Before I Let Go(制限時間、120秒!!)
ナイジェリアでスマングルと錬金術師ヤンが激しい戦いを繰り広げていた頃。
日本の富士演習場迷宮最下層でも、トラペスティと不死王リビングテイラーの戦いも激化の一途を辿っていた。
――富士演習場地下迷宮最下層
現在、わたしは意識を保つのが精一杯です。
アジア圏39か所の迷宮の支配権の書き換え、そして暴走している術式を消去しつつ迷宮内の魔力素を回収しマナラインに送り出す『魔力円環術式』の書き込み作業を行っている真っ最中です。
これが完成すれば、迷宮から生み出された魔物の保有する魔力は全てそれぞれの最下層に存在するダンジョンコアに吸収されます。
つまり、魔物は消滅する、いいですね。
その段階の手前、制御術式が完成すれば、後はトラペスティさんに任せる事も出来るのに、最後の抵抗がなかなか強いのですよ。
ダンジョンコアも上位のものになると、自我を持っていますからね。ということで、今は急ぎ術式を仕上げなくてはならないのです。
「……とはいえ。並列思考と聖域展開の40連同時発動は洒落になりませんね……まったく、どうしてあげましょうか、あのわんこ魔王は……」
――ガギンドゴォッ、ビッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
背後からはけたたましく魔術同士のぶつかり合う音や、雷鳴系禁呪が炸裂する衝撃波まで伝わってきます。
とはいえ、既に私の視界は真っ赤に染まり、聴力もかなり低下しています。
今現在は、私という媒体を用いた大規模儀式魔術を発動しているようなものですから。
これが全て終わった時、私の体にどのようなにバックファイアが発生するのか、今から考えるのもおっくうですよ。
最悪の場合は魂の消滅、輪廻転生の枠からすら外れてしまうでしょう。
最良の場合でも、体内の魔力回路はズタズタになっているでしょうから、最低でも一年は体を動かす事は出来ないでしょうねぇ。
『ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、たかが異界の邪神ごときが、七織の魔導師である我に抵抗を続けるとは!!』
「まあ、たかが七織の魔導師ごときが、邪神の欠片の一つである私を相手に、よくもまあ抵抗し続けられていますね……」
『いくら粋がっているとはいえ、しょせんは欠片。4分割された邪神の力など、恐れるに足りぬわ。七織の魔導師が誓願する。我が杖に、死の影を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力五万五千を献上する……確殺の刃っ』
「トラペスティが誓願する。我が腕に、死の影を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力五万五千を献上する……確殺の刃っ」
――バッギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ
確殺の刃同士のぶつかり合い。
それが幾度となく繰り広げられ、双方ともに疲弊するだけの時間を続けています。
ただ、不死王リビングテイラーには疲労という概念がなく、魔力さえ続けば延々と戦い続ける事が出来ます。
それに対してトラペスティさんは疑似肉体を構成しての戦闘でもあり、付け加えれば契約者である私と離れているという時点で、疲弊が激しいものになっている筈です。
『フフフッフッフッ……ほう、やはりその肉体では、長時間の戦闘は不可能という事か。まあ、それならば、こちらとしては貴様の時間稼ぎに付き合う必要はないのでね……』
「それは私とて同じこと。不死王、あなたにとっても、マナラインからの奔流が集まるこの地での戦いは、かなり厳しいのではないですか? 不死属性者にとってのマナラインは、いわば聖属性の大気の中で戦っているようなもの。普通の迷宮ならいざ知らず、この地はヤヨイによりアジア全域の魔力が集まることでマナ・メイルストロムを引き起こしています。現に、あなたの肉体もすでに崩壊しかかっているのではないですか?」
トラペスティさんの言葉に、リビングテイラーも言葉を噤んでしまっています。
ええ、この地に不死王が来たということはつまり、私との因縁を晴らすため。
そのために、自身にとって不利である場所に赴いてきたという事ですから、大したものですよ。
『まあ、確かに長時間は持たないだろう。だが、それもこれで終わりだな』
――シュシュシュシュンッ
私のまわり、いえ全周囲に魔力によって構成された槍が浮かび上がりました。
その数、ざっと認識しても200以上。
しかもその全てが、ほんの僅かずつ属性を変えているのです。
炎100パーセントもあれば、光70闇30といった複合属性により形作られた槍まで。
ええ、単一属性でしたらいくらでも対処は可能ですけれど、こうまで属性力を複合された挙句、そのパーセンテージまで変化していれば、カウンターで魔法を打ち消すことなんて不可能です。
「……グッ……させるかっ」
そのトラペスティさんの言葉が聞こえた瞬間、槍が一斉に私に向かって飛来します。
ここでの対策はいくつかありますが、どれも現時点では得策ではありません。
どの手段をとっても、アジア圏の迷宮に対しての書き換えが途切れてしまい、反作用で一斉に魔力が噴き出すでしょう。
ええ、それはつまり、アジア圏の迷宮すべての完全暴走状態を誘発します。
そうなると、後で書き換えを行ったとしても、更に余剰の魔力を持って挑まなくてはなりません。
ということは、ここでの選択肢は一つ、『耐える』です。
――チュドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッ
大量の爆音、そして激痛。
意識が途切れそうになる中での、魔力集中。
左腕の感覚がなくなっているということは、今の一斉攻撃により腕がちぎれ飛んだのかもしれません。
ですが、頭部と体、右半身にはまったくといっていいほど痛みがないのは……。
「……腕の一本程度、くれてやれ……頭と体が残っていれば、魔術の詠唱は続けられる……」
私の真っ赤な視界の向こう、マント状に姿を変えたトラペスティさんの姿があります。
全身傷だらけで、彼方此方に穴が開いている姿。
「私を庇って……はぁ。トラペスティさん、普段はさんざん、私に無茶をするなって言い続けていたのに。何て事を……ありがとうございます」
「まあ、この程度で済んだっていうのはラッキーだったな。ここから先は、俺がマナラインの制御に移行できる。ここまでご苦労だったな」
ちょうど今、制御術式の書き換えが完了しました。
ここからはただひたすらに、細かい魔力のやり取りを行うだけですが、それならば私よりもデジタルに作業できるトラペスティさんにお任せした方がいいでしょう。
「そうですね……では……七織の魔導師が誓願します。我が耳に宿れ神威の核。わが制御をトラペスティに移行、以後、マナラインの制御支配権をトラペスティに。私はアクティブモードに移行します……トランスファー」
――シュンッ
トラペスティさんが耳飾りに変化し、私の耳に戻ります。
そして失った左手の部分にもトラペスティさんの分体がへばりつき、腕を形成。
つまり、ここからは私のターンという事です。
「さて……よくも今までさんざん、痛めつけてくれましたわねぇ……このくそ兄弟子がぁ……暗黒魔術の書グロウ・ソトホースを召喚。そして七織の魔導師が、暗黒魔術の書グロウ・ソトホースに誓願します。我が肉体を変容し、魔導の神髄たる力を貸し与えた給え……我はその代償に、魔力125000を献上します。不死皇化っっ」
――シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
私の全身を黒い霧が覆いはじめます。
それはやがて黒いローブを形成し、さらに『不死王の錫杖』を形成しました。
マナ・メイルストロムが私の体を焼きますが、そんなの関係ありません。
相手は兄弟子だった人、不死なる存在。
故に、それを超えるには、こちらも限界を超えなくてはなりません。
『わが師ですら封じていた、禁忌の魔術……貴様は、師の教えを破るというのか』
「ええ、破りますとも、破らなくてはあなたに勝てませんからねぇぇぇぇぇぇ。ついでに言わせて貰えば、先に禁忌に手を出したリビングテイラーに言われたくないですよ! 更にいきます、七織の魔導師が誓願します。我が錫杖に、死の影を遣わせたまえ……私はその代償に、魔力五万五千を献上します……確殺の刃っっっっ」
『ぐっ……七織の魔導師が誓願する。我が杖に、死の影を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力五万五千を献上する……確殺の刃っ』
――バッギィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ
私が作り出した確殺の刃と、リビングテイラーの作り出した確殺の刃が打ち合い対消滅……させません!!
「詠唱続行っっっっ、も一度、確殺の刃っっっっっ」
『なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』
ええ、確殺の刃のクールタイムなんて無視しますよ、そりゃあもう。ビカム・アンデットによって、私の魔保有魔力は10倍以上に膨れ上がっていますから。
さあ、残り時間88秒、これで確実にリビングテイラーを滅してあげますとも。
失敗したら私も『不死王化』ですからね、馬鹿な兄弟子と同じ道は歩みませんよぉぉぉぉ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。





