25話
「キメラの・・・・・・・・材料・・・?」
ルスクは、震えた声で聞き返した。
「うん、あたし達はキメラの材料」
「あたし達って事は、他にも居るんですか!?」
「居る」
そう少女は短く答えた。
「あたしは、アーディウス帝国の研究してるキメラの材料の一つ。他にもあそこには沢山の材料が居る」
「・・・・・・なんて事を・・・」
ルスクは口を手で覆った。
「で、あなたはなんで追われてるんですか?」
「逃がしてもらったの」
「逃がしてもらった?誰に?」
「おねえちゃんに」
「おねえちゃん?あなたの家族ですか?」
「違う。名前は知らないけど髪も肌も真っ白な人」
「真っ白?ん~・・・、まーそれはいいです。逃がしてもらったのに、なんであなたは龍の姿で逃げないんですか?」
そうルスクが言うと少女は眉をよせた。
「なれないの、龍の姿に」
「? 何故です?」
少女の言葉にルスクは、首を傾げる。
「あたしの体はこの形で凍結しちゃってるから」
「凍結?魔法ですか?」
「うん、氷精霊の精霊魔法」
氷精霊の精霊魔法は時間を凍結させる。
しかしそれは一時的なものでしかも、バッグの中、等と言った、部分的な物だ。
世界の中の時間を凍結させるなんて事は出来ない。
「つまり、擬態魔法を使った状態で体の時間が止まっているからなれないと?」
「うん」
少女は小さく頷いた。
「で、あなたはなんで逃がしてもらったんですか?」
「逃がしてもらったのは、あたしだけじゃない。他の材料も皆逃がしてもらった。なんか『これ以上、私と同じ者を増やしたくない』って言ってた」
「増やしたくない?つまりその真っ白な女性もキメラだと?」
「ううん、多分違う。キメラは皆、気味の悪い姿してるもん。おねえちゃんは確かに耳がエルフと獣人が混じった感じだけどキメラじゃない」
「エルフと・・・・・・・獣人?」
「うん、エルフみたいな耳なのに獣人みたいに毛がフサフサしてた」
「・・・・・・・・・すみません。多分その人知ってます」
「えっ!?」
「ま、それは今はいいです。今はあなたです。あなたはどうしたいんですか?」
「自由になりたい」
「自由に?」
「うん、あたしずっと捕まってたもん」
「そうですか。では、あの変な集団を片付けなければなりませんね」
そう言ってルスクは街のある方角を見る。
「あなたに掛かった精霊魔法はどれくらいで解けますか?」
「えっと・・・、1ヶ月に一回掛けられてたから・・・・明日」
「かなりいいタイミングですね。あの子もこの事を計算に入れていたのでしょうか」
「取り敢えず今日を乗り越えれば自由になれる」
「でも今日があります。同胞のよしみで私は今日、あなたの安全を確保する事を決めました!」
ルスクは高らかと宣言した。
「行きましょう。あの集団を片付けるのが先です」
そう言いながら少女の手を取り、飛び立つ。
「あっ、居ましたね」
あの集団は、固まって移動していたため、すぐに分かった。
どうも街に居ない事が分かったのか、街から出て、近くの草原を歩いている。
「どうも、先程は失礼しました」
また、部分的に翼を生やしているため、少女を抱えて下に居る集団に話しかける。
『ッッッッッ!?』
いきなり降ってきた声にその場、全員が驚いた。
が、訓練されているのかすぐに臨戦態勢に入る。
「無駄です」
ルスクの言葉と同時に、集団はどこからともなく現れた巨大な水の中に溺れた。
止めどなく現れる水に為す術もなく集団は溺死した。
が、一人だけ生き残った男が居たようだ。
「あれ?まだ生きていたんですか?」
そう言ってまた水を出そうとしたが、その瞬間男は叫んだ。
「待ってくれ!取引をしよう」
「取引?」
「俺を逃してくれるのなら、お前の様な龍には耳寄りな情報をやる!」
「? 情報ですか?」
「そうだっ!」
「却下ですね。私は別にどんな情報にも興味ありません」
「待てっ!それがお前の様な龍の故郷に関する事でもか!?」
「・・・・・・龍の国ですか?」
「あー、そうだ」
ルスクが食いついたからか、ローブから覗く、口の端がつり上がった。
「情報によります」
「600年前、何故あの国が滅んだと思う?」
「知りません」
「あれは表向きは、龍が人に危害を加えたからとなっている」
「表向き?裏があるんですか?」
「あぁ、キメラの製作だ」
「ッ!?」
「龍はいいキメラの材料になるらしくてな、当時の帝国の人間は龍の国に攻め入った」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ルスクはただ無表情にそれを聞いている。
「そして大量の龍を捕獲し、何度も人工的に交配を重ね増やした」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ルスクの表情は崩れない。
そして口を開いた。
「もういいです」
「つまり俺を逃してくれるのかっ!?」
「いえ」
いきなり物凄い速さで下降し、男の頭を掴む。
「その情報、私にはなんの意味も無いです。私はあの国で暮らした思い出もありませんし、未練もありません。ただ・・・」
一拍おいて、ルスクは言い放った。
「ただ、私はあの子を作ったあなた達を許せません」
その瞬間、男の体は何かが入り込んだ様に波打った。
「痛いでしょう?知らないと思いますが、お母様の『液体』の技は元々私が編み出したものですからね」
そう淡々と告げるが、すでに男に意識はない。
「さようなら」
ルスクの言葉と同時にその体は弾け飛んだ。




