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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
五章 アクア編

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五十一話 海底での新事実

 翌朝、俺が目を覚ますとフィーネとユキの2人が起きていた。


「おはようございます。朝食まではまだ時間がありますよ」


「おはようございます~。早いですね~」


「おはよう。昨日は遅くまで会議してたのか?」


 気絶するように眠ってしまったようで、送り出した後の事は全く記憶がないから大人達がいつ頃帰って来たのかも知らない。


「私はアリシアさん達と一緒に10時ぐらいには帰ってきましたよ~」


 ちなみに夜でも月の位置で時間はわかる。でも曇りだと無理だから時計が欲しいんだけど、作り方なんてもちろんわからない。


「3人で出かけたのか?」


 なんだよ、誘ってくれよ。旅先の夜の街って超楽しそうじゃんかよ。まぁ起こされても寝てたと思うけど・・・・。


「楽しかったですよ~。私は隠れてましたけど、いろいろな冒険しましたよ~」


 なんで隠れてんだよ。一緒に帰って来たんだろ? いや、隠れてアリシア姉達の初めての冒険を観察するほうが楽しそうだな。


 チッ、なんで撮影してないんだ! たぶんユキなら魔術で撮影できるんだろ? 指示されないと仕事が出来ない人は出世しませんよ!




 俺の中でユキへの評価が下がり続けると、フィーネが話し合いの詳細を語ってくれた。


 規模は30人。現状塩作りをしている10人はそのまま雇用で、残りの20人はアクアとヨシュアの両方から雇う。


 失業している人が優先、ヨシュアからアクアに転勤してもらう予定だ。当然家族連れなら一緒に住めるように手配する。


 塩の取り分は50%で、ロア商会の内訳は20%は使用、30%は規定価格で流通させる。配分に関しては金の亡者達を追い払うために領主に生産量の50%を自由に出来るようにした。


 新しい産業になる塩作りは間違いなく貴族などの権力者が絡んでくる。


 なのでロア商会の取り分を確定させる事で一切の干渉が出来なくして、権力者を領主の方に流れるようにしたのだ。


「おおよそ計画通りでしたよ。問題があるとすればアクアでの新規雇用で、ヨシュアと同様に良い人が集まるかですね」


 事前に決めていた計画から大きく外れなければ、大抵の要望は受け入れるつもりだったし十分な成果だな。



「結局、私達は深夜まで話し合っていましたね。ユキが抜けてからも、決めなければいけない事が多かったので」


 だから母さんは未だに寝ていると。


「まぁ雇用ってどんな人が来るかは運次第だからな。フィーネ達は良くやってくれたよ。ご苦労様」


「とんでもありません。私はロア商会の会長ですので当然ですよ」


 自分の仕事をしただけと主張しているが、そんな笑顔で言われても説得力がないぞ。





「それじゃあ今日は今まで雇われていた塩作り職人への技術指導だけか・・・・結構暇になるな」


 明日からは面接や工場増設の話し合いなど忙しくなるんだけど、今日は領主様が人集めをしているので俺達は暇だ。


「え~。忙しいですよ~。アクアを遊びつくすには時間が足りませんよ~」


「遊びっ! 今、遊ぶって言わなかった!?」


 寝ていたはずのアリシア姉が『遊び』って単語に反応して飛び起きてきた。


「昨日、散々遊んだんだろ。夜も遊びに出かけたって聞いたぞ」


 もしかしたら若干恨めしそうな声になってたかもしれないけど、眠気さえなければ絶対に参加していたイベントをスルーしたんだから仕方ない。


「折角の旅行なんだから遊ばないと勿体ないじゃない! ねぇニーナ?」


「まだまだ遊ぶ」


 いつの間にかニーナも起きている。




 結局全員が早起きしたので、俺達は少し早めの朝食を取りながら今日の予定を決めていた。


「なら皆で海中探索で決まりね」


 ユキが「海の中は素晴らしい」「楽しい事がたくさん」と何度も言って来るので全員が行きたくなったのだ。


 なんでもフィーネとユキが一緒なら結界があるので海の中でも平気らしい。


「メタルフィッシュも居るかしら? リベンジしたいんだけど」


「次会ったらギッタギタ」


「海面の近くにしか居ませんよ~。でも深海ならもっと強い魔獣とも出会えますよ~」


 だからなんで戦闘する方向なんだよ。


 俺は海中って初体験だからダイビングをする事へのワクワク感が半端ないぞ。



「明かりとかは大丈夫なんだよな? 暗いって聞くけど」


 唯一の不安はそこだった。潜っても特殊な眼力でしか周囲が見えないなら全然面白くないからな。


「大丈夫ですよ。私達の結界内なら昼間と変わらない視野になりますので」


 魔力を生み出す結界内では、身体能力が劇的に変化して魔力全開状態になるためヒカリほどじゃないけど千里眼が発動するらしい。


「便利だな~。魔道具で作れないかな」


「えっ? ルーク作れるの!? 私にも頂戴!!!」


「わたしも」


「作れないかな~って思っただけで、たぶん無理だから」


 戦闘狂が食いついてきたけど、魔力を生み出す原理がわからないし、人に魔力を付与するなんて想像も出来なかった。





「「うーみーっ!!!」」


 俺達が沖に出た途端にオルブライト母娘が叫ぶ。母と娘だ、俺は叫んでないぞ。


 ここはユキの氷船の上、周囲には誰も居ないから迷惑ではないけど恥ずかしいな。


「ねえっ! もしかして私達が人類で初めて海中を探検するんじゃない!?」


「きっとそうね! アランに話したら悔しがるわよ! あの人、昔は研究者志望だったんだから」


 父親の知らない過去が明らかになるが全員無反応。今は海で遊ぶ方が大事なのだ。




「じゃあ入りますよ~」


「私が内部を管理しますので、ユキは結界維持と周囲の探知をお願いしますね」


「了解です~」


 そう言ってドーム状の結界に包まれた氷の船『雪丸ゆきまる』は海の中に潜っていった。


 昨日アリシア姉達が乗ったのと同じ氷の板だけど、側面に文字を書いてもらったんだ。ちなみに命名したのは俺だ。


 この航海が終わったら消滅するんだけど、命を預ける大切なモノだから名前を付けた。




 海の中はとても静かだった。


 フィーネに言われた通り昼間と変わらない視界なので魚や海藻、魔獣が見える。


「静かな空間って落ち着くな~。心が洗われるって言うか、世界を感じるって言うか」


 俺は優雅に海中探索を楽しむ。山もいいけど海の中も乙なものだ。


「あっ! 魚よ! なんて言う魚かしら」

「昨日食べた」

「あの刺身になってた魚ね。美味しかったわね」



「きっとフィーネが魔力濃度を上げてくれてるから、パワースポット並みに色んな効能があるんだろうな~」


 酸素カプセルの中ってこんな感じなのかな。体中に活力が満ち溢れてくる。


「居たっ! メタルフィッシュ居たわっ!! ユキ止めて!」

「リベンジ!」

「へぇ、昨日はアレと戦って負けたのね」



「静かだな~」


 海、最高。


「じゃあ結界を分割しますね~。これならアリシアさんとニーナさんは海中でも地上と同じように戦えますよ~」


「本当!? よし、ニーナ行くわよ!」

「今日こそ倒す」

「頑張ってね~。同じ相手に二度負けるなんて許さないわよ」


「「でやああぁっ!」」



「うっさいんだよっ!!! もっと静かに楽しめよぉーーーーーーーっ!!!」


 俺はあまりの五月蠅さに絶叫した。


 すると戦闘態勢に入っていたアリシア姉達が帰ってきて俺に文句を言い出した。


「むしろアンタはなんでそんな落ち着てるのよ?」

「不思議」

「そうよ、ルーク。ほら珍しい物がいっぱいじゃない。触ってみたくないの?」


 なぜか俺が責められているけど、俺は何も悪くないはずだ。


「いや、楽しんでるよ。ただ海流とか魚介類を見て楽しんでたんだよ」


 俺は『ゆらゆら揺れる炎』とか『寄せては返す波』とか『流れ続ける雲』を眺めるのが好きな人間だ。それだけで丸一日、平気で過ごせる。


「なんか歳を取った老人みたいな性格ね」

「ルークはお爺ちゃん?」

「子供なんだから、もっとアリシアを見習って元気に動き回るべきよ?」


 ほっとけ。



「ユキ、結界を分けれるなら俺はもっと海底を見たいんだけど」


「え~。ここでも別行動ですか~? 集団行動の出来ない人は引きこもるんですよ~」


 うぐっ!


 困窮したアルディアにも引きこもりって居るのか・・・・あれは平和の象徴だって誰かが言ってたぞ。働かなくても生きていけるって安全が保障された場所ってことだしな。もちろん歓迎するべきことじゃないけど。


 でも俺は静かに過ごしたいんだよ。


「な、なら一緒に行動するから戦闘は止めてくれよ」


 一緒に海トークで盛り上がろうじゃないか。ほら、あの海藻なんて不思議な形をしてるぞ。


「「え~」」


 アリシア姉とニーナから非難が殺到するけど、反論は受け付けませ~ん。



「でも学校に入ったら戦闘も必要になるわよ」



 母さんが衝撃の事実を告げる。


「・・・・えっ? せ、選択式じゃ・・・・ないの?」


 てっきり大学みたいに自由に授業を選べるんだと思ってた。もしくは体育みたいに最低限の運動とか。


「どこから聞いたのよ。ヨシュアはもちろん、大抵の学校はランキング戦ってのがあって2ヶ月毎に学年別で実践をするのよ!」


「な、なんだってぇーーー!?」


 まずい、まずいぞ。てっきり平民も通う平和な学校だと思っていたら、結構サバイバルな場所らしい。


「つまり家と同じく木刀で殴られると? 6歳の頃から血塗れになると?」


 オルブライト家の皆は手加減できるから寸止めで怪我しないけど、6歳児に手加減が出来るとは思えない。


「さすがにそこまで殺伐としてないわよ。8歳から上級生って呼ばれるんだけど、それまでは武器は使わないし、安全な結界内での模擬戦だけよ」


 良かった、この結界と似たような場所で戦うらしい。


 魔力は全部防御に割り振られるから、子供の魔力では怪我をするほどの攻撃は出来ないと言う。


「でも結構痛いわよ。上級生からは打撲することも多いし」



「お母様、ワタクシ学校へは行きません。ロア商会で魔道具の開発に携わります」



「駄目です」


「なんでだよ! 嫌だぁー! 行ったら絶対に怪我するんだぁー!」


「ほら、その為にフィーネやユキやアリシアが戦い方を教えてくれるって言ってるじゃない」


 それって『今すぐ怪我する』のと『後から怪我する』って違いだろ!? どっちにしろ怪我するんじゃないか!



「大丈夫ですよ、ルーク様。私がプレゼントした腕輪があれば鉄壁です」


「そうか! ありがとうフィーネ!」


 そうだ、俺には結界がある! これさえあれば安全は保障されたも同然だ。


「学校では使用禁止よ。あんな魔道具の存在が知られたら戦争になるから」


「よし、フィーネ。出力を抑えた腕輪を作ってくれ」


 バレない程度の結界で攻撃さえ防げれば俺だって戦闘訓練できると思う。


 さすがにアリシア姉みたいな鬼の形相で乱打してきて精神を削られることもないだろう。


「申し訳ありません。アレは100か0でしか作れない魔道具なので出力調整は出来ません」


「フィーネが謝る事ないわよ。ルークがズルしようとしたのが悪いんだから」


 なんてことだ。つまり学校では結界が使えないから、怪我をしないためには防御と回避に専念するしかないと言うことか。


 母さんに腕輪を取り上げられないだけマシだけど、無傷で居られる自信は全くない。



「クソ、本当に戦闘訓練するしかないのか・・・・。何か、何か逃げ道はないか!?」



 どうなる、ルーク!


 スローライフとは縁遠いバトルパートに突入するのか!?

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