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27.ダニエル失脚


 エバンス伯爵令嬢とウォーカー公爵子息の婚約パーティーという事で、招待された人々も高位の貴族が大部分を占めていた。みな可愛く着飾って和気あいあいとした時間が流れている。


 けれど、エラはそんな表面的に取り繕った社交場が苦手だった。


「まあ!お姉様来てくださいましたの!」


エラが入ってきてすぐにアリアが出迎えてくれた。先日の出来事は彼女の中では無かったことになっているようだ。

 しかし周囲はざわついていた。

 姉であるエラからダニエルを奪って婚約した、というのは貴族の中ではもはや知らない者はいないほどだった。その因縁の姉が婚約パーティーにやって来たのだから驚くのも無理はない。


「まあ本当にきたの?」

「神経おかしいんじゃございません?」


そういう声が聞こえて来るのも無理はないと思う。エラだって招待状をもらった時は来るつもりなんて無かった。


「ていうか、何あの格好」


 そしてもう一つ。

 エラが周囲から目を引いてしまう理由があった。


「エラ」


ダニエルが神妙な表情をして近付いてきた。


「君、何で第一騎士団の正装しているんだい?」

「ダニエル様、私、第一騎士団の家政婦で、第一騎士団の仲間ですから。それと」


エラは第一騎士団の正装に身を包んでいた。この婚約パーティーに参加するとなってからみんなが急ピッチで準備してくれたのだ。ちゃんと女性用にスカートになっていて、一見するととてもかっこいい。


「私、もう貴方の婚約者ではありませんので、呼び捨てはおやめください」


エラがはっきりとそう告げると、ダニエルは顔を赤くした。騎士の正装をしているせいか、いつもよりも気迫がある。


「もうお姉様ったら堅苦しいですわ。そんな事どうでも良いではないですか」

「ダメよ、アリア。ダニエル様は人気のあられる方だから、ちゃんと引き留めておかないと、すぐフラフラされるわよ」

「は?何言ってるの?お姉様。それは僻み?」


アリアは嘲笑した。それに釣られて周囲もエラをクスクスと嘲笑った。

 けれどダニエルだけが、顔色を悪くしている。


「この前シルビア様というご令嬢とお話されているのを聞きました」

「シルビア様?誰ですの?」


アリアは首を傾げてダニエルの方を見た。するとダニエルは口をパクパクさせてとても冷静には見えない。


「な、何故……」

「ダニエル様?」


アリアが不安げにダニエルの名前を呼んだ。けれどダニエルにとってはそれどころではない。

 なんせ浮気相手の名前が出てきたのだから仕方ないだろう。


「ちょっと!お姉様!どういうことですの!」


婚約パーティーで別の女性の名前を出され、婚約者がこの様子ではアリアが怒るのも無理はない。


「ダニエル様、貴方に隊律違反の疑いがかけられています」

「な。隊律違反だって!?」

「はい。私は婚約パーティーに参加しに来たわけではありません」


するとタイミングよく第一騎士団のメンバーが会場に入って来た。その中にはシルビアの姿もあった。

 それを見たダニエルは絶句した。


「守秘義務を違反するなんて近衛騎士にあるまじき行為です」

「あ……あ……」


もはや言葉にならないようである。しかし自覚はあったようで顔は真っ青だった。

 そんなダニエルを見て、アリアは苦虫を噛み潰したような表情を見せた。そしてダニエルの代わりに噛み付くように睨み付けた。


「何なの貴方達!勝手に入るなんて無礼だわ!貴方達みたいな汚い場所で働いている人たちは行動も汚らしいのでしょうね!」


騎士の正装に身を包んだ彼らに向かって、アリアは怒鳴り声を上げた。その言葉は公爵子息の婚約者というにはあまりにも相応しくないものだった。

 エラは何とかアリアを諌めようと言葉をかけた。


「アリア、彼は罪を犯したの」

「そんなの嘘ですわ!妄言です!」

「アリア、落ち着きなさい」


もう遅いと分かっていても、少しでも冷静さを取り戻してほしい、エラはそう思っていた。

 しかし、エラのことを見下して来たアリアがその言葉を受け入れるわけもなかった。むしろ、エラが自分に口答えしたのだと思い、頭に血が上ってしまった。


「五月蝿い!お姉様のくせに口答えなんて!」


 アリアよりも下であるはずのエラ。

 いや。アリアよりも下でなければならないエラ。

 そんなエラが、アリアに苦言を呈したのだ。


「そんなの、許さない」


アリアに受け入れられるはずもなかった。




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