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その二十八

「店主様、半年ぶりですね」


 なんとここの店主は半年に一度、屋敷にペンや便せんの新作を持ってきてくれた人だった。


「すみません。わざわざご足労いただきまして。いまの領主様に代わられて、お嬢様はどちらへ行かれたのかと心配していました」


 商人同士のネットワークか、わたくしが屋敷を出たのは知っているようだ。


「いまは王都にいます。今日は久しぶりにウォルタナへ来たのでお店に立ち寄りました」


 ほとんどの商店では、わたくしの顔を覚えている人なんていない。

 必要なものがあればリストで発注して、直接屋敷へ納品させていたからだ。

 しかし仕事で使う文房具だけは特別で、屋敷へ品物を持参させて説明を受けていたので店主と面識があった。


「今日はペンとインク、あと手紙用の良質紙をいただけます? それと、お尋ねしたいことがありまして……」


 それなりの金額で買い物をして情報収集を試みると、ほかの店主より時間をかけて詳細に情報を教えてくれた。

 やはり商売人の協力を得るには、信用と実績が大切のようだ。


 これまでの情報と店主の情報を総合すると、街道に野盗が頻繁に出るようになり、旅人が襲われてさらわれることがあるらしい。

 人さらいならば奴隷売買の疑いがある。

 また、隣国のヘルメア公国と話し合いが上手くいっていないようで、輸出での利ザヤが少なく、輸入物が減ったという。


 関税率や取引上限などは、大枠の物品ごとに国同士で決める。

 だけど、実務的な詳細事項は税関窓口の領主同士が取り決めるはずだ。

 よくない状況だ。お父様の名代で取り決めた貿易の実務的な詳細事項が変えられている。


 貿易は双方にとって利益が出るように行うもの。

 話を聞く限り、我が国にも相手国にもマイナスで、これが査察官による今回の調査に繋がったのかもしれない。

 デイジーに明日も護衛をお願いして別れ、購入した筆記具を抱えてホテルへ戻る。


「ディアナ様。さっきの情報を手紙に書いてもいいですよね」


 一緒に情報収集したので、彼女に断りを入れる。


「どなたへ宛てる手紙か聞いてもいいです?」

「隣国のブランターク侯爵宛てです」


 外国へ手紙を書くと聞いて彼女が目を丸くした。


「どんな方です?」

「治政に熱心でとても一生懸命に仕事をされる方です。あの方が我が国側ならと何度思ったことでしょう」


「そんな方に相談してもよいのですか?」

「共通の問題には真摯になってくださるのです。貿易と人さらいについて何か情報がないか聞いてみましょう」


「貿易は分かるのですけど、人さらいが隣国に関係あるのですか?」

「人さらいの場合、さらった被害者を奴隷として売買することが考えられます。国内で奴隷売買の話を聞かないので、隣国に情報があるかもしれません」


 国王陛下の主導で人身売買は廃止されたが、奴隷制度まで廃止されなかった。

 奴隷落ちの理由は返済できない借金の代わりが多い。

 だから、急に奴隷を解放したら借金した奴隷たちが得することになる。

 それに使用人として奴隷を購入した貴族も多く、王家と対立する恐れがあった。


 奴隷制度は廃止こそされなかったが、主人は奴隷に賃金を払わなければならなくなった。

 しかも奴隷が自身を買い戻せる仕組みが新設された。

 前進はしている。

 でも、早く奴隷制度なんて無くなって欲しい。


 ディアナ様が見守る中、ヘルメア公国の言葉で手紙を書き始める。

 普段は通訳魔法に頼って会話しているが、努力を怠ってきたわけではない。

 文章力は契約実務に関係するので、ヘルメア公国の言葉を必死に勉強したのだ。


 まずは自分の状況を記載する。

 爵位がさん奪されて親戚の貴族家の一員になったことを順を追って書き連ねた。

 そして筆を取った理由である本題に入る。


 本題は貿易状況の懸念と人さらいの相談だ。

 久しぶりに故郷に帰って困惑していることを伝え、現ウォルタナ領主と敵対関係なので貴国との交渉役はできないが、不便があれば協力できるかもしれない、と書いた。

 いまから数日なら、ウォルタナ首都の貴族向けホテルに滞在している。

 返事は貴族向けホテルへ欲しい、とつけ加える。


 いまのわたくしには外交の交渉権限がない。

 だから相手にされないかもしれないが、少しでも事情が分かればと手紙をしたためた訳だ。


「手紙を出しに郵便組合へ行ってまいります。まだ夕方なので、いまから出せば明日のヘルメア発送便に間に合いますから」


 わたくしがディアナ様へ外出を告げると、執筆をそばで見ていた彼女も立ち上がる。


「私もご一緒します。あの、相談相手のブランターク侯爵って独身ですか?」

「最後にお会いした半年前は独身でしたけど」


「その……何才ですの?」

「十才上ですから、確か二十七才ですね」


 期待に満ちた様子で年齢を聞いたディアナ様が微妙な顔をする。


「十才上ですか……そうですか。うーん」


 ディアナ様はわたくしと同い年の十七才。

 ブランターク侯爵は好人物で素晴らしいけど、婚姻相手としては少し年齢が離れている。


「それに政治や領地経営に熱心すぎて、ほかが見えなくなるところがあります」


 まあ、外交に夢中になるわたくしも、あまり人のことは言えないですけど。

 それにディアナ様は恋に恋するタイプ。

 お相手としてあの方はちょっとな。


 ところがディアナ様は性格の相性よりも、年齢差について真剣に悩んでいるようで。


「うーん、十才差ですか……うーん」


 会ったこともない相手のことで悩むディアナ様があまりに可愛らしくて、わたくしは微笑まずにはいられなかった。



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