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『溺愛以外お断りです!』16




 三度の自白剤の末、メイドはすべての事情を吐いた。


 デ・ランタ伯爵家に送られた脅迫状と爆破の件はやはりセイハム大公の指示であり、その下には黒百合会のメンバーが実行者として繋がっていた。



「………なるほどね。貴女に危害がなくて良かったわ。今回はきちんと自分の役目を果たしたのね、レナード」


 ツンと澄ました顔でそう言うミレーネを見て、ラゴマリアの王太子の太陽のような笑顔が固まる。


「君は本当に良い話し方をするね。そんな風じゃ、ラゴマリア王国に帰ってくる日も近いかもしれないな」

「あら?どういう意味かしら?」

「いや、べつに。クレサンバルの第二王子も可愛げのない王太子妃に愛想を尽かすんじゃないかと思ってね」

「大丈夫さ、レナードくん!」


 元気の良い声が二人の会話に割って入る。

 リゲル・カローナは妻の肩に手を置いて微笑んだ。


 レナードとミレーネの間で交わされる氷柱の雪合戦のようなやり取りに混じれるのはおそらく彼ぐらいだろう。私はグレイスと顔を見合わせながら、こっそり笑う。


 グレイス・デ・ランタが執筆した彼女の処女作となる小説は無事に発売された。初版がすでに売り切れて、本屋によっては早朝から並んだ令嬢も居たとか。



「そういえば!もう種明かししても良いわよね?」


 パンッと手を叩いて立ち上がったグレイスが満面の笑みを浮かべてレナードを見る。彼が反応を返す前に、机の上に積み上げてあった小説の一つを手に取って、私の目の前で開いて見せた。


「実はこの本には仕掛けがあるのよ」

「仕掛け?」

「各章のタイトルに注目してね、」

「ちょっと待ってくれ……!」


 レナードが手を伸ばすよりも先にリゲル王子がそれをひょいと持ち上げた。皆に見えるように開かれた目次をリゲルが声に出して読んでいく。


「なになに……第一章、“決意の朝”……第二章は“つづく夢物語”、それで三章は…“こんな姿見せられない”……」

「おい、リゲルくん!今すぐ閉じてくれ!」


 レナードの必死な姿を見てミレーネが悪い笑みを浮かべたのを私は見た。グレイスもニヤニヤして男たちの悶着を見守っている。


 私は何がそんなに面白いのかと首を傾げた。

 膝の上に置いたカミュの頭を撫でてみる。


「第四章は“王妃はお見通し”で……第五章は…“メレンゲのような恋”か。なんだか急にお菓子が出てきたな」

「仕方がないでしょう!“め”から始まる言葉が思い付かなかったのよ~」

「第六章は……“デートの帰り道”。レナードくん、これは君たちの実話なんだっけ?何処へデートに行ったんだ?」


 俺も妻と行くから参考にしたい、とリゲルが大真面目な顔で言う隣でミレーネが苦々しい顔を見せる。



「良いから続けなさい、リゲル」

「はいはい。第七章は……“陶器のような肌”。ちょっと待てよ、これってつまりそういう内容か?読者は君たちの初夜の様子まで知れると?」

「違います!」


 私は思わず大声で否定した。

 リゲルはビックリしたように目を丸くする。


 どういうわけか、場の空気が急に静まり返った。私はバツが悪くなって「ごめんなさい」と謝る。グレイスがメイドに何やら指示を出して、デ・ランタ家のメイドたちが大きな台車を押して部屋に入って来た。


 丸いプレートの上には三段のケーキが載っている。


 驚いて言葉を失う私の手を取って、グレイスが優しい声音で名前を呼んだ。ミレーネも穏やかな顔をしてこちらを見つめている。



「第八章は“美しい王太子妃“。続けて読むと、私たちから貴女に贈る言葉になっているの」

「おお、本当だ!けつこんおめでとうって書いてある!ミレーネ、君もこのサプライズを知っていたのか?」

「少し黙っていただいても良いかしら?」


 ミレーネの隣でリゲルがしゅんと項垂れた顔をする。

 私は祝福の雰囲気に溢れる面々を見て困惑した。


「あ……あのね、みんな…」

「うん?記念撮影でもする?」

「グレイス、ケーキを真ん中にしましょう」

「いや、えっと……そうじゃなくて、」


 私は恐る恐るレナードの方を見る。


 レナードもまた、こちらを見ていた。

 未だかつて見たことのない赤い顔で。


「………ごめん。これはたぶん俺が悪い」

「なに?どういうことなの?」


 責めるようなミレーネの声にレナードが狼狽える。グレイスすら普段は優しい顔を少しムッとさせてそちらを見ていた。リゲルだけがニコニコした顔でケーキに刺さった人形のピックを眺めている。



「まだ伝えてないんだ…タイミングを逃して」


 消え入るような声がシンとした部屋に溢れた。



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