Oh, Pretty Woman(自然発生した迷宮は、どこの管轄でしょうか?)
前略。
今年の北海道は、雪がとても少なく雪祭りが出来るかどうかという心配もしていたのです。
ですが、雪祭りの一週間前にドカ雪が降りました。
それはもう、例年通りに、つじつま合わせの大雪警報まで鳴り響いていましたよ。
最低気温もマイナス10度を下回る日が続き、雪像づくりにも気合が入るっていうものですよ。
異世界アルムフレイアに向かう前は、友達と一緒に雪祭りを見て、ハンバーガーショップで腹ごなしをした後、カラオケボックスで熱唱というローテーションだったのですが、今年は作る側でした。
ええ、友達から休みの日に一緒に見に行きませんかとか、例年通り雪祭りパーティーをやらないかとか、色々とお誘いがありましたよ、ええ。
当日は、待機所で緊急対応でしたが何か!!
そんな楽しい雪祭りも無事に終了。
雪祭り最終日の日付が変わった時点で、雪像の撤去作業が始まります。
以前までは、一挙作業は翌日の昼からスタートだったのですが、深夜に雪像に近づいて生配信を始めたり記念撮影を取ったりする人達が増えてしまいまして。
危険防止の為に、当日速攻で解体する事になったのですよ。
なお、今年の雪像の取り壊しは、私の魔術で一瞬で終わらせましたよ、ええ。
雪像を包むように魔法陣を展開し、その内部に熱風を発生させましたので。
溶け落ちてくる水については魔法陣に触れた瞬間に蒸発させて処理しました。
それはもう、名残りとかセンチメンタルとか、そういったものは全て無視ですよ無視。
近くに人が近寄らないように、安全面に配慮して雪像は蒸散しました。
それからは第1空挺団の訓練で、雪原への降下訓練を始めとした局地演習の雨あられ。
2月だけでも、17日間も演習があったのですよ。
もう、心も体もへとへとでしたよ、いくら異世界帰りのチートボディといっても、メンタル面についてはまだうら若き乙女なのですからね。
――北部方面隊・札幌駐屯地
「……それで、今日は習志野の演習はないのですか」
「はい、今日は北部方面隊での体力訓練と射撃訓練がありますので戻って来たのですけれど……この状態では、何もする事が出来ませんよ」
第1空挺団魔導編隊隊舎は、今、緊張に包まれています。
それがどういうことかといいますと、つい先ほど、札幌駐屯地に連絡が入ったのですよ。
『大雪山系にて、迷宮らしきものが発見された』と。
それで朝から、北部方面隊は緊張感に包まれています。
緊急時の出動要請に対処するべく、札幌にある第11旅団はいつでも行動可能な状態で待機。
大雪山系の管轄である旭川の第2師団からの報告をじっと待つばかりです。
特に、迷宮発見地点の近くにある上富良野駐屯地は、いつでも出動できるように『治安出動待機命令』が出ています。
「私が魔法の箒で飛んでいって、状況を確認した方が早いと思うのですけれど」
「命令があれば、それで構わないと思いますけれど。第1空挺団魔導編隊としては、このまま待機ですから。畠山陸将からも、そういう指示ですからね」
「りょ……ちなみに迷宮の確認は、どこの部隊が行っているのですか?」
「旭川の第2特科連隊ですね。そちらからの連絡が届かない事には、どうにも動きようがないというのがもどかしいですけれど」
まったくその通りです。
もしもこれで迷宮が発見されたとしたら、急ぎ対処しないと危険で……って。
「そういえば、小笠原1尉、あの迷宮管理特別委員会は、出しゃばってきていませんよね?」
「まだ迷宮管理法については閣議決定していませんからね。ことごとく否決されているので、委員会としてもどこか落としどころを捜しているらしいですけれど」
「ですよね~。でも、落としどころって、なんでしょうか?」
「今の迷宮管理特別委員会に足りない人材の確保……というところでしょう? いくら『自称・迷宮の専門家』がいたとしても、彼らの持つ知識は一切役に立ちませんので」
そうなりますと、私たち異邦人の出番ということになりますけれど。
今、自由に動ける異邦人って、ヨハンナぐらいしかいませんよ? あとは国家という枷に嵌って身動き取れていませんから、私以外は。
私はほら、第1空挺団魔導編隊としての任務ならば自由に動けますので。
「落としどころ……ないと思いますよ?」
「あの五井議員が聖女ヨハンナさんに、迷宮管理の協力要請は行ったそうですけれど。流石にいい返事は貰っていないようですわ……と、はい、第1空挺団魔導編隊隊舎事務局です」
おっと、いきなり内線が入ったようで。
それでは、私もそろそろ動く準備を行いますか。
きっと畠山陸将から私への呼び出しだと思いますよ、この状況では駐屯地内での呼び出しを行うよりも、直接隊舎に連絡した方が良いとおもいますので。
「……如月3曹、大至急北部方面隊総監室へ向かってください。畠山陸将からの緊急呼び出しです」
「了解しました」
敬礼をした後、急ぎ総監室へ移動。
さて、そろそろ覚悟を決めましょう。
現地へ向かうのか、それとも待機のままなのか。
「如月3曹、入ります」
「うむ……ご苦労。さて、つい先ほど、旭川駐屯地第二特科連隊からの報告が届いた。大雪山系トムラウジ山頂部付近にて、直径80メートルの陥没が確認されており、その周辺に異形の生物が徘徊しているのを観測隊が確認している。これについて、如月3曹の忌憚のない意見が欲しい」
そう説明を受けたのち、差し出された写真に目を通しますが。
はい、この冬の時期にも関わらず、トムラウジ山の山頂付近には雪の姿が見えていません。
そして受け取った写真に写し出されているのは、邪妖精種、つまりゴブリンです。
数はざっと見て8体、皮の鎧を身にまとい、腰からショートソード等を下げています。
新宿地下迷宮で見たものよりもしっかりとした装備を身に纏っているところから、かなり統率された群れであることがうかがえます。
問題なのは、武具を身に着けているということ。
ただの邪妖精種であれば、こん棒などの打撃系武具を使ってくるのですが、明らかに上位の装備を身に纏っています。ええ、邪妖精を操っている魔術師やモンスターテイマーといった存在がいてもおかしくありません。
これらの情報を一つ一つ説明した後、私が出した結論は一つ。
「おそらくですが、魔族の干渉がある可能性も視野に入れた方が良いかと思います。この数枚の写真だけでは断定できませんけれど、可能性は十分にあると思っています」
「なるほど。その場合、仮称・トムラウジ迷宮最下層に魔族がいると考えて行動した方がいいという事だな?」
「はい」
ここから先は、畠山陸将の判断です。
少なくとも、新宿地下迷宮戦での被害状況などは報告書で知っているはず。
そうなると、迷宮の危険性というものをより深く理解していると思いますので。
「如月3曹、威力偵察は可能かね?」
「本来ならば、威力偵察は普通科連隊もしくは偵察戦闘大隊の任務かと思われますが、この場合は私が行くことが適切であると判断します。そして可能であると進言します……というか、もう、ダンジョンコアまで飛んでいって、やっちゃっていいですか?」
「……随分と短絡的だが、その意図は?」
意図というか、迷宮が湧いてきたという時点で、夜魔キスリーラの干渉としか思えないのですよ。
あの女魔族は、迷宮を自在に作り出す事が出来るのですから。
それなら、今回のケースだって彼女が引き起こした可能性を十分に考慮した方がいいに決まっています。
迂闊に男性自衛隊員だけで内部調査でもして、彼女の虜になって敵対するような事になったらシャレではすみませんよ。
ということをかいつまんで説明すると、畠山陸将が静かに頷いています。
「では、如月3曹は至急、トムラウジ山麓で待機している第二特科連隊と合流。すぐさま迷宮の内部調査を開始し、可能ならばダンジョンコアの破壊を命ずる。この件については、習志野の近藤陸将補からの許可も得ているので……」
「拝命しました!!」
ビシッと敬礼をしたのち、私は総監部を後にします。
そして急ぎ外に出て魔法の箒を取り出すと、一路、トムラウジ山麓へと向かいます。
ほんと、魔族にはそろそろこっちの世界からも撤退して貰わないと。
それにしても、キスリーラかぁ。
「はぁ……まだ確殺の刃の改良も出来ていないのに、いて欲しくはないなぁ」
出来れば、ダンジョンコアの破壊だけで終わりますように。





