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勇者ゲーム ~13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う~  作者: 玄野 黒桜
湿った大地に咆哮す

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冒険者として、人として

2020/9/12 改稿

 ギルドを飛び出した俺は慌てて海の親父亭へと駆け戻った。入口の扉を開けて階段を駆け上ろうとしたところで、


「ん?ニシダ?」


「へっ?スギミヤさんっ!?」


 横合いから声を掛けられて階段の手前で急停止する。


「大丈夫か?そんな慌ててどうしたんだ?」


 危うく階段で躓くところだった俺に、スギミヤさんは不思議そうな顔をしている。


「宿にいてくれて良かったです!スギミヤさんを探そうと思ってたんですよっ!」


「お、俺を?」


「はいっ!」


 スギミヤさんは勢い込む俺を「落ち着け」と手で制すと、「こっちで話そう」と言って食堂の方へ歩いていく。俺もそれを追って食堂に入る。


「それで俺を探していたということだが何かあったのか?」


 手近なテーブルに向かい合って腰を下ろすと早速スギミヤさんが用件を聞いてきた。


「ギルドに伝言がありまして…明日、蒼月の雫と夢幻の爪牙の2組がギルドで会ってくれるそうです」


「っ!?………」


 スギミヤさんは俺の話に一瞬目を見開いたがすぐに表情を戻すと目を閉じた。そうして暫く考え込んだ後に目を開けると俺の目を見て一言だけ「そうか」と口にした。


「すみません。スギミヤさんの予定を確認せず、勝手に了承の返事をしてしまいました」


「構わない。こちらは謝罪する側だ。あちらの都合に合わせるのが筋だろう。それにこういうことは早く終わらせてしまったほうが後々拗れることも少ないだろう」


 俺が頭を下げると彼は特に気にした様子もなく言った。


「それから…俺のせいで巻き込んでしまってすみませんでした!」


 俺は一度頭を上げると、そう言ってもう一度頭を下げた。


「どうしたんだ、急に?」


「きちんとお詫びをしていなかったと思ったんです。俺があそこで勝手なことをしなければスギミヤさんまで処分されるようなことにはならなかったと思いますし…」


「それを言うなら俺がもっと早く撤退を受け入れていればお前が死に掛けるようなことはなかったはずだ。俺のほうこそすまなかった」


 俺の謝罪に対して今度はスギミヤさんが頭を下げる。


「そ、そんな!頭を上げてください!」


 俺が慌てて言うと彼はゆっくりと頭を上げた。


「これで俺たちの間でのこの話は終わりにしよう。2組には明日きちんと2人で謝罪すればいい」


 その言葉に俺も「分かりました」と言ってこの話は終わりにした。




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 翌朝、一つ目の鐘が鳴る頃に俺たちはギルドへとやってきた。


 受付に行くと広い個室に通された俺たちはそこで蒼月の雫と夢幻の爪牙の2組が来るのを静かに待つ。


 ―コンコン―


 暫く待っていると入口がノックされた。俺は一度スギミヤさんの方を見る。彼は俺と目が合うと静かに頷く。俺はそれを確認してから入口に向かって「どうぞ」と声を掛けた。


「失礼します」と声がして少し開いた扉から顔を出したのはギルド職員の女性だった。


「蒼月の雫と夢幻の爪牙の方々がいらっしゃいました。お通ししてもよろしいですか?」


 女性の確認にもう一度スギミヤさんを見る。彼はやはり頷くだけだったがそれを確認した俺は女性に「お通ししてください」と伝える。


「かしこまりました。少々お待ちください」


 女性はそう言うと頭を下げてから一度外へ出ていった。暫くすると再び入口がノックされる。


 今度はスギミヤさんに視線を送ることなく「どうぞ」と声を掛けると先ほどの女性の声で「失礼します」と聞こえて扉が開けられる。彼女は入室することなく後ろにいる人物に「どうぞ」と言うと扉の脇に控えた。


 最初に部屋に入ってきたのは蒼月の雫の面々だった。リーダーのアルバンさんを先頭にエルネストさん、ジルベールさん、ディーサさん、リースベットさんと続くがその表情は様々だ。


 アルバンさんとディーサさんは普段と変わらない無表情、エルネストさんは親しげな笑みを浮かべて俺たちを見ている。ジルベールさんはやや気まずそうに俯き、リースベットさんは曖昧な笑顔をこちらに向けている。彼らはテーブルを挟んで俺たちの向かい側に奥から順番に腰を下ろした。


 続いてリーダーのスヴェアさんを先頭にした夢幻の爪牙の面々。こちらも表情は様々で、憮然とした表情のスヴェアさん、俺たちと目が合うと笑顔で小さく手を振るヴェロニカさん、興味が無さそうなカーリンさん、最後に心なしか縮こまっている様に見えるドグラスさんとランヴァルトさんが続いた。彼らも蒼月の雫の隣へそれぞれ腰を下ろす。


 全員が席に着いたところで入口に立っていた案内役のギルドの女性が、「私はこれで失礼します」と頭を下げると扉を閉めた。


 それを合図に俺とスギミヤさんはどちらともなく立ち上がる。俺たちの行動に正面に座る面々は、表情を変えない人、驚いた様子の人、意外そうに目を細める人、表情を引き締める人と様々な反応をしている。


「本日はお集まり頂き、ありがとうございます」


 そこで俺たちは一度頭を下げる。顔を上げた俺は正面に座る一同を見回し、最後に隣のスギミヤさんをチラリと見た。俺の視線に気付いた彼が小さく頷くのが見えた。


「ふぅー」


 小さく一つ息を吐く。自分が思っているよりも肩に力が入っていたようだ。


(ヨシッ!)


 心の中で気合いを入れて俺は改めて正面を向いた。


「今回は俺の勝手でパーティーにご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでしたっ!」


 俺はもう一度、今度は先ほどよりも深く頭を下げた。


「俺もリーダーの指示に従わず勝手なことをした。申し訳ない」


 俺の隣でスギミヤさんも頭を下げる。


「………」


 室内に沈黙が流れ、俺たちは頭を下げ続ける。


「もう赦してやってもいいじゃねぇか?なあ、ジルベール?」


 最初に口を開いたのは蒼月の雫のエルネストさんだった。彼はいつもの様に軽い口調でそう言うと隣のジルベールさんに話を振る。


「お、おう!そうだ!そうだ!それに考え方によっちゃ、こいつらが殿の代わりをしてくれたから俺たちは無事に森を抜けれたとも言えるしな。そうだろ、アルバン?」


 急に話を振られたジルベールさんは一瞬声を詰まらせるが、すぐにエルネストさんに同意してリーダーのアルバンさんに同意を求めた。


「そうだな。謝罪は受けたし俺としては「ちょっと待ちな」ん?」


 ジルベールさんに話を振られたアルバンさんも同意しようとしたとき、スヴェアさんが話に割って入ってくる。一瞬緩みかけた空気が緊張感に包まれる。


「そっちはそれで良くてもこっちはそうはいかないんだよ」


 スヴェアさんが感情の読めない声で静かに言った。


「えーっ!もう別にいいじゃん」


「あんたは黙ってな」


 ヴェロニカさんが声を上げるが彼女はそれを一括する。ヴェロニカさんは「ちぇーっ」と不満の声を上げる。


「顔を上げな」


 スヴェアさんに言われて俺たちは顔を上げる。改めて彼女の顔を見るが表情からは彼女がどう言った感情なのか窺うことは出来ない。


「別にあんたらにどんな信念があってどんな目的があろうとどうでもいいし、それで死のうがどうしようがあたいには関係ない。でも、あんたらの勝手のせいであたいたちのパーティーは危険に晒されたし、冒険者としての信用にも傷が付くところだったんだ。その落とし前はどうつけてくれるんだい?」


「スヴェア、それはギルドから処分が下されると説明を受けただろう?」


「うっさいね!あたいが言ってるのはそういうことじゃないんだよ!だいたいあんただってこいつに殴られたじゃないか!これは冒険者としての心構えの問題だよ。そこのところをどう思ってるのかを聞かないとあたいは納得出来ないね」


 スヴェアさんはアルバンさんの言葉を一蹴すると鋭い視線をこちらに向けてくる。


「もちろんリーダーであるアルバンさんの指示を無視して飛び出したことは冒険者失格だと思っています」


「へぇー。じゃああのときバカ共を助けようとしたことは間違いだったと認めるんだね?」


 俺の言葉にスヴェアさんが皮肉げな視線を向けてくる。


「俺は彼らを助けようと思ったことを間違いだったとは思ってません」


「ハンッ!結局助けられなかったじゃないか」


 スヴェアさんがバカにした様に鼻で笑う。


「それでもです。俺はあのとき冒険者ではなく人として当然のことしようとしただけです」


「人として当然のこと、ねぇ。じゃああんたはあたいたちに何を謝ったんだい?」


 バカにした様に肩を竦めたスヴェアさんは、一転、再び俺に鋭い視線を向ける。


「あのとき俺は感情のままに飛び出してしまいました。本当はきちんと俺個人がギルドの依頼を破棄した上で皆さんに迷惑が掛からないように対応すべきだったんです」


「なんだい、結局同じじゃないか」


 スヴェアさんが吐き捨てる。


「違います。あのとき俺は―「もういいよ」えっ?」


 言葉を重ねようとした俺をスヴェアさんが制する。


「あんまりごちゃごちゃ言うのはやっぱり性に合わないねぇ。面倒くさいから表に出な。その甘ったれた考えを叩き直してやるよ」


「ちょっ!スヴェアッ!?」「もういいだろうっ!」「何もそこまでしなくても」「何考えてんだよっ!」


「うっさいっ!!黙ってなっ!!!」


 スヴェアさんの発言に他の面々が口々に止めるよう声を上げるが彼女は一喝される。


「それであんたはどうするんだい?別に逃げてもいいんだよ?」


 スヴェアさんが挑発する様な視線を俺に送ってくる。


「…分かりました。それでスヴェアさんが納得するのであればお受けします」


「へぇー、逃げないんだ。その根性は認めてやるよ。おいっ!ランヴァルトッ!今すぐ受付行って訓練所の使用許可取ってきなッ!!」


「は、はいっ!!」


 彼女は俺から視線を逸らさずにランヴァルトさんに言うと彼は慌てて受付へと走っていた。


「精々死なないように頑張りな」


 スヴェアさんは俺にそう言うとパーティーメンバーに「行くよっ!」と言って先に部屋を出ていった。

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