新たな旅路へ
薄暗かった周囲は明るくなり、目の前にはすっかり顔を出した太陽が見える。
「はぁぁぁ。やっと見えてきた…」
見えてきたハルヴォニの外壁に先頭を行くディーサさんが漏らす。さすがに声に疲れが見える。
「それにしてもひでぇ状況だな…」
街が近付くにつれて広がる光景にジルベールさんが顔を顰める。そこかしこにクリーチャーと思われる残骸が転がり、あちこちに冒険者たちが座り込んでいる。どの顔にも疲れが滲んでいる。
「ん?あれはエルネストたちか?」
周囲を見ながら歩いているとアルバンさんが呟いた。視線を向けると確かにエルネストさんと夢幻の爪牙の面々がいるのが見えるのだが、何やらスヴェアさんとヴェロニカさんが他の冒険者らしき一団に食って掛かっているように見える。
「何やってんだあいつら…」
ジルベールさんが呆れた様に言うのだが――
「ッ!?なんであの人たちがッ!?」
「えっ?ちょっとノブヒトさんッ?」
スヴェアさんたちと揉めているらしい一団に見覚えがあった俺は彼らに向かって駆け出した。後ろからリースベットさんの驚いた声が聞こえてくる。
「ん?ノブヒトじゃないかッ!」
「は、はい!そんなことよりミアさんッ!!」
気付いて声を掛けてくれたエルネストさんには申し訳と思いながらぞんざいに返事をした俺は、彼らと揉めているらしい一団――猫耳族のミアさんに向かって声を掛けた。
「おー!ノブヒトだー!やっほー!!」
「おい!聞いてるのかッ!て坊やたちも戻ってきたのか?」
「あっ!お疲れ様~!!」
俺に気付いたミアがいつのも様に軽い感じで俺に手を振る。それを見て彼女に詰め寄っていたスヴェアさんがヒートアップしかけるが、彼女も俺に気付くとこちらに話し掛けてくる。ヴェロニカさんも相変わらず緩い。
「ど、どうも。それでこれは一体どういう状況なんですか?というか何故猫耳族の皆さんがここに?」
彼女たち以外の俺に気付いた面々が手を上げたり頭を下げてくれる。その中に控えめに頭を下げてくるユキの姿を確認しながら俺は改めて状況の説明を求める。
「ん?私たちはもちろん助けに来たんだよー!この人たちはよく分かんないんだけど、なんかさっきからユキと勝負したいとか言ってしつこいんだよー!」
「ああん?誰がしつこいだって?」
「勝負!勝負!」
「もう!リーダー落ち着いてください!!ヴェロニカも煽らないの!!」
ミアが俺に状況を説明してくれるのだが、その言葉を聞いたスヴェアさんが低い声を出しながら彼女を睨み、隣ではヴェロニカさんが同調して能天気な声を上げる。そんなスヴェアさんをカーリンさんが宥めている。ドグラスさんとランヴァルトさんは巻き込まれないようにするためか少し離れた位置で視線を逸らし、エスネストさんは肩を竦めて苦笑いを浮かべている。
「あー、なんとなく状況は分かりました…」
状況を聞いた俺は頭が痛くなった。そういえばスヴェアさんとヴェロニカさんは猫耳族の野営地まで勝負に行くとか騒いでたっけ。
「そういえばレイジはー?」
俺がどうしたものかと頭を抱えていると、騒ぐスヴェアさんを無視してミアがこちらに話し掛けてきた。
「スギミヤさんはちょっと無理をして…あそこで気を失ってます」
俺はこちらに向かって歩いてきているアルバンさんたちを指差しながら彼女に説明をする。
「そっかー。それじゃ仕方ないかなー!ノブヒトの顔も見たし、私たちはそろそろ帰るよー!」
「えっ?」
俺は彼女の言葉に驚く。どうやら俺たちを待ってくれていたらしい。
「も、もうすぐギルドから人が来ますからそれまで待っていてくださいよ!」
カーリンさんもスヴェアさんを宥めながらギルドの人間が来るまで待つように説得する。
「えー。いいよー。普人のルールとかよく分からないしー。それじゃノブヒト、前にも言ったけど北の大森林に行くときは村に寄ってねー!みんなー!帰るよー!!」
「えっ、ちょっ!?」
「おいっ!ちょっと待て、コラッ!あたいの話はまだ終わってないぞッ!!」
「ちょっ、リーダー暴れないでッ!ちょっと待ってくださいっ!」
言いたいことだけ言うと俺に手を振って撤収を始める猫耳族。それを見て更にヒートアップするスヴェアさんとそれを抑えながら猫耳族を止めようとするカーリンさん。
(なんだこの状況…)
どんどんカオスになっていく状況に俺は現実逃避することにした。
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「一体何があったんだ?ってノブヒトどうした?」
漸くこちらにやってきたアルバンさんが遠くを見ている俺を見て首を傾げる。
「いえ、ちょっと疲れが一気に出まして…」
俺の口から乾いた笑いが漏れる。
「そ、そうか。ま、まあ大変だったからな。それで彼は何なんだ?」
アルバンさんは俺の様子から何を感じたのか立ち去っていく猫耳族へと話題を変える。
「彼らは猫耳族です。どうやら助けに来てくれたみたいで」
「ほう。彼らがそうなのか」
俺の説明を聞いたスギミヤさんが改めて彼を見る。
「それで何を騒いでいたんだ?」
アルバンさんが視線を猫耳族から夢幻の爪牙の面々へと移した。
「ええと、実は――」
俺は今起こっていたことを説明した。
「なるほど。全くスヴェアにも困ったものだな」
言いながらアルバンさんは溜息を吐いた。
「分かった。後は俺に任せてお前は少し休んでいろ」
「ありがとうございます」
俺が礼を言うと頷いたアルバンさんは未だに騒いでいるスヴェアさんたちの方へと歩いていった。
それから暫くして俺たちは漸く門を潜って街に入った。
「ふー。漸く帰ってきたな」
「ああ、全くだ。何日も離れていた気がするぜ」
そんなエルネストさんとジルベールさんの声が聞こえてくる。
「さて、俺たちはギルドへ報告へ行くからノブヒトはレイジを連れて宿に戻るといい」
「えっ?俺も一緒に行きますよ?」
俺はアルバンさんの言葉に驚く。
「今日のところは報告だけだからな。レイジもまだ目を覚まさないし詳しい報告は明日でも大丈夫だろう。俺からも話しておくから今日はゆっくり休め」
「そうですか…。分かりました。ありがとうございます」
アルバンさんの言葉に俺は頭を下げる。彼は「気にするな」というと他の面々にもこれからについて説明を始めた。
「落っことすなよ」
「ええ」
俺はジルベールさんから背負っていたスギミヤさんを受け取る。彼は規則正しい寝息を立てていた。
「それじゃ今日はゆっくり休めよ!またな!」
「ありがとうございます。皆さんもゆっくり休んでください」
各々と挨拶を済ませると彼らはギルドへ向かって歩いていった。
(漸く大移動も終わりか)
彼らが立ち去ると感慨深いものが込み上げてきた。
(そういえばあのとき聞いた声はやっぱり…)
一人になったところで変異種を倒したときに聞いた声のことを思い出す。幻聴かもしれない。だが、俺にはやはりあれがマサキ・ベレスフォードという人物の声だったような気がするのだ。結局、彼を救うことは出来なかった。これで勇者候補の犠牲は2人目だ。
(俺はどうすれば良かったんだろうか…)
他に何か出来ることはなかったのか?そんなことばかりが頭に浮かんでくる。
(俺は変われているんだろうか?)
あのときフラッシュバックしてきた光景が頭を過ぎる。
(次はいよいよ“閉ざしの森”か。そこに行けば何か見つかるんだろうか?)
この世界に来た意味――ユキに言われた言葉を思い出す。
「ノブヒトさーんっ!」
どこかで俺を呼ぶ声が聞こえた。視線を上げるとこちらに手を振るエリーゼちゃんたちが見えた。
(まずは無事に帰ってこれたことを喜ぼう)
そう思った俺は背中のスギミヤさんを背負い直すと手を振る彼女たちに向かって歩き始めた。
これにて第4章終了です!
長い章にお付き合い頂きありがとうございました。
幕間を1話挟んで第5章のスタートになります。
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