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勇者ゲーム ~13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う~  作者: 玄野 黒桜
湿った大地に咆哮す

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閉ざしの森

2020/7/20 加筆しました。

2020/8/25 改稿

 アーリシア大陸の港町ハルヴォニに着いた俺たちは、船を提供してくれたカディオ商会のレオナールさんに案内された宿で俺の部屋に集まっていた。


「じゃあ早速なんですけど―そもそも俺はアーリシア大陸に来た目的をちゃんと知らないので、そこから教えてもらってもいいですか?」


 部屋には椅子が一脚しかないので俺がそれに腰掛け、2人がベッドに座るのを確認すると、2人にそう切り出した。


 そもそも俺はスギミヤさんとの話し合いが決別した後、エリーゼちゃんから誘われる形でここまで一緒に旅をしてきた。そのためコバヤシさんの襲撃の後に馬車の中でスギミヤさんから聞いた話以外はなんとなく目的地も聞けないままにここまで来てしまっていたのだ。


「そう、ですね……私たちの、いえ、私の目的地は…『閉ざしの森』です」


 俺の質問にスギミヤさんとエリーゼちゃんは顔を見合わせた。スギミヤさんが一つ頷くのを確認すると、エリーゼちゃんは少し悩んだ様だが、腹が決まったのか俺の目を真っ直ぐ見ると目的地を告げた。


「『閉ざしの森』?確かエルフの里がある森、だったかな?」


「はい、そうです。エルフさんたちが結界を張っていて他の種族はすぐに森の外に出てしまう、って言われてるみたい、です…」


 エリーゼちゃんは自信がないのか、最後のほうは声が小さくなっていった。


「目的地が『閉ざしの森』なのは分かった。で、そのエルフがいる森に行って君は何をするつもりなんだ?」


「そ、それは、その…」


 俺の言葉にエリーゼちゃんが顔を俯かせて口ごもる。そんな彼女から横に座るスギミヤさんへと少し視線を動かす。彼は俺たちの会話に口を出す気がないのか、相変わらず腕を胸の前で組んで目を閉じている。


(ここはこの子に任せる―ということか?)


 俺はスギミヤさんへ向けていた視線を彼女へ戻すと、彼女が話し出すまで少し待つことにした。


 エリーゼちゃんは時折顔を上げては、「あの」「その」と何かを話そうとするのだが、考えがまとまらないのかどう切り出せばいいのか分からないのか、結局続く言葉が出ないまま顔を俯かせることを繰り返した。


「…実は、私にもよく分からないんです……」


 やがて彼女は俯いたまま、消え入りそうな声でそう言った。


「よく分からないって?」


 俺はなるべく柔らかく聞こえるよう意識しながら聞き返す。


「……そこに行かなきゃいけないって、私の中で誰かが言うんです。そこに大切な“何か”があるって。だけど、それが何なのか、私には分からなくて、それで、それで!」


 話しているうちに気持ちが昂ぶったのか彼女の声は次第に大きくなり、最後にはバッと顔を上げて俺の目を見た。その蒼い瞳には今まで見たことのない強い意志がある様に感じた。


「あっ!す、すみませんっ!!私、なんだか興奮してしまって!」


「『閉ざしの森』の場所は分かってるの?」


 我に返ってあたふたし始めたエリーゼちゃんにそう言うと、彼女は「いえ…」とまた消え入りそうな声に戻って俯いた。横のスギミヤさんを見るが、いつの間にか目を開けていた彼も首を左右に振る。


「じゃあまずはその『閉ざしの森』の情報収集からだね」


「えっ?一緒に…一緒に来てもらえるんですか?」


 俺の言葉に彼女は弾かれた様に顔を上げた。俺はその様子に苦笑する。


「いや、元々そのつもりでこの大陸に来たんだし。むしろ俺だけこの街に置いて行かれても困るよ」


「っ!?ありがとうございます!ありがとうございます!ありが…」


「えっ!?ちょっ!なんでっ!?」


 俺がついて行くと言うと、ペコペコと頭を下げる彼女はついに堪えきれず泣き出してしまったため、今度は俺がおろおろする番になってしまった。



「お騒がせしてごめんなさい」


 泣き止んだエリーゼちゃんは顔を赤くしながら何度も頭を下げる。俺は慌てて「もう大丈夫だから」と伝える。

 やがて彼女も落ち着いたところで「コホンッ」と一つ咳払いをして仕切り直す。


「さて、とりあえず今後の行動としてはさっきも言った『閉ざしの森』の情報収集でいいですか?」


 2人が頷いたのを確認して話を次に進める。


「次に周囲の状況確認、特に噂になっている大移動(スタンピード)が実際に起こるのかは要確認です」


「あの、なぜでしょう?」


 俺の言葉にエリーゼちゃんが首を傾げる。


「『閉ざしの森』の場所が分かっても大移動(スタンピード)が発生するなら動けないからね」


「あっ!そうですね!いくらお2人が強くてもたくさんで攻めてこられたら危険ですよね!」


「スギミヤさんも問題ないですか?」


「ああ。それでどう行動する?」


 エリーゼちゃんが納得したところでスギミヤさんが先を促してきた。


「『閉ざしの森』についての聞き込みは2人にお願い出来ますか?俺はギルドや冒険者から大移動(スタンピード)について聞いてみます」


「分かった」


「分かりました」


「あっ、それとスギミヤさん、一応確認のためにも一度ギルドで適当な依頼を受けておきませんか?こちらのクリーチャーとも戦っておきたいですし」


「そうだな。では、明日の午前中はギルドへ行こう」




 ―コンコン―



 ちょうど話し合いがまとまろうとしたとき誰かがドアをノックした。俺が「どなたですか?」と確認すると、ノックの主はレオナールさんだった。


「すみません。皆さんこちらにいらっしゃいますか?アンットさんが食事の用意が出来たので食べるなら降りてこいと」


「分かりました。全員揃ってるのですぐ行きますね。わざわざありがとうございます」


 ドア越しに食事を伝えてくれたレオナールさんにお礼を言う。他に何か確認しておきたいことはあるか2人に聞いたが、どちらも首を横へ振ったので俺たちは3人で食堂へ向かうため部屋を出た。





 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 1階に降りて受付の反対側を奥に進むとそこが食堂だった。中に入るとすでにレオナールさんが席に座っている。


「お待たせして申し訳ありません」


「いえいえ、僕も先ほど降りてきたところですから」


 レオナールさんに軽く謝罪して席に座ると、すぐに奥からアンットさんがたくさんの皿を持って出てきた。


「おっ、降りてきやがったな!俺の料理は旨いぞ!腹いっぱい食ってくれ!」


 言いながらテーブルの上に次々と料理を並べていく。


「おおっ!旨そう!!」


「凄いですっ!!」


 並べられたのはサラダにスープ、近海で採れた魚を野菜と煮込んだブイヤベースのような料理、そして…


「こ、これは?」


「ああ、ニシダさんたちははじめてですか?これはパエッリャというこの辺りの伝統料理だそうです。グラーノという穀物と具材を一緒に炊いているらしいですよ。この大陸では殆ど耕作が行われていないので、フェルガントから届く小麦以外はこのグラーノが主食になっているそうです。」


 俺の呟きにレオナールさんが説明してくれるが、半分くらいしか耳に入らない。何せ見た目はどう見てもパエリヤなのだ。


「スギミヤさん…」


「ああ…」


「あ、あの…2人ともどうかし「「いただきます!」」た、えっ!?」


 パエッリャを見つめて放心状態になっている俺とスギミヤさんにエリーゼちゃんが話し掛けようとしたが、俺たちはその声を待たずに自分たちの皿にパエッリャをよそい始めた。いきなり動き出した俺たちにエリーゼちゃんが驚きの声を上げるが気にしていられない。俺たちはパエッリャを我先にと掻き込む。


 はじめて食べたグラーノは不思議な食感だった。見た目は古代米のような若干赤黒い米なのだが、最初は‘ぷちっッ’とした歯触りあって日本で食べていた米に比べると繊維質な感じがした。


「うーん、悪くはないんですが…」


「そうだな…少し繊維が口の中に残るな」


「えっと…お2人はグラーノを食べたことがあるんですか?」


 俺とスギミヤさんの反応にレオナールさんがおずおずと上目遣い気味に聞いてくる。


「あっ、いえ、似たようなものが俺たちの故郷にあったもので…ははははは」


「そ、そうなんですか。どうでした?」


「ああ、少し違うがこれはこれで旨い。食材の味を吸っていて食が進む」


「そうですか!お口に合って良かったです!」


 俺がなんとなく誤魔化し、スギミヤさんは料理の感想を伝えるとレオナールさんは安心したようだ。


「美味しいです~♪」


 スギミヤさんの隣ではいつの間にかエリーゼちゃんが自分の皿に大量に盛られた料理を口いっぱいに頬張っていた。この子は少し―うん、少しのはずだ―食べ物に弱いところがあるな。


 こうしてわいわいと騒がしい食事を終え、食後のお茶を出されたところでレオナールさんに『閉ざしの森』について聞いてみることにした。


「『閉ざしの森』ですか?もちろん聞いたことはありますが、それがどうかしましたか?」


「いえ、せっかくアーリシア大陸に来たので一度行ってみたいと思いまして」


 俺が適当に誤魔化すとレオナールさんは「なるほど」と頷いた。


「そういう方は多いみたいですね。『閉ざしの森』と呼ばれていますが、実際は北部にある“大森林”の一部がそう呼ばれているそうですよ。何でもそこだけ奥に進もうとしても気付いたら元いた場所に戻ってしまってるとか何とか」


 レオナールさんは「まあぼくも噂で聞いた話ですけどね」と苦笑いを浮かべて話を終わらせた。


 気が付くと目の前に置かれたお茶もすっかり冷めてしまっていたので、その日はお開きにしてそれぞれの部屋で休むことにした。

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