Ain’t Got No, I Got Life(謀略は、人に知られないからこその謀略ですから)
――チュンッ、チュンッ
魔術同士のぶつかる音……もとい、魔術が発動前に焼失する音が、迷宮の中に響く。
上位魔導師同士の戦い、それも魔術戦の場合はお互いに発動する魔術を相殺する所から始まる。
それも、発動する際に発生する空間魔法陣の発生を見てからでは遅い為、相手の体内を巡る魔力の流れを認識し、それが個の魔術として体外にて結実する瞬間に解析し、それを対消滅させる術式を更に高速で描き発動する。
結果として、お互いの魔術は体外にて結実せず、ただの魔力素となって消失する。
それを幾度となく繰り返しているのだけれど、不死王リビングテイラーの魔力は無尽蔵なのか今だに衰える様子はない。
こちらの確殺の刃をカウンターの確殺の刃で打ち消されただけではなく、更に追撃の手を休めようとはして来ません。
『……ククク……どうする? 貴様の繰り出す魔術など全てお見通しだ。同系列の魔導師ならば、おのずと理解出来るのではないかね?』
「ほんと、お互いにあの師匠の元で修行していたのですから、当然そうなりますよね。でも、私とあんたでは、決定的に違うものがあるのをご存じです?」
『決定的に違う……だと?』
――シュシユンッ
ええ、すでに不死王となってしまったリビングテイラーは、生前よりも魔力量が増える事はない。
体内の魔力回路の成長は、その時点で停止してしまいますから。
それを補うための発動杖や、魔力増幅用の魔導具ですけれど、それも既に枯渇しかかっているのは見え見えなのですよ。
「体内から振り絞る魔力と、魔導具に頼っている魔力の決定的な違いって、何かわかりますかわかりませんよねぇ」
『勝手に結論付けるなっ、それは成長出来るかどうかだろうが。だが人間の体内で生成できる魔力など、そのものの器に等しい量しか蓄積できない。だからこそ、私のように魔導具による増幅を必要としているのだろうが。それは貴様も同じではないのか』
「その通りですよっ……でもね、不死王は一つ、大きな間違いを……っっと、いや、忘れている事があるんじゃないですかっと」
――シュンッ
一瞬で暗黒魔術の書を召喚。
それでは並列思考によるとっておきの裏技をご披露させていただきましょう。
「暗黒魔術の書グロウ・ソトホースに誓願します。我が肉体を変容し、強靭な肉体を与え給え……我はその代償に、魔力125000を献上します。超暗黒戦士化っ……か~ら~の、七織の魔導師が誓願します。我が杖に、死の影を遣わせたまえ……私はその代償に、魔力五万五千を献上します……確殺の刃っ……そしてっ、トラペスティさん起動っ、魔素凝縮開始っ」
――シュンシユンシユンシユン
大気中の魔素が全て、トラペスティさんに集まります。
そして私とのバイパスを通って、絶えず魔力が送り込まれ始めました。
『ば、馬鹿か貴様はっ、そのような事を肉体で行ったら、体内の魔力回路が吹き飛ぶぞ』
「そうですよねぇ、だからこその、このフォームですよっと……超必殺技、気炎万丈無限刃っっっっ」
『させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
私が繰り出す、光速の確殺の刃。
それも超暗黒戦士の奥義である気炎万丈無限刃により、軌跡は光の速度となり無限に続くかのように不死王リビングテイラーに向かって叩き込まれます。
ええ、一発二発は受け止められるのは覚悟ですけれど、それよりも多くの刃をどれだけ受け止められますか!! 一撃でも命中すると終わりですよ。
――ガギガギガギガギガギガギガギガギガギッッッッ
9発まで受け止められましたけれど、そのあとは受け止めることができなかったようで。
次々と叩き込まれる確殺の刃、その数なんと128発。
その直後に不死皇化もタイムリミット。
強制終了したのち、さらに超暗黒戦士化も解除。
「ハアハアハアハア……グブッ……」
うは、口の中に血の味が広がりましたよ、目の前も深紅に染まって、そして真っ黒になりましたよ。
体の感覚が失われていくのがわかります、手足を動かそうとしても動いているのかどうかもわかりません。
心拍数が高まっているのもわかります、心臓の鼓動も超高速で動いているのでしょう。
今の血圧、どれぐらいかなぁ。
最高血圧はきっと、200を超えているだろうなぁ。
耳も聞こえませんね、音がまったく届いていないのもわかります。
『はぁ。空中魔素固定術式まで使うとはなぁ。死ぬ気だったのか』
「あ、トラペスティさん……そっちはどうですか?」
『こっちは順調だ。アジア圏のすべての迷宮活動は掌握した。後はこのまま、全ての迷宮で発生する魔素をマナラインを通じて集めて留めるだけだ。ということで、如月弥生、貴様には魔素タンクになってもらう』
「おっけー。そんじゃ耳元のトラペスティさんに魔素を凝縮。同時に魔晶石を生成して、私のアイテムボックスに投下。これを永続発動という事で」
多分だけれど、今の説明通りに魔晶石は作られているんだろうなぁ。
そしてアイテムボックスに蓄積される……と。
勇者使用のアイテムボックスだから、内容量は無限大。
ま、地球のマナすべてを集めるわけじゃないから、何とかなるでしょう。
「それはそうと……不死王リビングテイラーって、消滅した?」
『まあ、見えている範囲では消失しているな。奴の敗因は一つ、こっちの世界の肉体を得ていなかったこと……だろうなぁ』
「え、そうなの?」
そういえば。
確かに魔王アンドレスはサモエデだったし、錬金術師ヤンはドワーフラビットだった。
おそらくだけれど、謀略のコデックスも何かしらの肉体を得ていると思うけれど、不死王の姿は異世界アルムフレイアで見たリッチロードそのまま。
でも、どうしてそれが敗因に?
『異世界からやって来た者が、この世界に顕現する場合。肉体を持ったままやってきたのならば、こちらの世界に干渉する事はなかった』
「それじゃあ、逆に強いっていうことじゃないの?」
『いや、こっちの世界の生物の肉体を使っているのなら、その魂を取り込んでいるはず。ゆえに、この世界の摂理の一つとして扱われているため、冥加(神の加護)により赦しが与えられてただろう。だが、そのままの肉体ならば、いわばこの世界にとっては『異物』でしかない。ゆえに、不死王は二度と再生する事はないだろう』
「そっか……それじゃあ、不死王は消滅したのか」
『ああ……』
これで終わった。
少なくともアジア圏は守り切ったと思う。
既に迷宮から溢れ出している魔物の群れについては、各国でどうぞ頑張ってください。
ダンジョンコアの恩恵を受けられになくなっているでしょうから、魔力膜もなくなっているでしょうから、実弾で十分に戦えるんじゃないかな。
そもそも、そこまで干渉するだけの力も何もないよぉ。
意識はあるけれど、生きているっていうだけですからね。
最悪、魔力回路がちぎれて魔導師としての資質も失っているかもしれないけれど……。
それでも、日本は守りきれたんだから、いいよね。
それじゃあ、少しだけ眠らせてもらいますよ。
もうね……意識を保っているのも限界ですから……。
………
……
…
――――メソポタミア・位相空間内パンデモニウム
魔王アンドレスの居城。
対如月弥生戦においての切り札、それは『確殺の刃』を受けた直後に、魔人核のみを転移させる事。
タイミングさえ間違わなければ、分割した魔人核に意識と魂は固定されているため再生は可能。
そして今回の戦いでも、不死王リビングテイラーは保険として『遅延発動型転移術式』を、自らの魔人核に刻み込んでいた。
――コトッ
空間から零れ落ちた魔人核、その中で不死王リビングテイラーは苦虫を嚙み潰したような形相をしている。
無理もあるまい、まさかの逆転敗北、それも二度目である。
同門対決ならば、兄弟子である不死王に軍配が上がるのは必然。
経験も魔力量も、そして術式のバリエーションも如月弥生よりも桁一つ分上回っているのであるから。
にも拘わらず、このような敗北である。
『おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。次こそは、あの忌々しい空帝ハニーを叩き潰してやる』
そうは叫ぶものの、今は何もする事が出来ない。
魔人核だけの存在というのは、実に無防備であり、そして能動的に活動する事が出来ない。
だからこそ、この部屋に飛んできて、待機している錬金術師ヤンに新たな肉体を生み出してもらう予定であった。
『ヤン、ここに本体を置いているのは知っている。すまないが、早く新たな肉体を作り出してくれないか? このままでは何もする事が出来ない』
――ポタッ……ポタッ……。
そう叫ぶリビングテイラーであるが、まさかその錬金術師ヤンが、床に転がっている自分の近くの壁に串刺しになって死んでいるなどとは、思っていなかった。
「おや。まさかとは思いましが、まさか不死王リビングテイラーですか。その姿はどうしたのですか?」
ヒョイと転がっている魔人核を拾い上げると、謀略のコデックスが魔人核となったリビングテイラーに念話で話しかける。
『おお、コデックスか。ヤンはいないか? ちょっと油断してしまってな。急ぎ、新しい肉体に核を移さなくてはならないのだが』
そう告げるリビングテイラーだが、コデックスは手にしたリビングテイラーの魔人核を見てニイッと笑みを浮かべる。
彼がここにやってきた理由は、今回の総攻撃では四天王はただで済むはずがないと思っていたから。
まさかの魔王アンドレスの出撃でもある為、殿を務めるべくここに待機していたのだが。
幸いなことに、錬金術師ヤンは彼がちょっと目を離していた隙に死亡。
その魂が砕け散る寸前に、魔人核をヤンの体内から引きずり出したのである。
つまり、今、コデックスのもとには、二人の魔人核が集まっていることになる。
「ヤンですか。実は、ヤンは楯騎士スマングルにやられてしまったようです」
『何……だと。ヤンはここに詰めていた筈だ、どうやってヤンを殺せるというのだ』
「わかりません。ですが、すんでの所で魔人核は回収してあります」
『そ、そうか……では、先にヤンの魔人核から肉体を再生するのだ。コデックスよ、その程度の事は出来るだろう?』
――シャクッ!!ボリッボリッ
リビングテイラーの念話が届くと同時に、コデックスはヤンの魔人核に牙を突き立て、力いっぱいかみ砕いた。そしてその中からあふれ出すヤンの知識を、技術を、自らの体内に取り込んでいった。
「ええ。ご安心ください。ヤンの事については全て、この私に任せていただければ大丈夫です。ですからリビングテイラー、あなたも今しばらくは、意識を閉ざしている方がよろしいかと」
『そうだな……では、後を任せるぞ』
念話がスッ、と途切れた瞬間。
コデックスはリビングテイラーの魔人核をマジマジと眺めたのち、その綺麗な核に向かって牙を突き立て、一気に噛み砕いた。
――ゴギッ、バリッボリッ
それは刹那の瞬間。
リビングテイラーだった魔人核は砕け散り、彼の知識と技術も、コデックスの中へと蓄積されていく。
「ゴクッ……ふぅ、なるほど。ヤンの持つ錬金術の知識と技術、そしてリビングテイラーの持つ不死性と七織の魔導師としての知識は、確かに私が受け継ぎましたよ……と、おおっと、七織の魔導師については、知識はあっても魔術を行使できないのですか……え、魔導書との再契約? ああ、ヤンから得た錬金術の知識はあるので、今の私は『一織の魔法使い見習い』という事になるのですか……なんとまぁ……」
がっくりと肩を落とすコデックスだが。
とりあえずは、最後の四天王として彼らの遺志は継いでおこうと考え始める。
そして今現在、最も適切で安全かつ効率のいい対処方法を考える事にした。
コデックスは故郷である地球に帰ってきた時点で、魔王アンドレスをはじめとした魔族の再興などはどうでもよい些末な事でしかなかったのだから。
ただ、魔王アンドレスの元にいれば安全である、その為に付き従っていただけに過ぎなかった。





