その四十五
叔父様が何もしゃべらないので、ガビン王子が改めてブランターク侯爵に問う。
「侯爵はなぜバーナント家に滞在しているのか?」
『いま通訳されているシャルロッテ様と、以前に輸出入の詳細取り決めで頻繁に交渉していました。そういった事情で彼女を頼りました』
「以前に交渉していた? バーナント子爵の娘と交渉していたのか?」
わたくしに対する疑問だったので、自分の言葉で答える。
「わたくしは前ウォルタナ辺境伯の娘で、父の名代として貿易交渉を務めておりました」
「前ウォルタナ辺境伯は馬車の事故で半年前に亡くなっていたな」
「はい。母がバーナント子爵と再婚しましたので、バーナント家の娘となりました」
「それで侯爵が縁のあるそなたを頼って、王都のバーナント家に滞在しているのか」
ガビン王子の問いにわたくしが肯定すると、ブランターク侯爵がつけ加える。
『この国にはシャルロッテ様しか、面識のある方がいませんでしたので』
それを聞いたガビン王子が驚いて叔父様を見た。
貿易窓口の領主同士に面識がないと判明したからだ。
叔父様が慌てふためく。
「りょ、領主交代で忙しかったんです。だからその、き、今日を機会に仲良くします」
「おいおい、頼むぞ、ウォルタナ辺境伯」
ガビン王子は態度も言動も一見公平に振舞っている。
が、叔父様に強く言わない。
貿易窓口の役目に就いて半年。
なのに叔父様は相手国の窓口領主と会っていない。
国の利益を考えれば大問題のはずだ。
きっと王子殿下は叔父様の叙爵を推した手前、自らの判断を否定するようなことは体裁が悪くて言えないのだろう。
小手調べは終わりとばかりにブランターク侯爵がわたくしへ視線を送る。
いよいよ人さらいの事件に踏み込むらしい。
『それで貿易ですが、会談が拒否されて貿易交渉ができていません。さらには貿易どころか、もっと大きな事件が起きました』
「大きな事件? それは初耳だが」
侯爵はウォルタナ領でわたくしとディアナ様がさらわれて、隣国で奴隷になる寸前だったと殿下に説明した。
「なんだと! 奴隷売買は父上の号令のもとに一掃したではないか!」
『ですが、通訳をされているシャルロッテ様とご友人のディアナ・フォルタナ様は、実際にウォルタナ領で被害にあわれたのです』
「シャルロッテ嬢、ディアナ嬢! 貴族のそなたらが被害にあったのか⁉」
ガビン王子が信じられないと落ち着きを失う。
「はい、王子殿下。街でディアナ様といるところを拉致監禁されました。樽に閉じ込められ、国境を越えて売られる寸前でした」
「貴族令嬢のそなたらが樽に閉じ込められたのか!」
そこでディアナ様が手首を見せる。
「頬を叩かれて腕と脚をきつく縛られました。二週間経ちましたが、まだ薄く跡が残ってます」
わたくしも袖をまくって、縛られた痕の残る手首をさらす。
それを見たガビン王子が手で口を覆った。
「どういうことだ! ウォルタナ領の治安は一体どうなっている⁉」
盗賊が村民を襲ったのとは訳が違う。
れっきとした貴族令嬢ふたりが街で拉致監禁され、奴隷にされかけたのである。
わたくしたちの告白にサンドラ様が猛然と反論する。
「王子殿下、とんだでっち上げです! 大領地ウォルタナの首都街で令嬢が拉致されるなど、そんなことあり得ませんわ!」
「しかしだな、サンドラ嬢。シャルロッテ嬢の手首には縄の痕があるではないか」
「そんなもの、いくらでも自分でつけられますわ。彼女らにはでっちあげる動機があります!」
サンドラ様がわたくしを睨みつけて続ける。
「ありもしない犯罪をでっち上げるのは、ウォルタナ領主が変わったことへの意趣返しなのです。隣の友人は金銭で協力しているに違いありませんわ。ですわよね、お父様!」
「う、うん、もちろんそうだ。殿下、ぼ、僕の娘の言う通りです! 君たち! しょ、証拠もなくおかしな主張をするな!」
サンドラ様は間違いないと自信ありげに主張し、叔父様はおどおどしながら「証拠がないぞ」と言っている。
やけにサンドラ様の物言いが強い気がします。
必死に否定するということは、彼女も何か知っているのでしょうか。
そこへ壁際に立って警護中のユーリアスお義兄様が前へ出る。
「王子殿下。ふたりがヘルメア公国へ運ばれるところを私が救出しました。兄上、お願いします!」
「ああ分かった」
示し合わせた通りにスチュアートお義兄様が退室すると、ユーリアスお義兄様が続ける。
「ウォルタナ領主が主導して両国の税関役人を買収。賊を使って我が国で人をさらい、隣国で売買してブランターク領へ迷惑をかけていました」
サンドラ様がお義兄様の告白に目を丸くする。
このあと婚約するはずの相手からの追及。
しかも結婚したら義父となる叔父様に対して、王国で大罪とされる人身売買を主導していると告発したのだから。




