25.ミリウスの記憶
「お待たせしました」
エラはミリウスに最初に作ったものと同じ、白身魚を潰してすり身にしたご飯を用意した。
ミリウスも覚えていたようで尻尾を振ってご飯を食べ始めた。
「そう言えば、姉御のご飯食べるようになってから調子いいんだよねぇ」
「ああ。僕もそうだよ。ご飯が美味しいからだと思っていたよ」
美味しそうに食べるミリウスを見守りながら、ギルとリアムがそんな事を漏らした。それは他の騎士達も同じだったようで「おれも」「おれも」とざわめき始めた。
『ふむ』
ペロリとご飯を平らげ、ミリウスは満足そうな顔をしていた。
『断片的じゃが、思い出した事があるな』
騎士達みんなに緊張感が走った。息を飲んで、ミリウスの言葉を待っている。
『あの日』
あの日、ミリウスは殿下と一緒に国内を巡回していた。グリフとフィンは別行動だったが、殿下と一緒に巡回できる事が、ミリウスは嬉しかった。
ギルとノエルもいて、近衛騎士団もいる。
正直、少し気を抜いていたのだろう。
他愛のない話で盛り上がって、楽しい時間を過ごしていた。
『何?ダニエルよ、婚約者がいたのか?』
「はい。可愛い婚約者がいますよ」
確かあの時、たまたまダニエルと二人っきりだった。
聖獣であるミリウスは、王族か第一騎士団以外の人間とはほとんど接点がない。巡回の時も本体ではなく依代に入って行動していたのは、聖獣の居場所を周囲の人間達に知られたくなかったからだ。
そんなミリウスだが、この巡回の時には近衛騎士団とも交流できて喜んでいた。
ダニエルは聖女様に連なる家系の末裔という事で、名前や性格は知っていた。
よく第一騎士団の者達が「女癖が悪い」とぼやいていたので、まさか婚約者がいるなんて思ってもいなかった。
『そうかそうか。どんな娘なんじゃ?』
「そうですね。純真無垢ですよ。素直と言いますか……まあ少し我が儘なんですけどね、それも可愛いんです」
ミリウスは興味が湧いた。
ダニエルがあまり嬉しそうに見えなかったからだ。
しかもなにやら魔法の香りがするのだ。
最初はダニエルが魔法を使える家系だからかと思っていたが、少し違うようだった。禍々しいというか、あまりいい気持ちのする匂いではなかった。
ダニエルは魔法絡みの事件に巻き込まれているのかもしれない。
そう感じ取ったのだ。
『ぜひ会ってみたいのう!』
「え?アリアにですか?」
『うむ。ダニエルの婚約者のアリアとやらに会ってみたい!』
気が進まない様子のダニエルに無理を言い、ミリウスはアリアに会いに行ったのだった。
この時はすぐに戻ると思っていた。
もしアリアが魔法使いだとしたら、依代のままではとても太刀打ちできない。物陰から魔法使いかどうかを確かめるだけのつもりだったのだ。
『じゃが気が付いたらボロボロのぬいぐるみの中にいて、何処かも分からない森の中で倒れておった。そこから何とか王宮まで戻って来たが、何かに攻撃されてしまってな。その時にエラに拾われたんじゃ』
その話を聞いて、レオンは大きくため息をついた。
「ダニエルが一緒にいたのに、行方不明になったんですね」
「そんな話、ダニエルは一言も言っていなかったよ」
ギルとノエルは目を合わせた。
「俺たちがミリウス様がいないことに気が付いてぇ、見つけた時はもう空っぽの依代だけ落ちててさ。殿下とも相談して、このことは近衛騎士団にも伏せられたんだぁ。空っぽの依代は殿下が持っててくれて、その後すぐに王宮に戻ったって感じ」
「その時のダニエルはいつもと変わらない様子だったね。他の近衛騎士たちと変わらないと言うか」
エラは首を傾げた。町でダニエルを見かけた時、ダニエルはミリウスのことを話していた。
「あの。ダニエル様のことなんですけど」
「姉御。アイツのことはダニと呼んでくれて構わないよ」
「え!ノエル様?!」
ノエルの突然の悪態にエラは目を剥いた。
「お。ノエル、それいいねぇ。俺もダニって呼ぼう」
「ギル様まで!」
ダニエルの評価が虫並みになってしまった。
「それで?何か思い出したのかい?」
リアムが止めてくれたものの、ダニ呼ばわりを否定するわけでなかった。
きっとリアムも心の中では同意見なのだろう。
「は、はい。町で見かけた時、一緒にいらした女性に聖獣様の話をしていた、と思うんです」
「はあ!?」
リアムはもはや怒りが収まらない様子だった。
「本当にダニだね、あの男。いや、ダニ以下だよ!」
「落ち着けセシル。それで、続きがあるんだろ?」
レオンは呆れた様子でリアムを止めた。
「えっと、確か近衛騎士団なのに聖獣様の世話もしなくてはいけなかったから大変だったと話していました。それで、聖獣様に婚約者を紹介しろ、て言われてわざわざ紹介した、と」
「それだとアリアとミリウス様は顔を合わせている様子だな」
エラはぞっとした。
ーーアリア……貴方……!




