18.黄金獅子
行方不明だった聖獣・ミリウス様は小さなもふもふの体でふんぞり返った。
『いかにも!わしは大陸の王者・黄金獅子のミリウスじゃ!』
胸を張っているが、その可愛らしい見た目ではどうにも迫力に欠ける。せめて口元の汚れくらいとったらいいのに、とエラは思わずきゅんとしてしまった。
頭は混乱しているのに、ミリウスを見ているとほっこりとしてしまう。
ーーダメよ、エラ。可愛いなんて、聖獣様に失礼だわ。
「あー、何かもう言葉がないわー。とりあえずみんなを呼んでくるからー」
「は、はい!」
『む?そうか。では娘よ!おかわりを所望するぞ!』
「は、はい!」
エラは慌てて厨房に戻って行ったのだった。
それからすぐに騎士達は戻ってきた。慌てた様子で、皆一様に驚いた表情をしていた。
『おお!皆の衆!久しいな!』
おかわりをたらふく食べて満足そうにお腹を膨らませたミリウスがみんなを出迎えた。のんびりした様子に、皆拍子抜けしてしまう。
「ほ、本当にミリウス様だ」
「俺たちあんなに探したのに」
そうして何故か自然とエラに視線が集まった。
「姉御すげえ」
「なんかさ。こう。必死に隠したエロ本をすぐに見つけちまう母親っぽいな」
「姉御、おふくろに昇格?」
「やめてください」
エラは何だか恥ずかしくなった。これでもうら若き乙女なのだ。おふくろはやめて欲しい。
「ほ、本当だったんだ。てっきりギルの戯言だと思ったよ」
「失礼っすねー副団ちょーてば」
「えっと。何故こんなことに?」
さすがの状況にレオンも頭を抱えた。
「姉御が拾ったんですってー」
「あ、えっと。買い出しの帰りに、王城の門の近くで見つけたんです。怪我?してたので連れて来て介抱していたんです」
「まあ。見つかって良かったよ、本当に」
リアムも複雑な表情をしている。第一騎士団が一ヶ月かけて探していたミリウスなのだ。まさかこの王城の門の近くでエラが見つけるなんて予想もしていなかった。
「ミリウス様、今までどうされていたのですか?」
『うむ。それがな。殿下と一緒に巡回していたのは覚えているのじゃがなぁ。どうしてこうなったかは覚えていないのじゃ。気がついたらこんなぬいぐるみみたいなのに入っていた。もっと可愛らしい見た目だったが、やはり我の雄々しさは隠しきれぬようじゃ!見よ!この立髪を!』
「はいはい素晴らしいです。それで今まで何をされていたのですか?」
『それがのぅ。この依代から出られなくってな。力も弱っておるし。仕方なくこの姿のままなんとかここまで来たのじゃ。じゃがなあ。何故かようやく王城に着いた時、また怪我してしまってなぁ』
「攻撃されたのですか?」
『覚えておらぬのじゃ』
ミリウスは記憶が曖昧だった。レオンは難しい表情を見せた。
「まあ何はともあれ見つかったんだ」
「そ、そうだね。結果オーライだね」
「俺たちの苦労って何だったんだろー」
ギルの呟きは騎士達の気持ちを代弁していた。肩を落とす騎士達を見たエラは、今日の昼食はちょっと豪華にしようと思ったのだった。
「さて。オレは聖獣様たちに報告してくる」
「僕も一緒に行くよ、団長」
「おれは練習に戻るか」
「おれも」
そして次々と騎士達も外に出て行った。食堂に残されたエラは、ミリウスを見た。
「えっと。とりあえず、その依代を綺麗にしましょうか」
『気が効くな!娘!よろしく頼むぞ!』
エラはミリウスを持ち上げて、怪我の様子を確かめた。耳が取れかかっているほか、糸が飛び出しているところもある。エラは裁縫道具を準備して、手際良くなおしていった。
『む?娘、お前なかなかの腕だな』
その途中、ミリウスが不思議そうな表情を見せた。裁縫の腕を褒められたエラは、くすぐったくて、クスクスと笑った。
「ふふ。聖獣様に誉めていただき嬉しいです」
『ああ。懐かしい感覚じゃ』
エラは首を傾げた。
ーー懐かしい?
どういう意味だろうか。ふと騎士達が「おふくろ」と言っていたのを思い出して、なんとも言えない気持ちになる。
『娘、名前を聞いていなかったな』
「え!あ、はい!エラ=エバンスといいます」
『エラか!よし共に部屋へ参ろう!』
「え!?」
あまりに突然のことでエラは話についていけない。部屋が何のことなのか、どこの事を言っているのかエラは分からなかった。
『ぬわははは!いざ行かん!聖獣の部屋へ!待っておれ、グリフ!フィン!』
聖獣・黄金獅子のミリウス。
行動力のある自由奔放な彼に、エラはさっそく振り回されてるのであった。




