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11.新しいお仕事


「聖獣様の仕事ですか?」

「ああ」


 リアムから呼ばれて告げられたのは、家政婦としての新しい仕事だった。

 聖獣と言えば、伝説の聖女と共にこの世界を救い、今もなおこの国を守護してくれる存在のことだ。魔法を使って常にこの国を見守ってくれているという。王族と同等の存在であり、普段はなかなかお目に出来ない。

 その聖獣に関する仕事と聞けば、緊張してしまう。


「第一騎士団にも慣れてきた頃だし、そろそろやってもらおうと思ってるんだ。大変な仕事だけど、頑張ってね」

「はい」


リアムからそう言われると、期待してもらっているのかと嬉しくなる。


「おめでとう!姉御!」

「頑張ってね!姉御!」

「ありがとうございます」


今、リアムとエラは食堂にいた。夕食の片付けが終わった頃に、エラはリアムに呼び出されたのだ。おのずと騎士団のみんなも何かあるのだろうかと遠巻きに見守っていた。

 そして今回エラが聖獣の仕事をすると分かり、ゾロゾロとエラの周りに集まってお祝いを述べた。


ーーなんだか恥ずかしいわ。


みんなに喜んでもらえるのは素直に嬉しい。けれど、何故か気恥ずかしくもあった。


「仕事は聖獣達の部屋の掃除だ。はじめのうちは慣れてもらうためにも騎士団の誰か一人が一緒だから安心しておくれ」


それはとても心強いと、エラは頷いた。


「なんでも言ってくれよ!姉御!」

「力仕事なら任せてくれよ!姉御!」

「はい。頑張ります」


気にかけてくれている騎士達のためにも、エラは早く一人前にならなければと気合いを入れた。


「それと後で紹介するけど、聖獣様は三匹、黄金獅子のミリウス様と、白海豚のフィン様、そして大鷲のグリフ様だ」

「あの、聖獣様はどんな方なんですか?気をつけた方が良いこととかありますか?」


エラの質問にリアムは微妙な表情を見せた。


「一言で言うと個性的な聖女たち、かな」

「個性的?」

「まあ非常識ではないから安心して。慣れるまでは、多分驚くけどね」

「おれフィン様からいつもファッションチェックされる。合格した試しがない」

「おれもだよ。だから恋人がいないんだ、て言われる」

「おれはグリフ様だな。おしゃべりしてるとお前の頭には筋肉しかないのかって言われる」


騎士達が色々と教えてくれたが、分かったようで、あまり分からなかった。


ーー身だしなみには気をつけなきゃ。


エラはごくりと唾を飲み込んだ。


ーーけれど、本当にどんな方達かしら。


馬が合わずに仲良くできなかったらどうしようか。それを考えるとやはり不安になる。

 すると、ギルが声をかけてきた。


「大丈夫だよぉ姉御。俺はぁ、フィン様からもグリフ様からもだらしないって言われてるよぉ」


それについては何も言えない。騎士達も何も言わず、聞かなかったことにして流した。


「そうだよ。安心していい。この気まぐれなギルでさえ受け入れた方たちだからね」


何故かそれを聞くと安心してしまった。


「でもこの中だと一番慕われているのはノエルとレオン団長だね」

「まあな」

「そうだね。団長は実力を認められてるからだけど、私は魔法が使えるからね」

「え。ノエル様魔法が使えるんですか?」


魔法が使えるのは、この世界を救った聖女の血を引く者の証だ。

 かつてこの世界を救った聖女は、その後すぐに姿を消してしまっという。そのため彼女の子孫が誰なのかは分からなくなっている。


「正確には私は聖女の家系の末裔だよ。ちょっとした回復魔法が使えるくらいで、大した魔法は使えない」


 そう。聖女には姉妹がいた。

 伝説では彼女達も魔法が使えたというのだ。そのため魔法が使えるという事は、聖女の家系、つまり聖女の姉妹達の末裔ということになる。

 そんな貴重な存在がまさかノエルだったとは思いもしなかった。


「聖獣様達はやっぱり聖女様にお会いしたいのでしょうか」

「そうかもしれないね。私の一族も探し続けているしね」


 姿を消した聖女。

 そして今もなお国を守り続ける聖獣。

 彼らの間に何があったのかは、彼らしか知らない。

 聖女伝説は、この国のおとぎ話として子どもの頃から聞かされる物語だ。もちろんエラも幼い頃にアリアと一緒に母親から聞いていた物語を思い返してみる。その話を大きくなって改めて考えると色々と思うところがあるものだ。


「とにかく、明日から仕事頼んだよ」

「は、はい!」


リアムに声をかけられ、エラは我に帰った。

 聖女の話よりも今は聖獣の部屋掃除だ。


ーー私も聖獣様達に気に入ってもらえるかなぁ。


だいぶ個性的な方達らしいが、とりあえず身だしなみには気をつけるようにしようとエラは思った。


「エラ」

「はい!」


レオンから声をかけられて、エラは再び気合を入れ直した。団長からの一言だ。


「明日の仕事はオレが付き添う」

「えーーー!!レオン団長羨ましい!!」

「おれが行きたかった!」


どうやら初日は団長が付き添ってくれるらしい。けれど、それに騎士達は不平不満があるようで、ブーイングが出た。


「君たち落ち着きなよ」


リアムが呆れ返った表情で、彼らを宥めた。


「聖獣様達との対面だよ。初日は団長が行くのが礼儀だろう?それよりも二日目からの当番を考えるよ」

「はい!リアム副団長!自分、二日目希望です!」

「じゃあ!三日目!」

「五月蝿い!ここは公平にくじ引きだよ!」


何だかとても楽しそうである。それを取りまとめるリアムだけが大変そうだ。


「じゃあエラ。明日は朝食後に行こう」

「はい!よろしくお願いします」


レオンが一緒ならばきっと大丈夫。エラはそう思うのだった。




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