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38.決意


『ねぇ、エラちゃん』


エラが友達作りに思いを馳せていたところ、フィンがニヤニヤと楽しそうに見てくる。


『ちょうどもうすぐ舞踏会があるんだし、行ってくればいいんじゃない?』


舞踏会という言葉に、エラはすぐに表情を暗くした。


「そう、ですね」

『ね?ね?』


しかしフィンはとても楽しそうである。恋バナが大好きなフィンは、エラにもそういったものを期待しているのだろう。

 しかしエラには恋愛をする勇気がない。


「でもいいです」


今回の舞踏会はレオンの婚約者を決める場だ。レオンのことを好きだと自覚したエラが、他の女性と仲良くしているレオンを姿を見て、心穏やかでいられるはずもなかった。

 そんな姿を見たらきっと辛くなる。

 友達はほしいが、それは今回の舞踏会でなくてもいいはずだ。それにエラにはやる事があるのだ。


「それよりも私はもっと魔法を学びたいです」


エラの言葉にフィンはショックを受け、水槽の底の方で丸くなってしまった。

 フィンとエラの会話を見守っていたミリウスは首を傾げた。


『そう焦らなくても良い。何を焦っているのだ?』

「焦っては……いません。でも怖いんです」


魔力が暴走したアリアの姿が、脳裏に焼きついて離れない。自分もそうなってしまうのではないかという恐怖がいつまで経っても消えないのだ。


「魔法の暴走が、怖いんです」


母を奪った魔法で、エラも誰かを奪ってしまうのかもしれない、と不安になる。ぎゅっと目をつぶると、レオンの姿が思い浮かぶのだ。

 絶対に幸せになってほしい人。

 失いたくない人。

 だからエラは今レオンのそばに行くことが怖い。

 エラは震える手で自分の体を抱きしめた。


『母君か。確か消えたのだったな』

「はい」


ミリウスが「ふむ」と言ってグリフとフィンを見た。グリフもフィンもミリウスと目が合うとゆっくりと頷いた。


『エラちゃん。貴方のお母さんだけどね、魔法で消えたのなら、もしかしたら残っているかもしれないわよ』

「残っている?」


まさかの言葉に、エラは目を丸くした。


『エラ嬢とアリア嬢の魔力は母君譲りだろう。ならば母君も魔力を持つ人間だということだ。そうなると、未熟なアリアの魔力では人を殺す事はなかなか難しいのではないかと思うのだ』

「それって、母が死んでないってことですか?」

『母君は魔力のカケラとなって二人の周りにいるのだと思うぞ。元通りの人間の姿に戻る事はできないかもしれんが、母君の魔力のカケラで話す事くらいならできるはずじゃ!』


ミリウスの言葉が信じられず、エラはグリフとフィンを見た。二匹とも笑顔で頷いている。そうしてようやくその可能性があるのだとじわじわ実感していったのだった。


「本当……ですか?」


ようやく実感したのか、目頭が熱くなっていく。


「私にも、できますか?」


少し震える声で、エラは尋ねた。三匹は互いに顔を見合わせ、そうして笑顔で頷いた。


『もちろんじゃ!』

『エラちゃんならできるわよぉ!』

『魔法も気持ち次第だ。エラ嬢も気持ちをしっかり持てば出来る』


その言葉にエラは勇気づけられた。


『エラは浄化の力が強い魔力の系統だ。すぐにできるだろうぞ』

『気持ちを強く持つことが大切よ!』

『エラ嬢は素晴らしい。自信を持つのだ』


聖獣に次々と褒められると、エラはくすぐったい気持ちになる。


ーーやれる事は、やってみなきゃ。


「ありがとうございます、ミリウス様、フィン様、グリフ様」


ーーそうだ。前を向け。自信を持て。私にできる事は全部やるんだ。


もうアリアの時のような後悔はしたくない。エラは強く拳を握りしめた。


「やります。やらせてください」


その瞳は驚くほどまっすぐだった。




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