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その三十五

 お父様は殺害現場の山道で見つけたペンと一緒についてきたという。

 死んだ自分が姿を現せばわたくしを困らせると思ったが、危機になり姿を現したそうだ。


『すまない。賊たちを倒してふたりを助けたいが、幽霊の私には本やコップ程度の物を動かすことしかできない』

『……そうですか。でも、わたくしたちでも霊体の姿を見ることができるんですね』


『霊力で姿が見えるようにしている。ほかには、幽霊だから壁はすり抜けられるし、空も飛べる』

『ならば助けを、衛兵を呼びに行ってもらえませんか!』


『それはだめだ。衛兵は人さらいとグルだから』

『なんですって⁉』


 人さらいと衛兵がグル。

 にわかには信じがたい話だけど。

 驚くわたくしに対して幽霊のお父様は確信を持った様子で語り始める。


『私が鉱山の帰りに賊に襲われたのはもう知っているな。あのとき賊の頭が嗜虐心からか、「あんたの弟が邪魔だから消してくれってさ!」と暗殺の指示書を見せびらかしたんだ』

『弟って叔父様のことですか⁉』

『そうだ』


 叔父様がお父様を殺害した。

 それはきっと辺境伯の爵位を手に入れるため。

 いくら爵位が欲しくても、実の弟が兄を殺害するなんて。


 わたくしはお父様が殺害されてから、これまで起こった出来事のすべてを話した。

 お母様とふたりして屋敷を追い出されたこと。

 お母様が再婚して、わたくしにふたりの兄ができたこと、それらを順番に説明した。


『そうか。だから屋敷に戻らず、ホテルで寝泊まりしていたのか……』

『ごめんなさい、お父様。わたくしは辺境伯の爵位を守れませんでした』


『そんなことはいいんだ。それよりも、私が死んだせいで苦労をかけてすまなかった』

『……お父様』


『なんとしてでもシャルロッテを助けだす。それには、新しくできた兄のユーリアスを呼びに行くのが最善なのだな?』

『はい。お義兄様は白銀硬化の魔法を使える王国騎士です。いま助けを頼める人の中で、おそらく最強です』


 ホテルのレストランで一緒に食事をしていた男性だと伝えると、誰のことだか分かったようだ。

 だけど幽霊のお父様は人の声が出せない。

 お父様はこの事態を説明できないのだ。

 しかもユーリアスお義兄様にはお父様の顔が分からない。


 どうやって、現れた幽霊がわたくしのお父様だと気づいてもらうのか。

 どうしたら、わたくしが危機的状況で助けを待っていると伝えられるのか。


『お父様は幽霊だから、壁をすり抜けたり空を飛んだりできますよね?』

『ほかにできるのは、霊力で小さな物を動かすことくらいだ』


『幽霊でも物を動かせるのですか?』

『霊力で物を動かすポルターガイストという現象を起こせる』

『……ならば、これを持って行ってください!』


 わたくしはお義兄様からいただいたプレゼントに、ありったけの魔力を込めた。

 胸元で薄紫に光るそれをお父様が霊力で浮遊させると、わたくしの首からそっと外す。

 放たれる強い光はお父様が手の平で包んだことで遮られた。


『シャルロッテ、必ず助けを呼んでくる』

『お父様、お願いします』


 お父様は上手に床と扉の隙間からそれを運び出して、護衛任務で屋敷にいるお義兄様を呼びに行ってくれた。

 お父様が助けを呼びに出て数時間後。

 夜明けとともに賊の下っ端がやってきて、わたくしたちふたりを部屋から連れ出した。

 納屋へ連れて行かれ、リンゴなどの食料を入れる空の樽にひとりずつ入らされる。


 伊達眼鏡は外されて壊された。

 樽の中で顔に怪我をしたらわたくしの値が落ちるからだろう。


 ああ、いよいよ隣国へ連れていかれてしまいます。

 助けは間に合いませんでした。


 樽の中で震えていると、そのまま蓋をされて閉じ込められた。

 樽ごと斜めに回されて乱暴に置かれる。

 賊たちの話し声に交じって、お馬のブルルという声が聞こえてきたので、どうやら荷馬車に乗せられたらしい。


 しばらくして荷馬車がゴトゴトと揺れだす。

 発車したようだ。

 樽の中で丸くなりながら、中に入らされるときのディアナ様を思い出す。

 悲しみと恐怖で衰弱しきっていた。

 わたくしも同じで、緊張と不安で吐き気が酷い。


 せめてディアナ様と支え合いたい。

 でないと、不安で押しつぶされてしまう……。

 とは思っても、縛られて樽の中にいるわたくしは、口布もされているので何もできない。


 ディアナ様が近くにいないかと最大限うなってみる。


「゛んんん、んん」

「んんんっん、んん」



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