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その四十七

 みんなが一斉に姿勢を低くする。


「姿勢を楽にして欲しい。ブランターク侯爵、遠路はるばるよくぞ参られた」


 急いで国王陛下とブランターク侯爵の会話を通訳する。


『ヘルメア公国ブランターク領の領主、ノーツ・ブランタークです』

「二度も挨拶をさせてすまない。我が国との交易窓口として世話になり感謝している」

『めっそうもありません』


 グランデ国王は丁寧に挨拶を終えると、横に立つガビン王子へ顔を向ける。


「ガビン。事務官よりいきさつを聞いた。余にもその手紙を読ませてくれるか」


 ガビン王子から手紙を受け取ると、内容を確認して顔色を変えた。


「なんと、頼りにしていたウォルタナ卿の死因が事故ではなく殺害されたとは! これはまことか!」


 グランデ国王から手紙を返却されたので、わたくしは便せんを両手で広げて叔父様とサンドラ様へじっくり見せる。


「で、で、でたらめだ! ぼ、僕はこんな殺人の手紙なんて知らない!」

「でも叔父様。これは叔父様のサインですよね?」

「お、おかしいな。サインは僕だけど、この手紙は書いてないよ」


 決定的な証拠を突きつけたにもかかわらず、叔父様は幼稚な反論をして抵抗する。

 しかし、サンドラ様は違った。


「馬鹿を言わないで! 仮にこの手紙が指示書だとしても、あんたの父親が殺害されたという証拠は一体どこにあるのよ!」

「そ、それは指示書が……」


「だいたい犯人は誰よ? その捕まえた男が犯人の証拠は? どうしてそんな指示書だけで殺人だったと断定できるのよ。指示書があっても殺人はされずに、馬車が事故にあっただけかもしれないじゃない」


 やはり犯人だと断定する証拠がないと主張された。

 犯人はこの大男に違いない。

 でも、取り調べ権限のないわたくしたちが勝手に拷問することもできず、自白が得られていない。

 叔父様だけなら自供させられるかもと思ったけど、サンドラ様には通用しなかった。

 サンドラ様が勝ち誇ったように上から目線で笑みを浮かべる。


「グランデ国王陛下! この女は辺境伯であるお父様を怨恨で陥れようとしているのですわ! 手紙を偽造して陛下を欺こうとしています!」

「そ、そんな! わたくしは真実を……」


 わたくしが言いよどむと、彼女は手の甲を口に当ててカラカラとあざ笑った。


「いくら手紙で指示したと捏造しても、犯行状況が分からなければ、手紙の通りのことが起こったと立証できないのよ? あなた馬鹿じゃない?」

「……」


 まただ。また、わたくしはこの女性に言い返せない。

 伊達眼鏡がないとぜんぜん駄目で。


 ……このままわたくしは、彼女を乗り越えられずに終わってしまうの?


 みんながわたくしに注目していた。

 サンドラ様や叔父様は敵意に満ちた視線で睨みつけてくる。


 だけどお父様もスチュアートお義兄様もブランターク侯爵も、優しい表情で心配してくださっていた。

 頑張れと。

 負けるなと。

 声には出さずとも、わたくしを応援してくださっているのが伝わる。


 そして一際優しさの込められた視線を感じた。


 ユーリアスお義兄様。

 離れた位置からでもわたくしへの愛情が伝わってくる。

 彼が与えてくれる勇気が、確かな想いが届いた。

 お義兄様やみんながいるなら彼女を乗り越えられる、そう強く思えた。


 わたくしには……助けてくださるみなさまがいます!


 覚悟は決めたが、これ以上の物的証拠はない。

 どうすれば……。


 なんとなしに胸のペンダントを触ると、通訳魔法の魔力に反応してわずかに薄い紫色で光る。

 このペンダントには二回も助けられた。

 一度目は、サンドラ様のパーティで暴漢に襲われたとき。

 二度目は、ウォルタナで人さらいにあって監禁されたとき。

 どちらも魔力で強く光って、お義兄様に窮地を知らせてくれた。

 でも人さらいに監禁されたときは、部屋でただ光らせても助けを呼べないから困って……。


 そうだ!

 いるわ!

 もうひとり、わたくしには頼れる証人がいました!


 ハンドバックからお父様の遺品のペンを出してぎゅっと握る。


「サンドラ様! この手紙は間違いなく賊へ向けられた暗殺の指示書です。そして前ウォルタナ卿であるお父様は、その指示書の内容通りに殺されました。それをここで証明してみせます!」

「ど、どうやってよ? 犯人は捕まってないのよ? 無理でしょ、そんなの!」


「お父様っ! いらっしゃるのでしょう!」

「急に何なの? ねえ、どっちへ向いて話しているのよ?」


 わたくしはお父様のペンを握りしめ、空中に向かって呼びかける。

 謁見の間を見渡すように。


「いらっしゃるなら出てきてください!」

「気でも触れたの? あんたの父親はそっちでしょう?」


 しかし、サンドラ様の指し示す方向とは違う場所が青白く光る。

 私の目の前がきらきらと輝いた。


 青白い輝きは徐々に濃く人型になり、はっきりと姿が分かるようになった。


『シャルロッテ』

『お父様!』


 侯爵の通訳で使った魔法の効力が残っていて、亡くなったお父様の声が聞こえる。


『通訳魔法の力を貸して欲しい。霊力と合わせて私の声を陛下とみんなに届けたい』

『分かりました』


 わたくしは指示通りにもう一度、通訳魔法を使った。

 広がるピンク色の輝きとお父様から出る青白い輝きが重なる。

 ふたつの輝きが激しく混ざり合い、この謁見の間全体が神秘的な光の粒子で満たされた。

 お父様は幽霊の姿のままで姿勢を低くする。


『陛下、ご無沙汰しております』

「ま、まさか、こんなことが……」



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