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理性院カシギは女運がいい  作者: 紙城境介
オーバー・ジ・エンドロール ~魔王を殺害した勇者の世界よりも重い罪~
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元帥バラドーの忠義


「だから! ついてこないでいいって言ってるでしょう!?」


 燭台が発見されて全員解散となり、護衛をしようとした俺に、グイネラ様は激怒なされた。


「いつもいつもいつもいつも! 鬱陶しいのよっ!!」

「い、いえ、しかし……グイネラ様に危険が迫らないとも……」

「放っておいていいの! 何もしなくていいの!! その時はその時よ! 頼んでもいないことしないでくれるかしら!?」


 グイネラ様は苛立たしげな足取りで昇降機に乗り、姿を消してしまわれた。


 ……いつもこうだ。俺は俺なりにグイネラ様のためを思ってやっているつもりだ。しかしいつもお怒りを買ってしまう。


 何がいけないのだろう。

 ……やはり、この姿が悪いのか?


 トカゲと鷲を合わせて二足歩行にしたような、とても知性的とは言い難い異形の姿。

 かつてグイネラ様は、この姿を魔族らしくて良いと言ってくれた。

 その言葉は優しく……何より尊かった。


 だが最近は、人間の少年を集め、日がな一日、淫蕩な生活を送っておられる。

 そのうえ突然現れたどこの誰とも知れん人間の男に目をかけていらっしゃる。


 やはり、人間でなくては駄目なのか?

 人間の姿でなくては駄目なのか?

 異形の怪物では、忠義を尽くすことすら許してはもらえないのか―――






 俺とグイネラ様には、幼少のみぎりより縁があった。

 具体的な経緯については、何分昔のことゆえ記憶が曖昧だ。だがその時のことはしかと覚えている。


――― お顔が泣いていてよ、バラドー? ―――


 涙など流してはいなかった。

 ただ砦の中庭で風に当たり、魔界の黒雲を見上げていただけだ。


 ただ、泣きたい気分ではあった。

 恥も外聞もなく叫びたい気持ちではあった。

 だがそんなことをしてはさらに馬鹿にされる。俺は人の姿を取れない分、他の魔族よりも努めて知性的であらねばならなかった。


――― 似合わないわ。あーたはもっと、自信を持てばいいのよ ―――


 ……自信を?

 無茶を言う。こうしてグイネラ様の麗しき姿に並んでいるだけでも、死んでしまいたくなると言うのに。


――― 自信が持てないなら、せめて強くなりなさいな ―――


 強く。

 ……強く。


――― そうしたら、その姿にも見合っていいじゃない ―――


 魔族の強さは変わらない。勇者のようにレベルが上がったりはしない。

 それでも。


 ―――強く

 ―――強く

 ―――強く


 グイネラ様のお言葉は、俺に道を示してくれたのだ。

 あの時、俺は自分の一生を頂いた。なればその大恩は、一生を懸けることでしかお返しできない。


 ゆえに俺は―――


 たとえ嫌われようと。

 たとえ疎まれようと。


 ―――グイネラ様を、お守りせねばならぬのだ。







 グイネラ様に拒絶された俺は、仕方なくグイネラ様のお部屋へ繋がる昇降機の前で張り込んでいた。


 グイネラ様は、お腹を空かせてはおられないだろうか。

 思えば今日は一食もしておられないはずだ。


 我ら魔族は人間よりも丈夫だ。必ずしも一日三食必要なわけではない。

 しかしそうは言っても、あのような『遊び』を四六時中続けていては、身体の疲弊も相当なもののはずだ。


(……よし)


 心を決め、昇降機を使おうとした時だった。




 ……コン、コン。




 扉に、ノックがあった。

 ……何者だ?

 武人としての直感が自動的に警戒を強めさせる。

 俺は何が起こっても対応できるよう準備しながら、扉に歩み寄り、ノブを握って……ゆっくりと、開けた。


「……?」


 眉をひそめる。

 廊下には、誰もいなかった。


 聞き間違い?

 まさかこの俺が―――


 その時だった。




 コツッ、という軽い靴音が、()()()()聞こえた。




 弾かれたように振り向く。

 いつの間にか窓が開いている。


 その手前に。

 人影が。



「チョロいね、バラドー君。四天王最強の名が泣いてるよ」




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