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勇者ゲーム ~13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う~  作者: 玄野 黒桜
湿った大地に咆哮す

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彼女の実力

2020/9/6 改稿

「こちらです」


 そう言って先を歩き始めた彼女に続いてスギミヤさん、俺の順番で歩いていく。いくつか張られた天幕の脇を抜けて野営地から少し離れたところまで来ると、彼女は足を止めてこちらを振り返った。


「ここまで来れば邪魔にならないでしょう。急な申し出を受けていただいてありがとうございます」


 彼女はそう言って頭を下げる。


「別に構わない。それに俺も君と手合わせしてみたいと思っていた」


 俺はスギミヤさんの言葉に驚いて隣に立つ彼の方を見る。その表情にはとくに変わったところはなく、どうやらここで彼女をどうこうしようという訳ではないようだ。俺は内心でホッと息を吐く。ここでスギミヤさんが彼女の欠片を狙っている様であれば俺は彼を止めるために動かなければいけなかった。


「ありがとうございます。早速はじめたいんですが、最初はどちらからにしますか?」


 彼女もやや意外そうな顔をしたものの、すぐに表情を引き締めてどちらから手合わせするかを聞いてきた。俺はスギミヤさんの方を見る。彼もこちらを見てきたが、俺が先を譲るように手で合図をすると頷いてから一歩前へ出た。


「では、俺からお願いしよう」


「分かりました。ではこちらへ」


 再び歩き始めた彼女の後をスギミヤさんが付いていく。


「このくらい離れれば大丈夫でしょう。武器はどうしますか?一応木刀もありますけど?」


「いや、それぞれいつも使ってるものでいいだろう」


 5mほど離れたところで止まると、2人は使う武器について相談を始めた。俺はスギミヤさんの返事も意外に感じた。俺は彼の願いを知らないが願いに対して強い想いを持っていることは知っている。今のままならたぶん俺にもいずれ剣を向けてくるだろう。それほどまでに彼の想いは強い。


 そんな彼が手合わせとはいえ、他の勇者候補と戦うのに「いつも使っている武器でいい」と言ったのだ。まして「自分よりも強い」と言い切った相手だ。そんなことはないと思うが、手合わせ中に狙われる可能性だってある。その危険性を分かった上で彼女を信頼しているということだろうか?


「いいんですか?」


「構わない。もし、俺たちを殺して欠片を奪うつもりだったのなら、この2日間で他に襲うチャンスはいくらでもあっただろう。君がそんなつもりがないのは分かっているつもりだ」


「分かりました。じゃあ少し距離を取りましょう」


「ああ」


 どうやら彼女も俺と同じことが気になった様でスギミヤさんに確認したが、彼は何でもないことのように答える。彼女も納得したのか頷くと、それぞれが左右に分かれ、3mほど距離を空けて対峙する。


「っ!?」


 彼女が腰の鞘から剣を抜いた瞬間、纏う空気が変わった気がした。それまでの柔らかい雰囲気から一転、感情や気配が希薄はなのだが何か大きなモノが目の前に立っている様な、そんな奇妙な圧力が漂うという説明し難い感覚。


「うっ!」


 その今まで感じたことのない奇妙な感覚に俺は思わず身震いした。スギミヤさんの方を見れば、さすがに一度戦ったところを見ているからか俺のように雰囲気に飲まれている様子はなく、ただ、表情はいつになく厳しいものになっている。


「ニシダさん」


「は、はいっ!」


 スギミヤさんの様子を見ていた俺はユキに声を掛けられて、思わず声を上擦らせた。


「あっ、すいません。申し訳ないんですが開始の合図をしてもらってもいいですか?」


「わ、分かりました!」


 慌てた俺の様子を気にしてか気遣った様に言うユキだが、今までの彼女の印象と違い、口調は平坦でやはりあまり感情が読み取れない。


「そ、それでは準備はいいですか?」


「ああ」


「私もいつでも構いません」


 張り詰めた空気に緊張して乾いた喉が張り付くのを感じながら確認する俺に、2人からは静かに了承が返ってきた。俺は右手を真上へと上げる。


「そ、それでは……始めっ!!」


 掛け声とともに上げていた右手を振り下ろす。


「………」


「………」


 開始の合図を聞いても2人は一歩も動かなかった。


 ユキは俺の赤棘刀(せききょくとう)よりも更に反りが付いたより刀に近い剣を正眼に構え、右足をやや後ろに引いた姿勢。対するスギミヤさんは右手の剣をやや剣先が外へ開く様にして正面に構え、左手のラウンドシールドをやや身体の正面へ構える様な姿勢を取っている。


 2人はその姿勢のまま身動ぎ一つしない。張り詰めた空気が場を支配し、ジリジリと身を焦がす。


「……来ないのですか?」


 そんな見ているほうが胃が痛くなる様な沈黙を破ったのは、意外にもユキの方だった。彼女はやはり感情の見えない平坦な口調で、やや挑発的に言った。


「自分より実力が上の相手にいきなり飛び込むほど短慮ではないつもりなのでな」


 ユキの言葉にこれまた静かな口調でスギミヤさんが返す。


「そうですか。ではこちらから―」


「えっ!?」


 行きますね、そう言ったと同時に彼女の姿がブレた。何が起こったか分からず、俺が驚きの声を上げたときには彼女はすでにスギミヤさんの左側、構えた盾の前で身を屈めていた。


「なっ!?」


 恐らく一瞬彼女を見失ったであろうスギミヤさんが、いきなり盾の影から現れた彼女に驚きの声を上げる。彼女はそこから飛び上がるように斜め下から首元へ剣を振り上げる。


「くっ!」


 スギミヤさんはその一撃を辛うじてバックステップすることで躱す。が、彼女はそのままフィギュアスケートのアクセルジャンプの様に一回転すると、手首を返して今度は上段から剣を振り下ろした。


「クソッ!」


 予想外の一撃にスギミヤさんは慌てて盾を構えて対応する。剣と盾がぶつかりあい鈍い金属音が辺りに響く。


「しまっ!!」


 辛うじて盾が間に合ったスギミヤさんだったが、バックステップ直後の不十分な姿勢だったため、ユキの体重の乗った一撃を受け止め切れない。そのまま押し込まれる様にして姿勢を崩す。


 ユキが地面に着地するとちょうど2人の頭が同じ高さになる。そこへ一瞬で剣を引いたユキが喉を目掛けて突きを繰り出す。


「っ!?」


 流れる様な一撃を、スギミヤさんは敢えて崩れた姿勢を立て直さず地面へ倒れることで躱すと、そのまま転がる様にして彼女と距離を取ってすぐに立ち上がる。


「はぁはぁはぁはぁ」


「………」


 再び2人の間に距離が出来る。


「……どうしますか?もう終わります?」


「くっ!いや、まだだっ!」


「では、もう一度行きますね」


 宣言したユキは今度はゆっくりとした速度でスギミヤさんへと近付いていく。その歩みは自然で、どこにも無駄な力が入っていない。まるで散歩をする様な軽い歩みだった。


「くっ!」


「えっ!?」


 対するスギミヤさんは、一気に間合いを詰める様に近付くユキへ向かって突っ込む。俺は彼の意外な選択に驚いて思わず間抜けな声が出る。確かにスギミヤさんは装備からすると考えられないほど動きが軽い。今だってユキほどではないにしろ、一息でその間合いを詰めている。しかし、やはりスギミヤさんのジョブは騎士(ナイト)であり、その本来の戦い方は防御力を活かした『受け』なのだ。


(何か考えがあるのか?)


 俺がそう思っていると、一気に間合いを詰めたスギミヤさんがやや外側から剣を振り下ろした。


(大振り過ぎる!焦ったのか!?)


 外側から弧を描く様に振り下ろされる剣。当然ユキに読まれ、彼女はスギミヤさんの左側へ回り込んで回避しようとする。


「えっ!?」


 そこで剣を抜いてはじめて彼女の顔が驚愕へと変わる。彼女の目の前に押し出される様にして盾が迫っていた。


(シールドバッシュッ!)


 そう、スギミヤさんは剣を囮に、彼女が回避したところへのシールドバッシュを狙っていたのだ。


(当たるっ!あれは躱せないっ!)


 俺がそう思った時!


 ――ギィンッ――


「なっ!?」


「えーっ!?」


 何が起こったのか分からなかった。鈍い金属音がしたかと思ったらスギミヤさんとユキの位置が入れ替わっていた。重心が前掛かりになっていたスギミヤさんは姿勢を崩し、踏み止まったところへ首筋に剣を当てられた。


「まだ続けますか?」


「いや…俺の負けだ…」


 スギミヤさんが降参を告げ、2人の手合わせは終了した。

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