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冒険者ギルド職員はダンジョンの夢を見るか ―忍耐、過労、飯。中間管理職の日常―  作者: 紫月 由良
2章 ダンジョン講習

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14. 階層調査

 朝、『ミスリルの宴』と別れた。彼らは地上に戻るというから、冒険者ギルドに帰還が遅れると伝言を頼んだ。

 昨日の戦果が予想以上にあったからなのか、終始ご機嫌だった。


 彼らの冒険者ランクはC級、それもようやくレッサードラゴンを危なげなく倒せるようになったばかりだ。四人で四頭だから頭割りすれば一頭にしかならない。それでも前日までの討伐成果も合わせれば、悪くない稼ぎになったのは想像に難くなかった。


 彼らの装備は実力からすると悪くないが、防具はドラゴンの革を使っていない。己の実力でもって倒せるようになると、ドラゴン素材を身に着け始める。


 もしかしたら今回の獲物で、防具を作るのかもしれない。

 ニールにしても、今回倒したレッサードラゴンの皮を一頭分、防具屋に預ければ、工賃込みで一式作ってもらえる。


 だがこちらは一人で倒せる実力はまだないから、皮鎧に着せられている状態になって恥ずかしい思いをするだろう。ドラゴンスレイヤーと呼ばれるようになって、ようやく身に着けるのが冒険者流なのだ。


「悪いな、調査に付き合わせて」

「いや、傍で戦い方や探査の仕方を見られるからかまわない」

 ニールがニヤリと笑う。


 レッサードラゴンの異常行動――約一〇年周期に発生する事態ではあるが――が見られたため、念のために臨時の階層調査が必要なのだ。

 講習の最中ではあるが、中断扱いだ。

 まずは階層の中でも周辺の、冒険者がほとんど通らないような場所から調査を始める。合間の休憩に、ニールの剣筋などを見て指導する。


「思った以上に広い……」

「四〇層以下は上層階よりも面積がある。隅の方まで見て回る場合は、三日ほどかかる」


 普段の調査は重点を置く階層以外、探査魔法を駆使して大雑把にしか見ないが、重点階層と異常があった階層は探査魔法をかけつつも、実際に目視で確認しなくてはいけない。


「あんま、木の実が多くないな」

「ああ、下草の生育もイマイチだ」

 ニールの言葉に同意する。


 ここ数年、秋になると木の実を食べて丸々と太った魔猪などが、よく冒険者ギルドに持ち込まれた。調査でも兎やリスなどの小動物が多いと報告にあった。

 餌が多かったせいかレッサードラゴンの持ち込みも多かったが、どうやら今年は凶作らしい。


 ――昨年までの餌が多かった影響で数が増えたのに、今年の凶作で餌が減ったのが原因か?


 階層を見終わらなければ結論は出ないが、的外れな推測ではなさそうだ。

 数か月前、支部長(ギルマス)に連れられて、探索統括課の課員のうちD級以上の冒険者資格を持つ者が、定期検査を兼ねたダンジョン研修を複数回、行っている。


 結果は『異状ナシ』と非常に簡潔な……正確に言えば簡潔過ぎて役に立たないものだった。『迷宮管理・冒険者対応班』の担当者に、きちんと仕事をしろというのは、無駄に体力があるA級冒険者に振り回されて、付いて行くのがやっとなので難しかった。


 要は支部長(クソジジイ)が悪い。全部悪い。

 苦言を呈したところで、どこ吹く風なのだ。徒労に終わるのが、また腹が立つ。


「なあ、これどういうものだ?」

 少し自分の思考にハマっていると、横からニールが声をかける。


 指したところには卵の破片がいくつもあった。欠片の中に細く小さな骨が混じっている。孵化する前に潰されて死んだのかもしれない。足跡からするとやったのは母龍の可能性が高かった。


「育たないと思ったか、餌の取り合いになると思って、産卵後に踏みつぶしたみたいだな……」


 確か前回、一〇年前のときも見られた。あの時も俺が調査に潜ったから知っている。

 ちらりと横を見ると言葉が出ないまま、ニールがゴクリと唾を飲んだところだった。


「動物は生存が難しいと思えば、子殺しをするのは珍しくない。群れのボスが変わると、まず前のボスの子を殺すとか」

「……わかっていてもちょっと」


「人に当てはめて考えるな。そもそも親子の情がない生き物に、母性を求めるのは間違ってる」

 言ったところで、頭では理解しているのだから意味がない。ただ感情的に納得できないだけだ。


 なのにあえて口にした。感傷に浸っている余裕は、ダンジョン内に無いのだと教えるために。

 とはいえ突き放すような真似だけというのもどうかと思いながら、さりげなく子育てに参加する鳥の親子の方に誘導した。


「あれは……?」


 目の前にゆっくりと動く派手な色彩の鳥が一羽。頭の部分はモーブ色のようなくすんだ紫、胸元は赤く、尾羽は鮮やかな紺色を持つ。


「囮だ。雌が卵か、まだ飛べない雛を守り、雄が囮になるんだ。捕まえるなら簡単だが、勧めないな」

「うん、子育て中の魔獣は狩りたくない」

 思った通り、どこかほっとした顔でニールが囮の雄を眺めていた。


「行こうか」

「ああ……」

 俺たちは揃って、そっと距離を取る。


 鳥は割と親が揃って子育てする種が多い。見せたら喜ぶだろうと、調査で回りながら巣を作りそうな場所を狙って、歩いてみたのだ。人と獣は違うと言っても、ニールの心のどこかで温かい家庭というのに憧憬があるのだろう。


 その日、辺りが暗くなる寸前まで歩き続け夜営した。夕食は『ミスリルの宴』と交換した魔牛肉。ダンジョンに潜ってから初めて食べるそれに、舌鼓を打つ。


 それから三日間、階層の調査を続け、地上に戻ったのは予定より四日遅かった。

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