26.作戦
騎士達もエラにかける言葉が見つからない。
エラの実の妹・アリア。
彼女はその強大な魔法の力を隠し、エラに魔法をかけようとし、さらにダニエルも魔法にかけていた。
それだけならばまだ良かった。
しかしアリアはダニエルが連れて来た聖獣ミリウスにまで記憶操作の魔法をかけてしまったようなのだ。
しかし証拠は何もない。
このままでは、アリアを捕まえることも、ダニエルに制裁を加えることもできない。
『それにしてもやはり我の考えは正しかったな!エラよ。お主にも魔法の力があるようじゃ』
「え?私に?魔法?」
「確かに。アリアの強大な魔法を長年受け続けたのに自然体だ。普通なら精神がおかしくなってしまうものですが。姉御に何かしら魔法の力がある証拠ですね」
『その通りじゃ。それにこのご飯。これを食べて確信した。これには浄化の作用がある』
ミリウスは懐かしい表情を見せた。
『まさに聖女と同じ力じゃ。まあ、聖女のヤツは料理が下手すぎて浄化回復作用があっても絶対食べたくないものじゃったがな』
ミリウスはふと遠い目をした。
『回復しているのに死にそうな思いをしたな。懐かしい』
長い時が経っているはずなのに、それでも忘れられない味だったようだ。
ーー私に、魔法の力がある?
そんなまさかと思うが、聖獣ミリウスが言うのであれば間違いはないのだろう。
エラは動揺が隠せなかった。
「だから僕たちの体にも影響が出ていたわけだね」
「姉御の料理が美味しいからだとばかり」
「浄化作用無しでも上手いもんな」
騎士達の褒め言葉にエラは顔を赤くした。
「私に、魔法……」
『まあ。全く使いこなせておらんがな。魔法が使えないのも無理はない』
「私……これからどうなるんですか?」
もしかしたらアリアのようになってしまうのだろうか。そうなる前に何とかしなければならない。
「安心しろエラ。魔法が使える者は王宮でそれ相応の指導を受ける事ができる。今まで暴走することはなかったんだから、エラがアリアのようになることはない」
「そう、なんですね」
レオンの言葉にエラは胸を撫で下ろした。
「さて。ダニエルとアリアについてだが」
「そうだね。まずは証拠を見つけないと」
「てかダニは騎士の隊律違反でしょぉ?そのダニと一緒に町を歩いてた令嬢捕まえたら早くね?」
「そうだな。エラ、あまり思い出したくないかもしれないが、ダニエルと一緒にいた令嬢の特徴を教えてくれ」
「えっと」
ダニエルの隣にいた女性は、色気たっぷりのスタイル抜群だった。銀髪の長い髪は艶やかで、アリアとは真逆だった。
「可愛いというより綺麗な人でした。銀髪の妖艶な雰囲気の女性です」
「姉御ぉ!!」
ハムエッグの騎士が突然叫び出した。エラは思わず体が跳ねた。
「そそそそ、その女性はちょっと吊り目気味で泣きぼくろがなかった?」
「え?えっと泣きぼくろは覚えてないけど、吊り目だったと思います」
「じゃ、じゃあスタイルいいのに胸は控えめだった?」
「え!?ええっとぉ、た、多分」
そこまで聞くと、ハムエッグの騎士は崩れ落ちた。
「え?え!?!」
「なぁにぃ?もしかして心当たりあんの?」
「は、はい……。シルビアちゃんです」
それはハムエッグの騎士が恋心を抱いていた令嬢である。最近男性と歩いているところを見かけたという情報が入って、気落ちしていたが、その男性がまさかダニエルだったとは。
なによりもそれがショックだったようだ。
「んじゃあ、俺が行ってくるぅ」
「ギル、どんな手段を使っても構わない。引っ張って来るんだよ」
リアムの言葉にギルは不敵な笑みを浮かべた。
「りょー解。まかせてよ副団ちょー」
「そんな……シルビアちゃん……よりによってダニなんか……」
ハムエッグの騎士は静かに涙を流していた。しかし心配そうにしているのはエラだけだった。
「姉御、気にすることはないよ。彼はいつもこうなんだ。女を見る目がないんだよ」
ノエルはそう教えてくれた。しかしエラはますます心配になった。
以前彼の恋愛相談に乗った時、とても嬉しそうに、そして楽しそうにしていた。彼の恋愛がうまくいけばいいと願っていたが、まさかこんな結末になろうとは。
彼には次こそ良い恋愛をしてほしいものである。
「あとはアリアだな」
「先程の感じだと、彼女はまだ子どものような令嬢でした。何か公の場で怒らせて本性を曝け出させるのが手っ取り早いのではないかな?」
「ノエルの言う通りだね。彼女の場合、証拠を見つけても記憶操作されたら終わりだよ。言い逃れ出来ない状況に持っていくのがいいと思うよ」
ふと、レオンはエラの方を見た。
「そう言えばダニエルが婚約パーティーを開くとか言っていたな」
「あ。はい!えっと。婚約パーティーを開くそうで、その招待状をもらいました」
そう言ってポケットに突っ込んでいた招待状を取り出した。
なるべく見なかったことにしたかったこの招待状。エラは苦笑いした。
「元婚約者を招待するなんて、凄いな」
「互いに話し合った上での円満な婚約破棄で、今は友人同士というなら招待されるのも分りますけどね。エラからダニを奪ったのに招待するアリアの度胸は認めますよ」
「悪気ゼロが一番厄介だよねぇ」
レオンも言葉が出ない。ため息をついて頭を抱えてしまった。
「まあそのおかげで絶好のチャンスになったわけだ。その婚約パーティーでアリアに仕掛ける」
エラは何も言えなかった。実の妹アリアを救いたい気持ちと、どうしようもない気持ちがせめぎ合っている。
「エラ」
「はい」
「心苦しいとは思うが、協力してくれないか?」
エラは少し悩んだ。
まだ心のどこかにアリアを救いたい気持ちと、アリアがここまでなってしまう前に止められなかった罪悪感があるのだ。
それでもエラはもうアリアには囚われない。
エラはまっすぐ前を、レオンの方を見た。
「はい。婚約パーティーに参加します」




