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40.舞踏会へ


 エラは懸命に走った。

 もう日が暮れ始めていて、あたりは仄暗い。着慣れない煌びやかドレスで走るのは一苦労だ。

 けれど、そんな事考えていたら先に進めない。

 エラの頭の中は、あの過保護すぎるくらい優しい彼の笑顔で埋め尽くされていた。


 思い返してみれば、初めてあった時、エラはひどく緊張していた。家を追い出されるようにして第一騎士団にやってきたという事もあり、もうここ以外居場所がなかったので、必死だったのだと思う。

 初めて会ったリアムは、予想外の美少年だったし、他のみんなも優しくてかっこいい騎士達ばかりだった。男性に免疫のないエラにとっては目の回る光景だった。

 そんな中で出会ったレオン。厳しくぶっきらぼうな態度に見えて、いつもエラを気にかけてくれていた。どこまでも優しい彼の目で見つめられると、どうしようもなく落ち着かない気持ちだった。


ーーレオン様。


優しくたくましいレオンに見合う女性はきっとたくさんいる。エラなんて足元にも及ばないような立派で美しい令嬢だろう。

 それでもエラはあのレオンの優しい視線を独り占めしたかった。他の人になんて、絶対に渡したくない。

 舞踏会はもう始まっている。

 もしかしたら、レオンはすでに運命の相手を決めてダンスを楽しんでいるかもしれない。

 けれど、たとえ叶わなくても、最後まで足掻く。

 覚悟したエラは懸命に舞踏会の会場へと歩き続けた。

 けれど同じ王宮内といってもかなり広い。エラが歩いて行っていたら、舞踏会は終わってしまう事だろう。それでもエラは歩みを止めずに進み続けた。

 その時だった。


「待ってたよぉ、姉御ぉ」

「ギル様!」


騎士団御用達の馬車が突然エラの目の前に現れた。その馬車の御者は、第一騎士団の制服をきっちり身に纏ったギルだった。いつもは少しだらしないギルの正装にエラは目を疑った。そしてその横にはギルと同じく正装したリアム副団長がいた。


「ほら早くお乗り」


何もかもお見通しのような二人の笑顔に、エラは目頭が熱くなった。

 しかし今はこんなところで泣いている場合では無い。エラはぐっと込み上げて来る気持ちを押し込んで、大きく頷いた。


「はい!リアム副団長!」


エラを乗せた馬車は、物凄いスピードで舞踏会の会場へと駆けていく。


ーーレオン様。


少しずつ近付いていく舞踏会の会場に、エラは緊張していく。

 初めての舞踏会なのに、エラは緊張なんか忘れてレオンのことで頭がいっぱいになっていた。



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