第37話 その手に魔法がなくても
リッカが説得に応じてくれた。
その喜びからついテンポよく階段を登ってしまう命は、演舞場に置いてきた問題のことなど綺麗さっぱり忘れていた。
演舞場3階に上がった瞬間。
そこには殺気立った空気が辺りに広がっていた。
殺気の発生源には、イルゼがいた。彼女は全身から隠すことなく苛立ちを漏らし、前方の人物を睨め上げていた。
(まあ、忘れていても問題ないのですが)
イルゼの殺気の向き先は命ではない。
その鋭い感情の切っ先は、1-F担当教員に向いていた。
「だったら手取り足取り教えてやるよ、テメエの身の程ってやつをな」
牙を剥く担当教員に足取りに釣られ、イルゼは白線の前に出る。
四角く区切られた白線の中央、その南北から5メートル離れた位置にある二本の開始線。そこに着くことは決闘を意味している。
「それでは胸を貸して貰いますね、先生」
「ほざけ。そんな殊勝な気持ちなんて一欠片も無えくせに」
コート中央で、マグナとイルゼの視線が火花を散らす。
そこに集団の視線が釘付けになるのを良いことに、命とリッカはこっそり講義に紛れ込むことに成功した。
「ふう。これでお咎めはなしですねえ」
「なるほど。手前の人となりがよくわかった」
ひそめ声で二人が話していると、那須が小走りで近づいて来た。
彼女はどこか落ち着きのない様子だ。
「あの……大変なの、命ちゃん」
「大方イルゼさんが講義にいちゃもん付けたのでしょう」
慌てる那須に対して、命は平然と答えた。
「命ちゃん……見てたの?」
「見てなくてもわかりますよ」
状況は命の予想通りに転がっていた。経過はわからずとも結果はドンピシャ。上々の出来に命はわずかに唇の端を持ち上げた。
「なるほど。これが勝率100%か」
半眼で嫌味っぽくリッカがつぶやく。
「手前、元からこれを期待してたな」
「この構図に収まるのが、一番自然ですからねえ」
自然な構図――その言葉にリッカは疑問を呈す。
「そうか、本当にそう言い切れるのか? イルゼが喧嘩を売らない場合もあれば、紅花が買う場合だって考えられるだろ」
命は一言「あり得ない」と断言した。
自尊心の高いイルゼのことである、必ずどこかで名誉挽回を図る。一度名声を得てから落ちたのだから尚のことだろう。
「一〇〇〇万……この国ではイェンですかね」
命は一例を挙げて説明した。
一〇〇〇万イェンを道端で拾うも途中で五〇〇万イェンを紛失した者をA、もう一方で初めから三〇〇万イェンを拾い上げた者をBと仮定して説明する。
「このときに効用……満足度ですね。満足度が高いのは圧倒的にBなのですよ」
「ほう、イルゼはこの状況が不満だと」
「あの……でもAの方が得をしているんじゃ」
「人間って、そういう生き物なのですよ」
自尊心が満たされないイルゼが行動を起こすことは、目に見えていた。
「すると、次にイルゼさんが打つ手は何だと思います?」
「当然報復だな。自分のことを苔にした実行犯を殴るのが一番手っ取り早くて、わかりやすいからな」
「たっ、……大変だよ命ちゃん!」
「大丈夫ですよ」と、命は那須を優しく宥める。
「私は姿を隠していましたからね。それじゃあ喧嘩を売れないイルゼさんは、この後誰を標的にするでしょうねえ」
「次に狙うなら不良教師か、紅花だろうな」
「いえ、この場合はマグナ先生一択です」
気の短い紅花が腹を立てる絵が見えても、それが喧嘩に発展する構図までは、命には見えてこなかった。
「紅花さんには、小喬さんと那須ちゃんという二人のストッパーがいますから」
「それに」と、命は那須を見遣る。
「イルゼさんが喧嘩を売った口実は、『内部進学生には基礎は不要』でしょう」
「確かに……そうだけど」
魔法弾の撃ち放しのときのやり口から、命はイルゼの次の一手を見越していた。そうやって自分の実力をひけらかすのも、彼女の目的の内だろう、と。
「外部入学生の小喬さんの撃ち放しを手伝う紅花さんが、その意見に賛同するとはとても思えません。彼女なら、まず外部入学生の身を案じる筈です」
「……言われてみれば、確かにそうだが」
難しい顔をする二人に、命はシンプルな答えを出した。
「あれやこれや言いましたが……一番の理由はマグナ先生でしょう。あの人が自分を苔にした相手を殴る機会を見逃す筈ないですから」
「だろうな。あの不良教師なら、真っ先に噛み付く」
「まあ、そんなわけでして、この構図の出来上がりです」
証明終了を告げる命であったが、二人の顔は変わらず険しかった。
「あれ? 何か変なところがありましたか」
「気にするな。変なところはねえよ」
「あの……私も大丈夫です」
二人は話の内容をきちんと理解していた。
理解していたからこそ、より困惑していた。この話を通じて、一番おかしいのは命である。幾重にも分岐する未来から、難なく正解を引き当てたのだから。
イルゼを煽っていたあの時から、命は未来を見ていた。
1-F東洋魔術師の筆頭を自分に上書きした挙句、紅花に被害が及ばないよう気遣いまでして。
不測事態と女心の読み外しを除けば、命の読みは怖いほどに冴えていた。
呑気に観戦に混ざる命に、二人は背筋を寒くする。八坂命という人物が持ち合わせていた怖さは、魔法の腕前などではなかった。
黒髪の乙女は、可憐な小悪魔。
人を手のひらの上で転がす術を持ち合わせていた。
◆
これは講義の一環である。そんなもっともらしい理由を付けられては、1-E担当教員である白石も諦めるほかなかった。
「けったいなことはしいなや」
「ぶっ――潰すッ!」
ガチンと両拳をぶつけて鳴らすマグナを見て、白石は表面上はため息をついておいた。生意気な生徒を預かる身としては、心情はマグナ寄りである。
「ほな、講義は一時中断や。全員注目。これからエキシビションマッチやで!」
トントン拍子でお膳立ては進み、かくして教師公認試合は幕を開けた。
「レディース&ジェントルメン――って、男がおるか!」
司会の白石はセントフィリアの伝統的な冗談を飛ばして観客を温めていたが、命は真顔だった。隣のリッカは喉を鳴らして笑っている。
「みんな! この試合が見たいかーっ!!」
おおー、と女生徒が元気良く応えた。
お祭り大好きな女学院生の血は、一年生にも脈々と受け継がれているようで、女生徒は大いに沸き立った。
二度、三度と、観客と掛け合いを繰り返すと、白石は開戦を告げる。
「オーケーや! その血が滾るままに行こか。教師公認試合――開始ッ!」
開戦と同時にイルゼが仕掛ける。
彼女が放った【水泡弾】が斜め上から着弾した。
『先手はイルゼ。ただ少し短いか!』
黄色いメガホン片手に白石が解説を入れる。催し物とはいえ、こうして女生徒に魔法の使い方を教えるのも仕事の内だ。
「ふん、黙ってなさい」
イルゼが水の魔法弾に【氷化】を重ねると、飛び散る水滴は無数の針となりマグナに襲いかかった。
「洒落臭え――ッ!」
右足を気合一閃。
マグナの中段蹴りが氷の針を弾き飛ばした。
『出たー! 防刃仕様ジャージや! ちなみにウチが誕生日にあげたお揃や』
序盤から魅せる二人に飛ぶ歓声。司会の告白を囃し立てるように混じる口笛。殺気を飛ばす場内と場外の温度差は激しい。
「前々から思っていましたが、この女学院おかしくないですか」
「気にするな。手前もじきに慣れる。中等部からずっとこうだ」
場内の二人の足は止まらない。
魔法弾の撃ち放しで炸裂した【氷の槍】が飛ぶと、マグナは上体を反らして避けてみせる。
「きゃあああ~! こっちに来ますわ!」
流れた【氷の槍】が迫り、女生徒は楽しげに悲鳴を上げる。
「おっと」
白石の指先から魔法弾が発射された。
透過性の高い橙色の魔法弾は女生徒の前で展開し、【氷の槍】を防ぐ壁となる。ドヤ顔する白石に黄色い声援が上がった。
『これが東洋系の防御魔法【結界弾】や。午後の講義で教える予定やねん』
「あれが【結界弾】ですか。便利そうですねえ」
以前不発に終わった魔法に、命は目を見張っていた。
「飛ばせる結界だから利便性は高いな。東洋系の魔法少女しか使えない、限定魔法でもある」
「限定……なんて心惹かれる魅惑ワード」
隣に立つ好奇心旺盛なちびっ子が目を輝かせていたが、リッカは気にしない。座敷童か何かだと思いスルーした。
「一時展開型の防御魔法は、東洋魔術師の特権だ。覚えておいて損はねえ」
「一時というからには、常時もあると?」
「それは――見てれば今にわかる」
四角い白線内では、マグナがイルゼに肉薄していた。
魔法の行使直後の隙をつき、相手の懐に潜り込んだ形だ。
「くたばれ――ッ!」
『生徒相手に情け容赦無しにいったあああ! 殺人右ストレート!』
肩口から真っ直ぐに放たれるマグナの右拳。
仕留めた――と、命は確信とともに拳を握る。
「ふーん。バカなんじゃない」
しかし、マグナの拳はイルゼに薄皮一枚届かない。
壁を殴ったような鈍い音だけが、辺りに響き渡った。
「――ッ!」
即座に水魔法によるカウンターが発動する。
真横から湧いて出た【水流】に飲まれ、横滑りしたマグナの身体が水にさらわれる。
「じゃあね、元魔法少女さん」
イルゼの手元から凍りつく【水流】は、ものの数秒で波打つ氷の彫像と化した。演舞場を漂よった冷気が控えめに煌めいた。
『イルゼの水魔法が吠えたあ! |【水流】から【氷化】のコンビネーション!』
観客までもが氷付けになるなか、氷爆の裏側からマグナが顔を出した。
「危ねえな、生身の人間を殺す気かよ」
「マグナ先生なら大丈夫でしょう。防刃仕様ジャージありますから」
「お生憎、それほど高性能じゃねえよ」
すんでのところで脱出に成功した彼女は、イルゼと憎まれ口を叩き合った。
「この制服、そんなに高性能だったのですか!」
「さすがです……魔法女学院の制服」
「阿呆なこと抜かしてないで、集中しろ。目を凝らしてイルゼを見てみろ」
女学院の制服の高性能説を否定され、軽く沈む。
気を取り直して、命は目を凝らしてイルゼの身体に見詰めた。
「青い膜……薄く引き伸ばした魔力ですか」
「そや! あれが魔法少女の基本防御魔法【羽衣】や。よう覚えとき!」
命の言葉を踏み台にして、司会の白石が解説を入れた。
『魔力を羽織れば、ご覧の通りや!』
距離を詰めたマグナが何度拳を突き立てるも、イルゼの薄皮一枚ほどの【羽衣】がその拳をことごとく弾いた。
『物理防御から防寒防熱、魔法の威力軽減まで何でもござれの防御魔法。これ無しで魔法合戦とか、阿呆な真似せえへんようにな!』
「――だってよ」
短く繋げたリッカの言葉に戦慄を覚える。
生身で魔法の脅威に挑む。命は正しくその阿呆の体現者であった。
「手前は凄いよな。生身だもんな」
「そんな便利な魔法があるなら、先に教えて下さいよ、リッカ!」
「いや、教える暇なかっただろ」
命は悔しさから歯を食いしばる。
最大時速60kmを越える空中レースは寒かったし、演舞場で燃え盛る火の魔法も熱かった。そして何より何度も掠める魔法に死の一文字も過ったというのに。
(それが何ですか。この魔法一つで解決って)
言い知れぬ理不尽さに命がうち震えていると、白石が補足説明を入れた。
『更にお得な特典がもう一つ! 【羽衣】は身体能力向上機能付きや!』
「……私の筋肉痛を返して下さい」
吹き荒ぶ風から逃げ続けた勲章も、魔法で身体強化すれば得ることはなかった。その悲しい事実に落胆し、命は肩を落とした。
「――チッ! ちょこまかと鬱陶しい!」
「何べん突き立てても無駄だ。あんたの拳なんて通りやしない」
二人の攻防を見れば、【羽衣】の有無による差は明らかだった。
洗練されたマグナの拳が届く前に、軽快にイルゼは後方に逃げていく。
――魔法少女は遠距離砲台たれ。
その教えに背くことなく、イルゼは距離を取る。
距離を取っては【水泡弾】と【氷化】の複合技を中心にマグナを攻め立てた。ワックスがけされた床を水が叩いては凍りつく。
『ラッシュ、ラッシュ、ラ――ッシュ!辛くも避けるが、これは時間の問題か』
隙を見ては突撃を繰り返すも、マグナの拳はイルゼの【羽衣】の絶対防御の前に沈黙する。担当教員が劣勢に立っているのは誰の目にも明らかだった。
不安げに見上げる那須の頭を、命は安心させるようになでる。その様子をリッカは面白くなさそうに横目で眺めていた。
「大丈夫ですよ。マグナ先生は負けませんから」
「残念だが【羽衣】をまとえば、鉛球も通らねえからな」
不機嫌そうなリッカを、命は睨んだ。
「何で、貴方はそういうこと言うのですか!」
「事実だからだ。魔法少女しか居ないこの国には、とにかく物理防御に重点を置いて防御術式を発展させてきた歴史がある」
「なるほど。前衛がいませんからねえ」
「そういうこった。魔法少女に物理で挑むのは愚の骨頂だな」
納得しかけて、命はハッとする。
隣の那須が泣きそうな顔をしていたので、即座に訂正の言葉を入れた。
「違います! 物理も通りますから!」
「ほう……なら手前は何故通ると言い切れる」
「本当に【羽衣】が完璧なら、【結界弾】は不要な筈です」
命の悪くない答えに、リッカは口角を持ち上げた。
「答えは――元魔法少女に見せて貰おうか」
耳聡くリッカの挑発的な言葉を拾うと、マグナが反撃の狼煙を上げた。受け持ちの女生徒に舐められて務まるほど、セントフィリア女学院の教職は甘くない。
『いった! いった! マグナがいったーっ!』
拳の衝突面を平らにしたナックルパートが吹き荒れる。
マグナは小刻みに床をかち上げながら、イルゼを中心にして円の軌道を描く。
「無駄だと言ったのに。馬鹿め」
「……る。……る」
昔の先頭スタイルの名残から、マグナは己と外界を断ち切っていた。天井なしに集中力を高める彼女の耳には、イルゼの声など届いていやしない。
燃える瞳は弾け飛ぶ汗の一滴すら見分け、極限まで絞り上げた身体は数mm単位で出し入れを行う。
魔力、攻撃力、防御力。
その全てにおいてマグナを上回るイルゼの顔には、焦りが浮かび上がりつつあった。無防備な人間を倒すのに必要な一発。その一発が果てしなく遠い。
「しつこい……早く当たれよッ!」
「……ぐる。……ぐる」
絶対の回避率を誇る体育教員は当たらない。
立て続けに量産したイルゼの魔法群は、全て不発という結果に終わった。
短距離間を高速移動するマグナは、幾度と無くイルゼの視界を出入りする。その度に無数の拳音が響いた。
生身の人間が魔法少女を圧倒する。
その光景に、命は我が目を疑った。
「何で……当たらないのですか」
「ドライバーの性能が違うんだよ。肉体が高性能でも意味がねえ」
【羽衣】で強化した身体を持て余すイルゼと、鍛錬で高めた肉体をフル活用するマグナでは、両者の差は歴然だった。
『あ、当たらな――いッ! これぞ体育。THE体育教員の鏡!』
観客が今日一番の盛り上がりを見せた。
【羽衣】の上からの打撃の効果はゼロに近い。その事実を知っていても関係はない。今、観客は一人の体育教員に魅せられていた。
「これ……勝てるのじゃありません」
そのつぶやきは誰のものでもない。女生徒の集団から漏れ出た声だ。
肉体一つで圧倒する体育教員に、女生徒たちは勝機を見出し始めていた。理屈はなく、根拠は単純。
ただ――マグナの負ける姿が想像できなかった。
風向きの変わり目を感じると、自然とイルゼの肌が粟立つ。頭のなかでは積み上げた自尊心が崩れる音が響ていた。
「当たれ、当たれ――ッ!」
半狂乱で【水泡弾】を乱発するも当たらない。
精神の揺れが反映される魔法弾の歪みをマグナは冷静に観察する。
マグナは魔法少女を熟知している。
魔法少女は遠距離砲台たれ――その言葉は耳当たりこそ良いが、実践の対人戦においては、距離を潰せば役立たずになる教えである。
次第にイルゼの恐怖が増幅する様を見て取ると、マグナは拳筋を変えた。腹部中心に散らしていた拳の軌道を、上へ上へと修正する。
(えげつないですが、非常に理にかなっている)
顔面狙いの拳。
その恐怖が、命にはよくわかる。人間の習性上、顔面に迫る物は恐怖を招く。武道においても顔面への攻撃に身体が硬直する現象は多々見られる。
揺れる蒼い瞳を、欧州人らしく通る鼻筋を、マグナは躊躇なく叩きにかかる。このころには恐怖が差し込み、イルゼの表情は強ばっていた。
高速移動する獣が近づく。
二足歩行の拳を持つ獣は、イルゼの横を通り過ぎる際に囁いた。
――殴る。
ただ一心不乱に繰り返す獣の言葉をイルゼは聞いた。
そして見た。マグナの燃え上がる双眸を。
「ひぃっ!」
眼前に迫る拳に、イルゼは反射的に両腕を上げた。
動物的本能が彼女を守らせた。
「決まった」
最高潮の場面に観客が目を奪われるなか、命とリッカは声を揃えて終わりを告げた。
「え――」
上段に気を取られたイルゼは、容易くマグナの足払いで回転した。
急激な視界の回転、身体中を汚染する恐怖。
それはイルゼの集中力を掻き乱すには余りある要因だった。
青色の【羽衣】が宙へと解けていく。
ようやく来た。その時を待ち侘びたと。
マグナは口が裂けんばかりに笑う。
獰猛な犬歯を覗かせながら、ガシッとイルゼの後頭部を鷲掴みにした。
『あかん。それ以上はあかんで、マグナ!』
それは原始的な打ち落としだった。
イルゼの顔面が床めがけて叩き落とされる。
「うわああああああああああああああああ――ッ!」
ワックス掛けされた床に映る表情が、恐怖に歪みながら急激に近づいて来る。その恐怖に泣き叫びながらイルゼは事切れた。
「あーあ。だから忠告したのに」
命の予言に沿うように、演舞場の床には気絶したイルゼが転がっていた。
「落としやしねえよ、どうやら面倒なことに――あたしは、教師なんだよ」
ニヒルに笑う体育教員の勝利宣言に演舞場3階の女生徒が震動を起こす。1-F担当教員はたとえ魔法を使えずとも、素手で魔法少女を制圧したみせた。
「本当にこの人は最強ですねえ」
「血染めの橙色のあだ名は伊達じゃねえってこった」
「マグナ先生……格好いい」
――後日。
この一件が露呈したマグナが、白亜の城中の清掃を言い渡された上で始末書処分となったのは、また別のお話。
女生徒間の行き過ぎたマグナの評価は失墜し、いつも通りの問題教師へと戻った。ただ少し変わった点があるとすれば、マグナの講義は少し真面目になった。




