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勇者ゲーム ~13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う~  作者: 玄野 黒桜
story of other Brave candidate

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意思と覚悟と責任と side 九能 有希

そろそろ3章も終盤です。




2020/8/23 改稿

 こちらの世界に来て1ヶ月。

未だに何故私が選ばれたのか分からないまま、今日も剣を振るう。



 自分で言うのもなんだが、私は平凡な人間だ。

家がたまたま剣術の道場だから人より早く始めただけで才能なんてない。


 容姿だって平凡で、化粧だってしたことないし髪だって染めたことはない。何となく伸ばした髪は剣を振るときに邪魔だから後ろで纏めるだけ。身長だって漸く中3女子の平均だ。


 だから、全国大会で優勝したときに『美少女剣士』とか『剣姫』とか雑誌に書かれたのは恥ずかしかった。


 恋愛とか彼氏とかはよく分からないから、告白されても断るしかなくて心苦しい。私なんかよりもっと女の子らしい子を選べばいいのに。


 そんな私だから『叶えたい願い』って言われても特にない。

 それも人を殺してまで叶えたいことなんてある訳ない。


 いっそこんなの辞めてしまいたい。

 人を殺すのもどうかと思う。

 もちろん自分が死ぬのだって嫌だ。


 殺し合いなんて止めたいとも思うけど、『叶えたい願い』がない私には、他の人がどんな思いで戦っているのか分からない。だから今の私にはきっと、彼ら・彼女らの願いを否定する権利はないのだと思う。


 さすがに消えたくなかったからここまで来たけど、モヤモヤしたまま1ヶ月が過ぎてしまった。おじいちゃんがいたら「剣筋に迷いがある。」とかって怒られたかも。




 私がこの世界でお世話になっているのは、アーリシア大陸っていうところの猫耳族っていう頭に猫耳とお尻にしっぽが生えてる人達の村だ。


 アーリシア大陸には他にもたくさん獣人種って呼ばれる人たちが暮らしてるけど、みんな同じ種族で固まって暮らしてるから普段はあまり会うこともない。


 この大陸の人達は森や草原、湿地帯で動物やクリーチャーっていう魔物?を狩ったり、植物を採集して暮らしてる。

 一度「耕作はしないの?」と聞いたら、「先祖代々こうして暮らしてる。それを曲げて祖霊を裏切るようなことは出来ない」と言われてしまった。きっとそれがここの人達の生き方なのだろう。


『働かざる者食うべからず』ということで、私もここでは狩りに参加している。ジョブが【剣士(フェンサー)】なので他に役に立てることが思い付かなくて…。


 私が剣術を始めた頃、師匠だったおじいちゃんは事ある毎に『どんなに綺麗事を言ったって剣は人を傷付けるための道具だ。剣を使うときはちゃんと自分で考えなさい。剣を抜くと決めることを誰かに任せたり、委ねたりしたらダメだ。』と言ってた。


 小さかった私には『剣を人に向けちゃダメ』くらいの認識だったけど、あれは『剣を抜いた責任は自分で取れ』ってことだったのかな、と生きるために他の生命を狩るようになって思った。




「また難しいこと考えてる?」


 後ろから抱き締められて耳元で囁かれた。思わずビクッとしてしまう。


「もうミア!気配を消して近付かないでよ、びっくりするから!!」


 私は後ろ抱き着いてきたミアに文句を言う。

 ミアはクスクスと楽しげに笑って私を抱擁から解放する。


「ごめんね!ユキの反応が可愛くて」


 そう言って「てへっ」って感じで舌を出す。

 うん、全然悪いと思ってない!!


 彼女はミア。

 ここで最初に出来た私の友達で猫耳族のお姫様、とは少し違うかもしれないけど族長さんの娘だ。まあ一番偉い人の娘で他の人からは「姫様」って呼ばれてるから間違いでもないか!


 ミアは真っ白な毛の猫耳としっぽの猫耳族だ。

 歳は私と同じ15歳。この世界だともう大人だ。


 因みに猫耳もふもふもいいけど、ミアの場合はしっぽが可愛い!

 照れると両手を頬に添えてくねくねする体に合わせてくねくねするし、嬉しいとぶんぶん振られるのだ!


 こほんっ!

 失礼。可愛いミアのしっぽを思い出して少しだけ興奮してしまいました。

 あっ、そっちの趣味はないですよ?


「それでミア、どうかしたの?」


 私はミアのゆらゆらと揺れるしっぽを見ながら聞く。


「あっ、そうだ!そろそろ狩りに行く時間だから呼びに来たんだよー♪」


 ミアがニパッ!って感じに笑う。

 もうそんな時間!?考え事をしてた気付かなかった。


「皆を待たせちゃうし行こう!」


 私は立ち上がって村の入口に駆け出した。


「まっ、待ってよー!」


 後ろから出遅れたミアの声が追い掛けてくる。私は振り返らずに走った。




 村の入口にはすでに十数人の男女が集まっていた。獣人種は身体能力が高いので、基本的に男女ともに狩りに参加する。


「遅くなりました!」


 集まっていた皆に謝って頭を下げた。


「じゃあ皆揃ったし行こうか」


 今回のリーダーの男性がそう言うと皆で村を出る。こうして大人数で狩りに行くけど、猫耳族が実際に狩りをするときは多くても4、5人で行う。猫の性質に近いからか集団戦は苦手みたい。


 こうして数十人で狩場近くまで移動したら、あとはグループに分かれて狩りをする。


 私のグループは私、ミア、男性で年上のマイケルさんと同い年のレオくんの4人だ。マイケルさんが全体を見ながら立ち回る役で、それ以外の3人がとにかく突っ込むという何とも脳筋なパーティーだ。


 ミアは私が後ろを取られても気付かないくらい気配を消すのが上手い。

 だから、狩りのときはいつも先頭で突っ込んでいく。私はそれを剣でフォローすることが多い


 こうして誰かと肩を並べて戦うのは初めての経験だ。

 あちらの世界では喧嘩なんてしたことないし、ましてや試合や稽古以外で人に剣を向けたこともない。


 試合だって団体でも1人ずつ戦う勝ち抜き戦だから、集団で何かと戦うっていう経験がなくて最初は戸惑った。目の前の敵だけじゃなくて、味方の動きにも気を配らないといけないんだもの。


 それに誰かを守ったり守られたりする戦いもはじめてで、戦っているのに安心感がある不思議な気持ちになった。




 いくつか獲物を狩ってそろそろ帰ろうかという話になったとき、周りを警戒していたマイケルさんが、突然焦り始めた。


「マズい、少し奥に入り過ぎた!この辺はバジリスクの縄張りだ!!」


 マイケルさんが慌てて叫ぶ。


 バジリスクは大きな蛇とトカゲの中間のような姿をしてるらしい。

 かなり強い毒を持っていて、すぐに死ぬ訳じゃないけど村に帰らないと解毒出来ないから、普通の狩りのときは絶対縄張りに近付かないように言われていた。


 どうも私たちは狩りに夢中になり過ぎて、気付かないうちに彼らの縄張りに入ってしまっていたみたい。


 今の時期はちょうど繁殖期で一匹に遭遇すると必ず近くに番もいるそうだ。それだけでもマズいのに、卵を産んだ後はそれを護るために、いつも以上に気性が荒くなるらしい。


 私たちは相手を刺激しないように、ゆっくりと周りを警戒しながら縄張りの外を目指して移動する。


 バジリスクは一匹でも倒すのに苦労する。

 それが今は二匹も襲ってくる可能性があるのだ。

 緊張で汗が吹き出して喉がカラカラに渇いていく。


 最悪襲われてもバジリスクは縄張りの外には出てこないので、そこまで逃げられれば何とかなる。


 このままなら戦わずに縄張りを出られそう。皆も少しホッとした様だ。


 それが行けなかったのか、それともこちらの緊張が弛むのを待っていたのか、もうすぐ縄張りの外というところでバジリスクが一匹、猛然とこちらに駆け出してきた!


 追い付かれる前に縄張りを抜けられるかはギリギリ、一旦迎え撃ちつつ縄張りの外に後退するか、一か八か縄張りの外へ駆け出すかの選択を迫られる。


 どうするのか確認しようとした時、一瞬早く、気配を消したミアがバジリスクに不意打ちを仕掛けようと駆け出した。


「ダ、ダメーっ!」


 私はミアに向かって叫ぶ。

 私の予想が正しければ、バジリスクに気配遮断はあまり効果がない。たぶん彼らはあちらの世界の爬虫類と同じように、ピット器官を持っている。気配を遮断しても体温を消せる訳ではないのでたぶんミアの動きは気付かれている。


 私はミアをフォローするために遅れて飛び出す。


「クっ、クソっ!」


 後ろではマイケルさんとレオくんも遅れて迎撃体勢に入ったみたいだ。


 私は前を疾走するミアとバジリスクを見る。


 ミアは気配遮断に自信を持ってるから、たぶんこのままバジリスクの左の側頭部に一撃を入れて、出来れば気絶、それが無理でも横に倒せればと考えてるみたいだけどバジリスクはミアから視線を外してない!


 それほど目がいい訳じゃないだろうから、視線が分かりにくいから彼女は気付いてないみたいだけど、バジリスクはミアが仕掛けたタイミングで毒の息を吐くつもりみたい。


 私は側頭部を狙うミアの更に外側に回る。

 ミアが飛び上がりバジリスクの側頭部に蹴りを入れようと振りかぶる。だけど、バジリスクも顔を動かして正面からミアを捉えてる。


 気付かれていると思っていなかったミアは驚いて固まってしまっている。マズい!


「くっ!」


 私は不完全な体勢から飛び上がり、バジリスクの側頭部に一撃を入れる。


―ゴンッ―


 鈍い音に合わせて私の手にも硬い物を叩いた様な感触が伝わる。


 私はそのままの勢いで左からミアにタックル、彼女をバジリスクの間合いの外へ弾き飛ばす。私は私でミアとぶつかって勢いが殺されたので、体勢を立て直せないまま背中から地面に落下する。


「かはっ!」


 何とか最低限の受け身は間に合ったけど衝撃で息が詰まる。

 けど、それよりも今は体勢を立て直さないとマズい!


 私は無理やり起き上がり、バジリスクに視線を向ける。少しはダメージがあったのか、バジリスクは頭をしきりと振っている。


 チラリと後ろを見れば、私に吹き飛ばされたミアをレオくんが回収している。


 今のうちに回復しようと腰のポーチを開ける。

 落ちたときの衝撃で瓶が割れて、ポーションが何本かダメになっていた。

 無事なものを取り出して一気に煽る。


 その間もまだ視界が戻らないのかバジリスクはしきりと頭を振っている。

 そのバジリスクの鼻先にマイケルさんが煙幕玉を投げつける。硬い鱗に当たった煙幕玉が弾けバジリスクの頭部を包んだ。


 バジリスクが煙幕に視界を奪われている間に私たちは急いで縄張りの外へ撤退した。




 念のため縄張りから少し距離のあるところまで走ってきたけど、追い掛けてくる様子もないので漸く私たちは足を止めた。


 ミアは私が吹き飛ばした影響で気絶してレオくんがおぶさっている。


 私は羽織っていたマントを脱ぐと、折り畳んで枕にして、その上にミアを寝かせてもらった。

 マイケルさんが気付け薬を取り出して嗅がせると、「うっ!」という呻きとともにミアが目を覚ました。


「大丈夫?」


 私が声を掛けると、ぼうっとしていた目の焦点が合って飛び起きて周囲を見回す。


「バジリスクはっ?!」


 状況が飲み込めていないので慌てているミアに、


「逃げ切った。とりあえず念のためこれ飲んどけ」


 とマイケルさんがポーションを渡す。ミアは怪訝そうな表情でポーションを受け取って飲み干した。


「何がどうなったの?」


 漸く少し落ち着いたミアにマイケルさんが状況を説明する。ミアは自分の気配遮断が通用しなかったことがショックだったようで、俯いて唇を噛み締めている。


「ユキは何で姫様の気配遮断が通用しないと気付いたんだ?」


 レオくんが不思議そうに聞いてくる。

 それはそうだろう。たぶんこの世界の知識に普通の五感以外の感覚があるなんて知ってる人はいない。


 私はピット器官について説明した。

 もちろんあちらの世界については話せないので、他の爬虫類が暗闇で獲物を採っているのを観察して、夜目のきく動物とは違った目をしているのではないかと思ったと推測風に話した。


 ミアはまだ立ち直れない様だけど、私が吹き飛ばしたことを謝ったら、「ううん、助けてくれてありがとう」とお礼を言われた。




 村に戻った私たちは族長に報告に行ったがかなり怒られた。

 とくにマイケルさんが判断する前に飛び出したミアは、こっぴどく怒れた上、しばらく狩りへの参加を禁止されてしまった。


 ミアは目に涙を溜めて、小さく「ごめんなさい」と呟いたきりしょんぼりと肩を落としていた。




 族長のお説教も終わり、部屋に戻った私は昼間のことを思い出していた。


 バジリスクの縄張りに気付いたときは生きた心地がしなかったし、ミアが飛び出したときには今までにない焦燥感に駆られ、それ以上に「助けないと!」と思ったら駆け出していた。


 私はここの人達が大好きだ。

 誰かが危ないとき、私の剣が届くなら私は剣を抜くと思う。

 例えそれで誰かを傷付けてしまっても、私は剣を抜くと思う。


 ああ、そうか!

 私は自分の意思で、覚悟で、責任で、私の剣が届く範囲の大切な人達を守りたいんだ。助けたいんだ。


 それはきっと『勇者にならないと叶えられないこと』じゃない。

 今の私が、私の意思で、私の覚悟で、私の責任で、行動して受け止めるものなんだ。


 私の願いは私自身で叶えることが出来るんだ。


 きっと勇者にならないと叶えられない願いの人もいる。

 私はそれを否定しない。

 そのために行動する意思や、結果を受け止める覚悟や責任はその人のものだ。

 その結果、私の願いの前に立ち塞がるなら、私も自分の意思で、覚悟で、責任で、私の願いを守るために戦おう。


 頭の中がすっきりした。


 私は明日も剣を振るう。

 私の意思で、覚悟で、責任で。

 私の願いを叶えるために。

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