コワレモノ
2020/8/23 改稿
アンデッド。
それは生きた死体やスケルトン、ゴーストなどに代表されるクリーチャーの総称だ。
発生原因はよく分かっていないそうだが、遺体をきちんと葬らないと発生すると言われており、一体でも発生するとその場所ではアンデッドの発生率が高くなると言われている。
また、【死霊使い】が死体から作り出し使役することもある。彼らはそうして多くのアンデッドを使役することで、より強いアンデッドを生み出すことが出来るようになるらしい。
「隊長、この近くにアンデッドが発生しやすい場所はあるのか?」
「そんな話は聞いたことがありませんし、今まで何度もこの辺りを通りましたが一度も遭遇したことがありません!」
スギミヤさんの問いに隊長さんが答える。
確かに昨日の村でもそんな話は聞いていない。さすがにそんな場所があれば噂にもなるだろう。
「つまりはあのアンデッドの集団は自然発生したものじゃない。操っている奴がいるはずだ」
スギミヤさんがそう指摘する。発生場所が近くにないということはそういうことなのだろう。そういえば…
「確かブルノ都市長がアルガイアの北西部で墓荒らしが発生してると言ってました。もしかするとこのアンデッドはその墓から暴かれた死体かもしれません」
「なるほど。どちらにしろこちらを襲ってくる以上は倒すしかない」
スギミヤさんの言葉に俺も隊長さんも頷く。
「【死霊使い】はどうしますか?」
隊長さんが確認する様にチラッと俺を見てから聞いてくる。隊長さん的にはここで一緒に片付けてしまいたいのだろう。俺としては何とかこの場で処分するのは止めるように説得したいのだが…
「どう処分するかは別にして、操っている奴を倒さないと死体がある限りは数が増え続ける可能性がある。最悪でも数がこれ以上増えない様に取り押さえる必要はあるな」
スギミヤさんにしては珍しく玉虫色な答え方をする。
まあ【死霊使い】自身の戦闘能力がどうなのか分からない限り、不用意に仕掛ける訳にもいかないだろう。
スギミヤさんの話に俺がそう付け加えると、隊長さんも納得して部隊にもそう指示してくれた。その間にもいよいよアンデッド達が迫ってきた。
「俺が魔法銃で足を止めます!皆さんは頭を潰していってください!」
「分かった!」
俺が提案するとスギミヤさんがそう答え、衛兵たちも頷く。
生きた死体やアンデッドは動きがそれほど早くないし、身体も腐敗して脆いので簡単に攻撃出来る。だが、光属性の魔法で消滅させるか、火属性の魔法で焼き尽くすか、頭部を完全に破壊しない限り動き続ける。
俺の魔法銃はまだ属性付与をしていないので、無属性魔法の弾丸を撃ち出すことしか出来ない。頭部を完全に破壊出来ればいいが、頭が吹き飛ぶほどの魔力を篭めると一体倒すだけでかなりの魔力を消費してしまう。
スギミヤさんを含め、護衛に光属性や火属性を使える者は居ないし、剣や槍が主な武器で鈍器を装備している者も居ないので、頭部破壊に手間取ることが予想出来た。
そのため俺は脚の関節部を狙い、少ない魔力で吹き飛ばして移動手段を奪うことにした。
片脚を失っても奴らは匍匐前進の様に這ってくるのだが、動きが制限されるので頭部を破壊するのが容易になる。
俺は次々とターゲットを変え、足首、膝、脚の付け根と次々と関節部分を撃ち抜いていく。
中には完全に破壊出来ていない奴もいるが、体勢さえ崩してしまえば後は前衛組が対応してくれる。
「フンっ!」
スギミヤさんは槍の石突きで攻撃しているようだ。恐らく何らかの技なのだろう。攻撃を受けた頭部が破裂する様に吹き飛んでいく。
「2人一組で攻撃しろ!まずは動きを完全に止めてから確実に頭を潰せ!」
衛兵隊に隊長さんの指示が飛ぶ。
こちらは2人一組で奴らの脚を完全に破壊してから、油をかけて焚き火から用意したであろう松明で火を付けている。
辺りには肉が焼ける嫌な匂いが充満している。
エリーゼちゃんは馬車で寝ているのでこの光景を見ないで良かったと思う。
「うげぇっ!」
前方からそんな声が聞こえてきた。慌ててそちらに目を向ける。
「うっ…」
正直見たことを後悔した。
奴らは脚を失ったり、頭部を破壊された死体に群がり喰らいついていた。
ぐちゃぐちゃと咀嚼音が聞こえてきて、酸っぱいものが込み上げてくる。
「おげぇぇぇ」
衛兵隊の中にも耐えられずにその場で吐いてしまった者もいる。
あまりに酷い光景に俺は魔法銃で死体に群がり喰らいつく奴らの頭部を片っ端から撃っていった。衛兵隊の中で動ける者はとにかく首を刎ね、油を浴びせて燃やしていく、そんな地獄絵図が広がった。
「まだ全滅しないのか…」
襲撃を受けてどのくらい経っただろうか?
誰かのそんな呟きに改めて周りを見回すが、まだ活動しているアンデッドがそれなりに確認出来る。
「いくらなんでもおかしくないか?20体ならもう倒せていてもいいはずだろ?」
衛兵隊からそんな声が聞こえてくる。
確かに燃やしてしまった死体が多いため正確な数は分からないが、すでに20体以上を倒していてもいいはずだ。
「■✕⚫…▲□…▼○…」
どこかでブツブツと呟く声が聞こえた気がした。
慌てて周囲に視線を走らせる。相変わらず星明かり一つないため周囲は深い闇であるが、生きた死体たちが燃えているため所々で火が周囲を照らしている。
そんな状況の中、燃える死体の奥、一層闇か深くなっている場所に目を凝らすと人影が2つ見えた。
1つは大きな影。
距離もあるためはっきりとは分からないが、190cmくらいあるのではないだろうか?
もう1つはそれよりも頭2つ分くらい小さな影。こちらは160cmくらいだと思う。
気付いてみれば、『何故今まで気付かなかったのか?』と思うほどの濃密な死の気配を漂わせた2つ影、そのうちの小さな影から周囲に渦を巻くようにして、どんどんと魔力が高まっていくのを感じた。
「あいつが【死霊使い】だっ!」
「任せろっ!」
俺が小さいほうの影を指さした瞬間、スギミヤさんが影に向かって残像を残すようなスピードで突っ込んでいった。
そして、その槍が届こうとした時!突然穂先が上へと跳ね上げられた!
「っ!?」
あまりの速さに何が起こったのか分からなかった。
よく見るとそれまで横に居て微動だにしなかった大きな影が、一瞬で背負っていた大剣を抜き、スギミヤさんの突きを下から跳ね上げた様だった。
相手は振り上げた大剣をそのままスギミヤさん目掛けて振り下ろす。
かなりのスピードで突っ込んでいたスギミヤさんは強引に姿勢を変え、右へと転がる様にして斬撃を躱す。そのままの勢いで距離を取って起き上がり、槍を構え直した。
大きな影とスギミヤさんが睨み合う。
「くふぅっ、くふふふふっ」
そんな高まった緊張感を破る様な場違いな女性の笑い声が聞こえた。
視線を動かすと、声の主はいつの間にか詠唱を止めていた小さな影からの様だった。
「くふふ、よぅやぁーく出会ぁえまぁしぃたぁっ!有輝也さぁん、もぅすぅぐでぇすよぉ♪」
小さな影はそう言いながらゆっくりとフードを脱いでいく。
「勇ぅ者候ぉ補ぉぉぉっ、見ぃぃ付けぇたぁ~♪」
そうして現れたのは心底嬉しそうな、しかし、どこか壊れてしまった様な笑みを浮かべる黒髪の女性の顔だった。




