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理性院カシギは女運がいい  作者: 紙城境介
オーバー・ジ・エンドロール ~魔王を殺害した勇者の世界よりも重い罪~
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王妃グイネラの悦楽


 この世界は、みんなみんなツマラナイ。

 ドイツもコイツも雁首揃えて没個性。


 あたくしが欲しいのは『ほんとう』の何か。

 自分の『ほんとう』を持っていない奴なんて、慰み者にもなりはしない。


 ああ―――あたくしは何を愛すればいいの?






 ピンクに色づいた甘い香りを胸いっぱいに吸い込んで、あたくしは『十三番』の首筋を舐め上げる。

 まだ育ち切っていない身体がビクビクと反応して、声変わり前の独特な音色を喉から零れさせた。


 そうしながら、あたくしの両手は『三番』と『六番』をそれぞれ愛撫している。

 立ち昇るはしたない匂いがお香のそれと混じり合い、脳髄をビリビリに痺れさせた。

 さっき、しつこく護衛をしようとするバラドーに苛立ったからかしら……ひときわ強く、気持ちいい。


 あたくしは自分のコレクションに名前を付けない。

 なぜなら彼らは道具だからだ。


 身体の未熟なオトコノコは他に比べればまだマシだ。余計なものはごく少なく、大人よりも純粋に近い。

 けれど所詮はモノ。『仕込み』が少ないだけで、そこに『ほんとう』はどこにもない。


 ああ、それでも。

 あたくしが愛せるものは、これくらいしかなかったのだ。


 部下に命じて、人界から色んなモノを持ってこさせた。

 幼児、少年、成人、老人。

 男に限らず、目を見張るような美少女も、肉塊みたいな醜女(しこめ)も、何でもかんでも味見してきた。


 けれど、かろうじて口に合ったのは人間の少年だけ。


 魔族は問題外だ。あの魔王(ひと)の下にいるという時点で基準を満たしていない。

 あたくしは一応王妃ということになっているけれど―――あの人と(ねや)を共にしたことなんて、ただの一度だってないのだ。


 あの人には、他の誰よりも『ほんとう』がない。

 国に、神託に、王という立場に―――様々な糸に絡め取られた操り人形。


 馬鹿なひと。ヤーナイちゃん辺りとでも楽しくやっていれば良かったのに。

 どうせ魔王なんて立場に大した価値はないんだから。


 いえ、そもそも。

 こんな世界に生まれた時点で、誰にも等しく価値なんてないんだから―――


 あたくしは、愛せる何かが欲しかった。

 価値のない存在でも、そうすれば『ほんとう』を持てる気がした。


 けれど結局、見つけられたのはただの玩具。

 それでも自分を繋ぎ止める用は果たした。コレを一つでも奪われたなら、瞬間、あたくしは発狂するだろう。


 ……でも、もし。

 もし、もう少しだけ、あの子が来るのが早かったなら―――


「…………りしょういん、かしぎ」


 熱い息と体温(はだ)に包まれながら、新鮮さに満ちたその名を呟く。


 あの子はきっと、『ほんとう』だ。

 あの子ならきっと、心の底から愛することができる。


 ―――どうやって?


 ようやく念願の『ほんとう』に出会えたのに……あたくしには、あの子を愛している自分が想像できない。

 あの子に愛されている自分が想像できない。


 愛と、悦楽と。

 それがどう違うのか、もはやあたくしにはワカラナイ。


「―――ああ」


 身体の中を突き抜ける快楽を感じながら、ベッドの天蓋を仰ぐ。


「いいなあ、シャーミルちゃん―――」


 羨ましい。

 本当に本当に、羨ましい。

 あたくしも、もう少し初心な『仕込み』だったら良かったのに―――


 アンニュイになった気分を、再び波みたいな快感に沈めさせようとして、


「―――ひッ!?」


 唐突だった。

 ぞくぞくぞくッ! と、背筋を快感が駆け抜けた。


 ……え?

 何?

 ()()()()()―――



「ここが弱いんだ。結構可愛い所あるじゃないか、グイネラちゃん」



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