舞台・世界観
■現実世界の世界観
VRMMOの構想はひとまず置いておいて、まず作品を執筆するうえで重要なのは『物語上の現実世界の設定』である。
以下に例を題し、メリットデメリットを記す。
例1:VR技術はまだ一般的ではなく、VRMMOが初めて発表された近未来世界
SAOをはじめ、これは恐らく多くの作者の方が使われている設定だと思われる。世界で初めてのVRMMO、主人公は何らかの理由によりゲームを手に入れてプレイし始める。これのメリットとしては、誰もが世界初のゲームの情報をあまり持っていないため、主人公がトッププレイヤーになれる可能性があるという点。そして何かある度に世界初の技術に驚くとともにそれに対する説明文を入れられるという点。VRMMOの世界観が説明しやすく、情景を表しやすいのだ。
またデメリット(私の場合)としては、技術的な知識を持たずに想像のみで書き始める場合が多いため、詳細な技術の説明を入れようとすると、どうしても先駆者の作品の設定をリスペクト、オマージュ、模倣……悪い言い方をすればパクリ、二番煎じとなってしまうという点が挙げられる。
テンプレ、王道設定という『逃げ』の言葉は、オリジナリティを創作するうえで大きな障害となるだろう。
例2:VRMMOが広く一般家庭に浸透している未来世界
既に多くのVRMMOが存在し、作中で中心となるのはその中でも人気の古参とか新作など。此方の場合も多くの作品の設定として使われており、私もどちらかと言えば此方を使う場合が多い。その理由はメリットとして、VR技術が一般に浸透している世界ということは技術的な面での説明は、その時代を生きる登場人物たちにとっては今更なもの。つまり詳細な技術説明を省略できるという点が大きい。現代を生きる私たちが例えばテレビとはどんな技術を使っているのか、というのを細かく気にしないように、当たり前に存在し使用しているものを改めて技術から説明する必要は無い。
SAOなどのように理屈込みの詳細な設定があるならまだしも、自分自身よく分かっていない技術の説明など書いたら書いただけ今後の自分の首を絞めることになるだろう。
逆にデメリットとしては、VRMMOが一般的なのだとしたら、それはVR技術も一般的ということになる。つまり、ゲーム以外でもその技術が使われていることを想定して現実世界の設定を考える必要がある。これが例1だったら『現代+VRMMO』という簡単な図式になるが、それが普通に存在している未来世界とはいったいどのような世界なのかをしっかりと詰めなければ、世界観設定として破綻してしまう。
代表的な二例を出したが、此処に主人公の立ち位置を組み込むことによってもメリットデメリットが変わってくる。
SAOなどでは、オタクとも言えるそっち系の技術に妙に詳しい主人公だったので説明文を入れることを容易としていた。
私の作品『MLO』では、私自身が機械や人間の脳構造などに詳しくないため、主人公もあまりそういったVR技術のことに興味を持っていない人物を持ってきて、そのかわり向上心鷹揚な性格にしてゲーム内設定については色々と考察をして理解を深めている、という名目のもと説明文を入れ易くしている(と私自身では思っている)。
何が言いたいのかというと、物語上の現実世界の設定如何によって、VR技術の詳細が書き易くもなり、省略し易くもなる、ということである。
■VRMMOの時間
仮想世界へとログインするということは、もう一つの現実を生活することと同義である。
モンスターとの戦い、ダンジョンの探索、街の探検、フィールドの移動、果ては店での物色やNPCとの会話ですら、今までの画面上でプレイしてきたゲームとは一線を画くほどの時間が掛かると考えていい。
それに加え、視界全てが仮想世界の情景を捉えているということは、現実世界のことを忘れ易くなっている。文字通りゲームの世界しか視界に入っていないのだから。
これらのことから、VRMMOとは時間をかなり食うゲームだということは想像に難くない。しかし、物語の都合上、登場人物は基本的に学生が多い。普通に放課後だけプレイしていただけではゲームの上位層には到底入れない。つまり、突出した強さを持たせ難い。
これの解決策は既に各作品で多く登場している。
SAOではプレイヤーたちがゲームに閉じ込められることで、主人公がプレイし続けられる時間を確保した。
また他の作品では、主人公が他プレイヤーの気付いていないゲーム要素を発見することで突出した力を得るというパターンが多い。
また、ゲーム内の時間を現実よりも速くする(知覚速度の加速)という設定もある。此方は私の作品でも使っている。
VRMMOは、物語的に言えば、行き来が可能な異世界のようなものである。
逆に言えば、単なる異世界モノと違って、現実が多分に絡んでくる。
なので、ゲームをし易く、そして学校という多くの同年代の人と接する機会のある学生というのは、主役級に持ってくるのに都合が良い。要はゲームでの知り合いが現実でも知ってる人だった、という物語的偶然が作り易い立ち位置なのである。
ただ、学生を使うデメリットは先述した通り、やはりプレイ時間の少なさだろう。長期休暇を使うという解決策もあるが、この点をユニークな発想で解決できるかどうかが作者としての腕の見せ所だろう。
いちいち時間のかかりそうなVRMMOで、主人公のプレイ時間をどうやって確保するのか。このジャンルの大きな課題のひとつだろう。
■ステータス/パラメータ
RPGには能力値が多数存在している。
それらの数値は、走る速度、与ダメ被ダメ量、何らかの行動の成功率などを計算する際に使われる。
――しかし、此処で私は疑問に思う。
果たして、我々が現在プレイしているゲームに使われている能力値全てが、VRMMOでも使われるのか?
私は否と考える。
攻撃力、防御力、各速度に関係する数値は使えるだろう。だが、『器用』『回避』といった能力に数値を付けるのはVRMMOではどうなのだろうか?
それらの値は、例えば戦闘時ではクリティカルヒットの確率や攻撃の回避、非戦闘時では作成物の成功率や罠などの回避に関係するものである。
だがVRMMOでは、プレイヤーは現実の自分の身体を動かすようにアバターを動かす。
もしこれらの数値がゲーム内に存在するのだとしたら、例えば回避の数値が高ければ見た目的に確実に当たっている攻撃も回避出来て、逆に低い数値だとしたらしっかりと避けたように見えても当たってしまう、ということになりかねない。または思いきり弱点を突けても器用値が低いからクリティカルにならない。
自分自身が戦っているのに、これらの能力数値があるだけで戦闘にリアリティが激減するのだ。
ちなみに、SAOではこれらを凄くよく考えられた設定にしている。基本可視ステータスは『筋力値』『敏捷値』のみということで、プレイヤーが如何にアバターを上手く動かせるかによって全てが決まる仕組みである。
武器強化に使われている『速さ』『正確さ』などの数値は、恐らくソードスキルに関係してくる数値だと思われる。
プレイヤーの運動神経を最大限利用できる能力値のみとしながらも、剣の達人ではないプレイヤーのためにソードスキルという半自動的に身体の動くスキルを設定している。
運動神経の高い人はもちろん、運動神経に自信の無い人でもソードスキルを利用して慣れれば十分に楽しめる、そんなゲームになっていると感じた。
……蛇足だが、私のMLOは色々な意味でSAOとは真逆を目指した。
剣よりも魔法を主体とする。運動神経よりはむしろ頭を使うタイプの人間を主ターゲットとしつつ、脳筋や本能タイプの人間でも楽しめるゲームとしたいという理念の基、各設定を考えている。
VRMMOならではのプレイ。それを補うための能力値というものを考える必要があるのだ。




