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勇者ゲーム ~13人の勇者候補は願いを叶えるため異世界で殺し合う~  作者: 玄野 黒桜
湿った大地に咆哮す

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過剰と不足

2020/9/11 改稿

「では、私は受付に戻りますので終わりましたら声を掛けてください。何かあれば職員に聞いていただければ大丈夫です」


 おばさんはそう言ってさっさと書庫を出ていった。俺は予想以上のリストの山に呆然とする。


「……いつまでもこうしててもしょうがないし…とにかく見てみるか」


 俺は挫けそうな気持ちを鼓舞するため声に出すと、木箱の一番上にあるリストを無造作に一つ手に取った。リストには行方不明になった冒険者の名前とランクを連絡が取れなくなった日付順に記載していた。続けてもう2つ3つリストを取り出して見比べてみる。


「こっちは2ヶ月近く前でこっちは1週間前、こっちは半年以上前のリスト、ってそもそもこの木箱に入ってるのっていつからのリストなんだ?」


 そう思って改めて木箱のあちこちを見るが、特に期間を示す様なメモなどは見当たらない。


「いやいや、期間も書いてないってどんな管理だよ!」


 思わず一人でツッコむ。とにかく記載が終了したリストを放り込んだだけ、という感じで管理も何もあったものじゃない。だけど、そもそも大移動(スタンピード)の発生日を正確に知ることなんて出来ない訳で…


「はぁぁぁぁ。とりあえずは大まかにでもリストを期間で整理してみるか…」


 折れそうな心なんとか奮い立たせた俺はリストの仕分けから始めることにした。



「ふぅー。やっと終わった…。疲れた…」


 それから数時間。


 漸く木箱の中のリストを全て仕分けし終わった俺は、首を回しながら肩を揉んだ。目の前には羊皮紙の山が7つ出来ていた。それぞれが大体ひと月毎になっており、半年以上前のものは一つに纏めた。


 その山には明らかに偏りがあった。半年前~4ケ月前までのリストの量はそれほど違いがなかった。それが3ヶ月前から徐々に増え始め、2ヶ月前が一番多くなっていた。ギルドが大移動(スタンピード)発生の予測を出したのが仕分けたリストで言うと2ヶ月前の終わり頃なのを考えると、大移動(スタンピード)が発生する()()が起こったのはリストの増え始めた3ヶ月前から、という可能性が高い。


「思ったより早く見つけられるかもしれない!」


 少し希望見えてきたことにやる気を取り戻した俺は、行方不明者が増え始めた3ヶ月前のリストを手に取った。




 ―コンコン―


「ん?あっ、どうぞー!」


 入り口から聞こえたノックに、俺は見ていたリストから顔を上げると慌てて返事をする。「失礼します」と声がして扉が開く。遠くで受付フロアの喧騒が聞こえる。


「ニシダさん、そろそろ日が暮れますがまだ調べられますか?」


 入ってきたのは受付のおばさんだった。


「えっ!もうそんな時間なんですかっ!?」


 驚く俺におばさんが「先ほど七つ目の鐘が鳴りましたよ?」と教えてくれる。


「すみません!すぐ片付けます!」


 時間を聞いて慌てて片付けを始める俺に、「ゆっくりで構いませんよ」と言い残しておばさんは部屋を出ていった。


「まだ3分の1くらいか…。何日掛かるんだろう…?」


 途中で昼食の時間を挟んだとはいえ、数時間リストを調べ続けてこの進捗である。さすがに少し心が折れる。


「いや、最初の仕分けで時間が取られたし、明日はもっと進めるはずだ!」


 俺は自分に言い聞かせると、せっかく仕分けしたリストが混ざらないよう注意しながら木箱へと戻し始めた。


「遅くなってすみません」


 片付けを終えた俺は受付でおばさんに片付けが終わったことを報告していた。


「ああ、ニシダさん。気にしなくていいですよ!進み具合はどうですか?」


「いや、これがなかなか大変でして…」


「そうですか…。お手伝い出来ることがあればいつでも仰ってください」


 俺の言葉にリストの量を思い出したのか、やや気の毒そうな表情をしたおばさんがそう言ってくれた。俺は礼を言うとせっかくの申し出なので一つ質問をしてみる。


「一つ伺いたいんですが、大移動(スタンピード)前後にこの街の冒険者の中で俺と同じような名前や容姿の人はいませんでしたか?」


「似た様なお名前や容姿の方、ですか?そっくりさんって意味じゃないですよね?」


 俺の質問に「一応の確認」と言った様子で聞いてくるおばさんに、俺はもちろんという意味で頷く。


「うーん、申し訳ありませんが似た様なお名前やお顔立ちの方には覚えがありませんね…」


 おばさんは「お力になれず申し訳ありません」と言って頭を下げた。


「いえいえ、気にしないでください!俺ももしかしたらと思っただけなので!じゃあ申し訳ありませんが明日も書庫をお借りします」


 俺は頭を下げると、おばさんの「かしこまりました」という返事を聞いてギルドを後にした。


(そう簡単にはいかないか…)


 宿までの道を歩きながら俺は先ほどおばさんに確認したことを思い返す。少なくともこの街では俺たちの様な日本人と思われる名前や容姿をした人は冒険者にはいなかったことになる。たまたま今までがそうだっただけで、日本人であっても黒髪でない可能性はある。


(さすがにステータスカードは誤魔化せないと思うけど…)


 偽名を名乗った可能性もなくはないが、街へ入る際やギルド登録時にステータスカードの提出を求められる以上それも難しいだろう。


(考えられる可能性としては日本人以外の人か。でも、そうなると名前で判断するのは難しいかもしれない…)


 今まで出会った勇者候補が日本人ばかりだったのでてっきり今回もそうだと思い込んでいた。しかし、勇者の欠片を受け入れられるのは“異世界人”なのであって、それが日本人だとは限らないのだ。


(甘かったな…。他の調査方法も考えないとダメだ。戻ったらスギミヤさんにも相談してみるか。前途多難だな…)


 今日何度目かの沈む心を反映する様に俺は重い足取りで宿へ向かってトボトボと歩いた。

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