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勇者ゲーム ~13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う~  作者: 玄野 黒桜
湿った大地に咆哮す

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矜持VS矜持

 訓練場の使用申請はあっさり受理された。先に個室を出た夢幻の爪牙の面々に続いて、俺たち、蒼月の雫と12人がぞろぞろと連なって移動する。


 訓練場は解体場の隣だった。相変わらず混雑しているらしい解体場の喧騒が遠くに聞こえている。俺たちは訓練場の入り口付近で立ち止まった。一歩前に出たスヴェアさんに合わせて俺たちも前に出る。


「さて、どっちがあたいの相手をするんだい?なんなら2人まとめてでもいいぜ?」


 スヴェアさんはニヤニヤと挑発的な笑みを浮かべながら俺たちを見る。


「その必要はありません。あなたが気に入らないのは俺でしょう?」


 言いながら俺は更に1歩前へ出た。


「へぇー。よく分かってんじゃないか。その度胸だけは認めてやるよ」


 彼女は一瞬意外そうな顔をしたが、その表情はすぐ獰猛な笑顔に変わる。


「アルバン、審判やりな。あんたもついておいで」


 そう言って歩き出したスヴェアさんに続いた俺は、訓練場の中央で彼女と対峙した。俺たちの中間にやや後ろに下がる形でアルバンが立つ。


「ルールは何でもあり、どちらかが気絶するか降参するまでの勝負でいいかい?」


「構いません。全力でいきます」


「へぇー。まあ精々死なねぇようにな」


 俺の返事にスヴェアさんはニヤニヤと笑みを浮かべると、軽く右足を引いて腰を落として肩に担いでいた大きな斧を両手で構えた。


 俺も1本だけ剣を抜いて正面に構えると改めて彼女を観察する。


 彼女は全身鎧(フルプレート)ではなく金属製の軽鎧を装備している。

 バイザーはないが頬までを覆う兜にガントレットとアームガード、胴には胸当てを付け、足も膝上まで覆っていた。どちらかといえば動きやすさを重視している様だ。


 そして、なんと言っても異様なのはあの大きな斧、所謂“バトルアックス”というやつだ。

 2m近い長さの柄に子供なら3~4人は隠れてしまいそうな両刃が付いてる。今は構えているため両手で持っているが、彼女は普段片手で軽々と肩に担いでいる。あの細い体のどこにそんな力があるかは知らないが信じられない怪力だ。


(あれだけの大きさだ。いくら怪力だって懐に入ってしまえば長さが邪魔をするばず)


 立ち合いの後にユキに言われた言葉が脳裏を過ぎる。


(今俺に出来る全てをぶつける!)


 剣の柄を握る手に力を込める。


「準備は…いい様だな。それでは―」


 アルバンさんは俺たちをそれぞれ一瞥すると、スっと頭上に右手を上げた。


 一瞬の沈黙。

 空気が張り詰める。

 俺はいつでも飛び出せる様、少し腰を落として構える。


「―はじめっ!」


 アルバンさんの合図と同時に俺はスヴェアさんに向かって飛び出す。彼女はそれを予想していたのか、余裕の笑みを浮かべたままその場を動かず迎え撃つ体勢を取る。


 俺はそのまま突っ込むと見せ掛けて、彼女の間合いの一歩手前で左にサイドステップ。


「なっ!?」


 予想外の動きだったのか彼女の顔が驚愕に変わるのを見ながら俺は素早く左手を腰の後ろに回して魔法銃を引き抜く。間髪を容れず彼女に銃口を向けて5回引き金を引いた。


「チッ!小細工をっ!」


 彼女は殺到する5発の弾丸に苛立たしげな声を上げると、バトルアックスを正面に構えて盾にする。


 ―カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、カンッ―


 上半身を狙った弾丸は全て斧に当たって弾かれる。


「甘いんだよっ!―っ!?いないっ!?」


 弾丸を防いで斧の陰から顔を覗かせた彼女だが正面にいたはずの俺を見失う。


「こっちだよッ!」


「ッ!!?」


 彼女の視線が下がり、そこにいる俺を捉える。と、同時に俺は彼女の左肩目掛けて飛び上がる様に突きを放つ。


 俺は彼女が斧を盾にした瞬間に間合いを詰め、斧の動きが死角になる様に彼女の右下へと回りこんでいたのだ。


 俺が放った突きは直線を描いて彼女の左肩へと伸びる。斧を右側に構え、一瞬反応が遅れた彼女には迎撃することは出来ない。


(もらったッ!)


 俺がそう確信した瞬間―


「舐めんなよぉぉぉッ!!!」


 彼女は斧の先端を下げて柄を反時計回りに回転させると俺の突きを下から跳ね上げた!


「なっ!?」


 今度は俺の口から驚愕が零れる。剣を弾かれた勢いで腕が跳ね上げられ体を後ろへ持っていかれる。


「おりゃッ!お返しだぁぁッ!」


 彼女はそこで止まらない。回転し地面に突き立てた斧の先端を棒高跳びのポールの様に使って俺の右側頭部へ蹴りを放つ。

 俺は慌ててバックステップ。彼女の左足が空を切り、俺の顔ギリギリを通過する。が、彼女は柄を軸にしてまるでポールダンスの様に一回転すると再び俺を正面に捉える。更に着地した勢いを利用して斧を半回転させ持ち上げると上段から振り下ろした。


「チッ!」


 その流れる様な連撃に俺は堪らず大きく後方へ跳んで距離を取る。寸でのところで俺に躱された斧が地面へ深々と突き刺さった。


「なかなかどうして、小賢しいマネをすんじゃねぇか。だけど―」


 彼女は突き刺さった斧を地面から抜いてゆっくり体を起こすと、再び余裕の笑みを浮かべながら自分の額を指差す。


「なんだ?」


 俺は彼女の仕草を不思議に思ったが、そのとき自分の額から何かが流れるのを感じた。指で触れるとぬるりとした感触。慌てて指先を見るとそこには血が付いていた。


(おいおい、刃は当たってないんだぞ!?)


 彼女が振り下ろした斧の風圧、それだけでわずかだが額が切れてしまった様だ。


「さてさて、次はどんな小細工を見せてくれんだ?」


 彼女は相変わらずニヤニヤと挑発的な、いや、最早バカにしている様にすら見える笑みを浮かべている。俺はカァーっと頭に血を上るのを感じて慌てて頭を振る。


(クソッ!ダメだっ!熱くなるな。あれは単なる挑発だ)


 俺は熱くなる自分を心の中で諌める。今も彼女はああして余裕を見せているが、先ほど俺の攻撃で見せた驚愕の表情は本物のはずだ。


(あの大きな斧を思った以上に器用に使うし動きもトリッキーだ。だけど、やっぱり懐に入られるのは嫌なはず!)


 俺は自分に言い聞かせると再び駆け出す。今度はそのまま魔法銃を構えて引き金を引く。


「なんだ、またそれか?同じ手が通じると思うなよ!」


 彼女は俺の攻撃に呆れた様な表情を浮かべると、斧を正面に構えてくるくると回し始める。彼女に向かっていた弾丸が斧の回転に阻まれて打ち落とされていく。もう死角を作るつもりはない様だ


 俺は彼女の周りを反時計回りに回りながら引き金を引き続ける。


「ほらほら、どうした?これじゃいつまで経ってもあたいは倒せないぜっ!」


 そう言って彼女は俺を挑発してくるが、俺はそれを無視。引き金を引きながら彼女の周りを回り続ける。


「つまんねぇ奴っ!偉そうに啖呵切った割にビビッてんじゃねぇゾッ!」


 彼女は俺が挑発に乗ってこないことに苛立ち始め、繰り返される同じ攻撃に徐々に対応が雑になっていく。


「チッ!その攻撃にはもう飽きたんだよッ!この臆病者がッ!」


 ついに彼女の苛立ちが頂点に達しようとしたとき―俺はそれまでの円を描く動きから一転、彼女へ向かって一直線に飛び出した。


「おいおい、今更突っ込んできても遅ぇんだよッ!」


 何のフェイントも交えず一直線に向かってくる俺を苦し紛れと思ったのか、彼女は迎え撃つために斧を振り上げる。


 俺は彼女の動きに合わせて魔法銃を構える。


「チッ!その攻撃は効かねぇんだよッ!いい加減諦めなッ!!」


 彼女の言葉は無視、俺は三度引き金を引く。放たれた弾丸は彼女の上半身へ向かっていく。


「効かないって言ってんだろぉぉッ!」


 彼女はそう叫びながら斧を振って弾丸を弾く。その直後、俺は一瞬で魔法銃に今まで以上の魔力を込めて引き金を引いた。これまでよりも一際大きな弾丸が放たれる。


「そんな虚仮威しにビビると思ってるのかいッ!」


 彼女へ向かって放たれた弾丸は、しかし、彼女まで届かず、手前に着弾する。


 ―ドゴーンッ!!!―


 着弾の衝撃で周囲に凄まじい音が響く。


「フンッ!どこを狙って―ッ!?」


 自分に届きすらしなかった攻撃を鼻で笑おうとした彼女はそこで言葉を詰まらせる。彼女の目の前で着弾した弾丸が土煙を上げ視界を奪っていた。


「目眩ましだと!そんな小細工通用するかッ!――そこだッ!!なにッ!剣だけだとッ!!!」


 右側から放たれた剣を彼女は横薙ぎにして打ち払う。だが、そこに俺は居ない。剣を投げた俺は一瞬遅れて体勢を低くし彼女の懐へと飛び込む。


「はぁぁぁぁぁッ!!」


 気合いの声とともに彼女のガラ空きになった胴に両手を突き上げる様にして下から掌底を叩き込む。


「カハッ!」


 体をクの字に折り曲げた彼女の口から空気が漏れ、浮き上がった体が後ろへと吹き飛―ばないっ!?

 彼女はつま先で地面を引き摺りながらも俺の掌底を耐えてみせた。


「今の攻撃は悪かなかったよ。でも、まだ甘いッ!」


 驚愕する俺の耳に彼女の声が届くと同時、振り上げられた柄に顎を打ち上げられた俺は放物線を描く様に宙を舞っていた。

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