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36.教育係


「そう。エラ嬢の魔法についてね。私にも魔法はよく分からないんだけど、彼女は聖女と同じ魔力なんだろう?それってさ。もしかして探し求めてた聖女の末裔なんじゃないかな、て」


それはリアムも予想していた事であった。

 聖獣よりも強い力を持つアリアを抑え込んだエラ。アリアの黒い魔力を目の前にした時、まるで神話に出てくるオーガのようだと感じた。


「確かエバンス伯爵家に魔法が使える者はいなかったはずです。古くからいる貴族ですが、そのような形跡はありませんし」

「母君の方かな、て思ってる」

「母君。確かアリア嬢が魔法で消してしまったという……」

「エバンス伯爵の妻は貴族ではなかったはずだ。エバンス領に住む女性と大恋愛の末結婚している」

「あの温厚なエバンス伯爵が?想像出来ません」


殿下はにっこりと微笑むだけで何も言わなかった。


「神話に出てくるオーガはね、封印されているにも関わらず、人々の感情に反応する事があるらしいんだよ。歴史的に大きな魔法の事件を見ていても、オーガが好むとされる感情が肥大化した物が多い。今回もアリア嬢の傲慢な感情に反応してしまったんだろうね。けどここまで大きな事件はない。エバンス姉妹については少し慎重にした方がいいと思っている」


リアムは頷いた。聖女の末裔と思われるアリアとエラ。探し求めていた存在の手がかりがようやく見えてきたのだ。王家としても野放しにはできない。


「そこで。エラに魔力の事を教えるのは聖獣様、というかミリウス様がいいかな、てことになったんだ」

「それはいいですね。ミリウス様もエラには心を許していらっしゃいますし。エラもやりやすいでしょう」

「それと、エラ嬢は妹の持参金のために働いていたようだけど、今後のことも考えてしばらくここにいた方がいいだろうね」

「そうですね」


このことは遅かれ早かれ貴族社会の噂になる。捕まっているアリアはいいものの、エラが社交界に放り出されても守る術がない。


「ま。そういう話をレオンと昼間にしたんだけど。あの様子じゃエラ嬢に夢中で話していないだろう?浮き足たってるレオンも面白いけど、そのレオンもまさかエラ嬢が欠席するつもりなんて思ってもいないだろうね」


殿下は面白そうにケタケタと笑った。新しいおもちゃを見るような殿下と違い、騎士団には余裕がない。なんせ落ち込んだレオンを慰めるなんて苦労はごめん被りたいのだから。

 ハムエッグの騎士のように雑にあつかう訳にもいかないし、下手な事を言えば地獄の訓練三昧だ。


「笑い事ではありませんよ殿下」


己の平穏な未来のため、エラとレオンにはぜひ上手くいってほしいのだ。


「それにしてもエラ嬢はまるでシンデレラのようだね」

「シンデレラですか?」

「ほら虐げられていた令嬢が舞踏会に行けなくなったけど、魔法使いの力で綺麗になって、舞踏会で王子様に見初められる童話だよ」

「ああ。女の子が好きなストーリーですよね。でも舞踏会に行けないというより、自発的に行かないですけどね。うちのシンデレラは」


自信を失い殻に閉じこもっているかのようなエラ。


ーーさて。エラ嬢は誰に魔法をかけてもらって舞踏会に行くのかな?


 騎士達か、それとも別の人物か。

 殿下は笑って見守るだけである。




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