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勇者ゲーム ~13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う~  作者: 玄野 黒桜
湿った大地に咆哮す

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災厄は笑みを湛えて

2020/9/2 改稿

 スギミヤさんが変異種の1体を倒したところで別の変異種が咆哮を上げた。それに呼び寄せられる様にして、更に数十匹の人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)がこちらに向かってきた。


「スギミヤさんっ!」


 俺はスギミヤさんへと駆け寄る。


「さすがにこれ以上は拙いです。離脱しましょう!」


「くっ!だがっ!」


 俺の提案に彼は視線を変異種へと向ける。


「いくらなんでも2人であの数を相手にしながら更に変異種を倒すなんて無理ですッ!生きていればまたチャンスはありますけど死んだらそこまでなんですよッ!」


 先ほどまでは俺が頭に血を上らせていたが今はスギミヤさんが冷静さを欠いている様に見える。


「それはそうだが…」


「スギミヤさんっ!」


 俺は珍しく煮え切らず俯くスギミヤさんに決断を促す。俺は彼の願いがどんなものかは聞いていないが、自らこんな状況の中に飛び込むほどの願いなのだろう。その願いを叶えるために必要なモノの一つが目の前にあるかもしれないとなれば、葛藤するのは分かる。それでも今は引くべきだと思うのだ。


「クッ!分かった。ここは一旦引く」


 恐らくそれほど長い時間ではなかったと思う。スギミヤさんの中でどれほどの葛藤があったかは俺には分からないが、顔を上げた彼は未だ未練を残しているような表情をしながらも言った。


「ありがとうございます!そうと決まれば――なっ!?」


「チッ!先回りされたかっ!」


 すぐに離脱しようと振り返った俺たちの目に映ったのは、森を抜ける道を塞ぐ様に集まった人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)たち、そして、その奥にあのリーダー格と思われる一際大きな変異種がいた。


(なんだ?)


 一瞬変異種と目が合った気がした。すると奴はその目を細める様な仕草をした。


(なっ!?笑った…のか…?)


 ぞわりっと背中に悪寒が走る。俺の目には確かに奴が笑った様に見えた。


「ニシダ?」


 固まった俺をスギミヤさんが怪訝そうに覗き込んでくるが、それに反応する余裕もない。


(笑った…確かに今奴は俺たちを見て笑っていた。クリーチャーに意思があるということなのか?)


 思い返してみれば今までの奴の行動にはそういった節があった様な気がする。数の有利を活かした物量攻撃、同種が倒された瞬間に増援を呼んだ機転、そした、今俺たちを離脱させないための退路の封鎖。こじ付けと言われれば確かにそうなのだが、あの俺たちを見る愉快そうな笑顔を見ると俺には奴に意思がある様な気がしてならない。


(考えるのは後だ。今は一刻も早くここから離脱しないと!)


 俺は軽く頭を振って逸れそうになった思考を戻す。


「すみません。大丈夫です。それよりどうしますか?完全に退路を塞がれてしまいました」


「そうだな…ん?あそこからなら何とか抜けられないか?」


 そう言ってスギミヤさんが指差した方を見ると、他のところに比べて若干ではあるが守りが薄くなっているところがあった。


 変異種に意思の様なものを感じた後なだけに引っ掛かるものを感じなくもないが、逆に言えば変異種以外は普通のクリーチャーだ。奴に意思があってもそれが上手く伝わっていないのかもしれないし、そもそも意思があるというのも俺の思い過ごしかもしれない。


「確かにあそこなら多少強引に突破出来そうですね」


「よし。あそこを抉じ開けて一気に奴らの後ろへ抜ける。その後は森の出口まで一気に駆け抜けるぞ」


「追ってくる可能性はないでしょうか?」


「可能性が無い訳じゃないが今はこの場を切り抜けることだけを考える」


 スギミヤさんの言葉に俺はわずかに浮かぶ不安を強引に自分の中へ押しやり同意する。


「じゃあ5秒前からカウントする。0で同時にスタートしてそこからは一気に駆け抜けるぞ」


「分かりました。あっ!ちょっと待ってください!」


「どうした?」


 俺はスタート準備に入ろうとするスギミヤさんにそう告げると、後ろで変わり果てた姿になっている冒険者たちへ近付いた。


(間に合わなくてすいません。せめてプレートだけは必ず街へ帰します!)


 心の中でそう言って急いで近くにあった3つのギルドプレートを拾う。俺たちが来る前に食われてしまったメンバーもいるのだろうがそれを探す時間はない。そのことを申し訳なく思いつつも俺はスギミヤさんの隣へ戻る。


「お待たせしました。いつでも大丈夫です」


「そうか」


 スギミヤさんは隣に戻った俺を少し驚いた表情で見たが、短くそれだけ呟くと改めて目標地点へと視線を移した。


「それじゃあ改めていくぞ。5…4…3…2…1…0ッ!」


「うおぉぉぉぉぉッ!」


 スギミヤさんのカウントに合わせて俺たちは目標地点に向かって一直線に駆け出した。対する人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)たちも一応の陣形らしきものは崩さないようにしながら行く手を阻もうと俺たちを取り囲む様に動き出す。


「はっ!」


 先に目標地点の人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)へ飛び込んだのはスギミヤさんだった。正面の蜥蜴の鼻先に一撃を入れると、ひるんだところを押し退ける様に地面へ倒す。


 俺たちは剣と刀を振り回した。倒すことが目的ではないので傷は浅くても構わない。とにかく少しでもひるませて奴らが塞いでいる道を抉じ開けることを優先する。爪や尾が掠って細かな傷を作るが気にしている余裕はない。


「ッ!!見えたッ!!」


 前を行くスギミヤさんの声にそちらを見ると、彼の目の前にいる人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)の向こうに森の外へと続く道が見えた。


「どけぇぇぇぇッ!!!」


 スギミヤさんが吼える。目の前の人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)の横っ面に強烈なシールドバッシュを見舞う。相手は吹っ飛び、遂に森の外への道が開けた。


「よしっ!このまま一気に駆け抜けるぞっ!!」


「はいっ!」


 俺たちは追い付かれる前に開けた道に向かって速度を上げた。そのとき―


「グギャァァァァッ!!」


「なにっ!?待ち伏せだとっ!?」


 道の両脇の茂みや木の陰から複数の人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)が現れて俺たちの行く手を阻んだ。クリーチャーが待ち伏せという戦術を使ったことにスギミヤさんが驚愕の声を上げながら慌てて足を止める。


(チッ!やっぱり奴には意思があるということかっ!)


 俺は自分のあまり当たってほしくはなかった推測が当たっている可能性が高いことに内心で舌打ちする。


「クソッ!完全に囲まれたッ!」


 俺たちは背中合わせになり、包囲する人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)へと視線を巡らせる。奴らはこちらを完全に包囲したからか、それまでの様に不用意には飛び込んで来ず徐々に包囲を狭めてくる。その奥では変異種がまた目を細めている。隣にはいつの間にかもう1匹の変異種が並んでいた。


(チクショーッ!笑ってやがるッ!!)


 その表情に怒りが湧くが今はそれどころではない。この状況が打開出来なければ待っているのは人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)に貪り食われる未来だ。


 二重、三重と俺たちを包囲しながらジリジリとその間隔を狭めてくる人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)


「とにかく隙を突いてもう一度包囲の外に出るしかない」


「やるしか…ないんですね」


 逃げ場のない俺たちは何とかその攻撃を凌いで、包囲の外へ抜ける隙を窺うしかない。そうして俺たちと人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)たちの距離が手を伸ばせば届く距離、2mほどになったとき――


「ギャォォォォォォッ!!!!」


 再びリーダー格の変異種が吼え、奴らが一斉に襲い掛かってきた。俺とスギミヤさんは我武者羅に剣を振るう。爪を躱せば噛み付きが、噛み付きを避ければ尾の一撃がやってきて、背中合わせの俺とスギミヤさんは徐々にその距離を離されていく。


「クソッ!」


 徐々に追いやられた俺は木を抱くようにして何とか背後からの攻撃だけは防いでいた。


「最後の1本か…」


 奴らから視線を逸らさずにポーションを取り出したがこれでラスト。抜け出せなければジリ貧だ。ポーションを飲み干して空き瓶を正面の1匹へ投げ付ける。怯んだところを懐に入り込み胴体を斬り付ける。


「ニシダッ!」


「えっ?ゴフッ!?」


 突然スギミヤさんに声を掛けられそちらを見ようとした瞬間、胸に衝撃が走り「ゴギッ!」という音が自分の内側から聞こえた。身体が浮き上がったかと思うと気付いたときには地面をバウンドしていた。


「ガハッ!」


 クルクルと回る視界の中で見えたのは、頭を下げる様にして巨大な額の角を突き出すあの変異種の姿だった。


「ゴホッ!ゴホッ!」


 どのくらい地面を転がっただろうか?止まると同時に不意に堰が出て、口から赤いものが飛び散るのが見えた。胸が痛い。


(ろ、肋骨が…折れ、て…は、いに…刺、さった…?)


 口からは「ひゅー、ひゅー」という空気が漏れ、いくら吸おうとしても空気を取り込めた気がしない。息苦しい。幸いカトリナさんに作ってもらった革鎧は頑丈だったため胸を貫かれることは無かったが中の身体はそうもいかなかった様だ。


(こ、こ…まで…なの、か?)


 胸の不快感が増し、口には鉄臭い味が広がる。遠くでゆっくりとこちらに近付いてくる足音が聞こえるが目が霞んで視界がはっきりしない。ぼんやりとした視界に人喰い蜥蜴(マンイーターリザート)らしき足が見えた。


(く、食わ…れ、る……)


 急速に視界が狭くなり、闇に閉ざされそうになったとき霞む視界に誰かの影が見えた。長い髪を後ろで束ねたその姿は――


「……イ…リ……ス…」


 それが俺が見た最後の光景だった。

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