色は存在感を失わない。
“鐘鳴りの乙女“の一員――マグリア=マグマハートは、我はここにありと主張する。晴天に瞬く無数の赤い星は、全ての準備が整った証拠だ。
「ばきゅーん」
発射の合図が空から響く。
その数、千に及ぶ【火矢】が空から降り注ぎ、王国に仇なす敵を居抜き、燃やし尽くした。
地の立つ全ての者は瞳を灼熱に照らし、天に届けと、歓喜の声を空へと押し上げる。
たった一人で戦況を引っ繰り返す実力。
命は誰の説明を受けるでもなく理解する。
黒曜石の瞳を灼熱に染めて静かにつぶやいた。
「あれが……正規の魔法少女」
それは、命が初めて見る正規の魔法少女の姿だった。
◆オマケ:緋色の空を見上げて◆
7区の孤独な戦いは続いていた。
自身を、敵を誘う篝火にするべく、ルバートは余分に魔力を燃やす。
「くくくっ……良い感じに燃えてきたな」
テンポ良く顔なしを焼却することで気持ちは昂っていく。調子は悪くないが、エンジンを温める速度が早い。ガス欠が迫る恐怖が脳裏をちらついていた。
「私を誰だと思っている」
前方に飛びかかる顔なしを小爆発に巻き込み威嚇する。
それ以上入ってきてみろ、と。
燃やされたいのかと警告を送る。
「この悪のカリスマを止めたくば」
たかだか紙ペラ数十枚の障害、その程度で止まるわけにいかない。志は遥か高く、魔法少女の狭き門の先へ。もうエンジンは回り出したのだ。止まれるべくもなかった。
「桁が一つ足りない――ッ!」
足元に貯まる火だまりを持ち上げる。
「闇の炎に抱かれて消えるが良い!」
前方に投げ飛ばした炎は波打ちながら、一挙に顔なしを呑み込んでいった。
「不滅の炎を囲え、さあ宴の始まりだ!」
良い感じに厨二スイッチが入り、舌の脂は上々、気分も上々である。
「くくくっ……その程度か。暖炉にくべる薪にもならんな」
燃えろ燃える、と景気良く炎を生み出す。
そうやって調子づいて【式紙】を殲滅していた結果、次の事態にルバートは口をあんぐりすることになった。
「……うそん」
第二陣の紙吹雪が空を舞っていた。
空をはためく【式紙】の多さに面食らい、ルバートの仮面が一瞬外れかけた。
「いや、確かに言ったけどさ」
桁一つ増えたら、泣くしかない。
ガス欠の未来がいよいよ現実味を帯びてきた。
「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおお!」
背水――いや背炎の陣で魔力を燃やすまで。
こうなれば街の景観を壊すことも覚悟の上だ。【マグマスライム】を召喚して爆発オチでも、一向に構わんとルバートは腹をくくる。
ふしゅーと、猫が吐息するなか。
唐突に空からそれは降り注いだ。無数の【火矢】が【式紙】を殲滅していく。
「まさか……覚醒したのか」
――私の秘めたる力が。
と、妄想を膨らませていたルバートだが、ふと上空を眺めて誤りに気付く。
「うおおお! マグリアキターッ!」
敬愛して止まない憧れが空にいる。
自分の健闘を讃えているようだ、とルバートにはそう思えて仕方なかった。
「やったー。頑張った私へのご褒美だー」
純真な乙女の笑顔が光る。
今はまだ手は届かなくとも、いつかはあの憧れの存在へと。
その高みを夢見て、乙女は跳ねる。




