Bridge Over Troubled Water(ブルータス、貴方もですか)
コンピエーニュ迷宮第一層攻略の翌日。
私とヨハンナは、第一層最奥の空洞で救出したフランス陸軍兵士の治療を行いました。
体内に侵食した卵を麻痺の魔力で抵抗力を阻害、のちヨハンナが神聖魔術の『霊刃』にて切開。
魔法でササッと取り除くと思っていたフランスの外科医や従軍医師が度肝を抜かれた状態での外科的術式をお披露目しましたよ、ええ。
一人の身体の中からは最大で4つの卵を回収。
すぐさま私が深淵の炎で卵を焼却したところ、それはもう、とんでもないクレームが飛んできましたよ。
せっかくの魔蟲のサンプルをどうしてくれるのだ、とか。
君たちに魔蟲の卵を処理する権限はない、とか。
まったく、危機感というものをもう少ししっかりと持ってほしいものですよ、ええ。
「……それで、このホルマリン漬けの魔蟲の卵を作ったという事か」
「はい。二人目の体内から摘出した蜘蛛型魔蟲……パラサイト・スパイダーと私たちは呼んでいますが、折角なので置き土産にしようと思いまして。ええ、あの時点で焼却しないと、あと数日で卵が孵化して生き物に飛びつき、体液を啜って成長していましたでしょうからね。ガラス程度の容器なんて体内で生成される溶解液で溶かされるでしょうし、逃げようにもタングステン鋼よりも強靭な糸で絡め取れられて動けなくなるでしょうから」
「つまり、現代の技術では対処不可能と」
そう有働3佐が締めてくれましたので、私は頷きます。
横で話を聞いていたフランス陸軍の幹部の方々も、今の説明を聞いて納得するしかありません。
「それで、この後の対処はどうなさるおつもりですか? あのまま放置しておくと、また魔蟲は自然発生して増殖、いずれは結界を施している場所以外に穴を作り出してスタンビートを発生しかねませんが」
『サージェント・キサラギ。このコンピエーニュ迷宮をナイジェリア迷宮のように制御可能にすることは可能かね?』
「そうですね。可能かどうかと問われると、可能。そしてフランスで制御できるかどうかと問われると、不可能と進言します」
要は、ダンジョンコアを書き換えて、それを管理統括する人間が必要という事です。
そして新宿大空洞とナイジェリア迷宮の時も説明した通り、現在は異邦人でしか管理はできません。
『なにかこう、マジックアイテムで制御とか?』
「そのマジックアイテムを使うためにも魔力は必要ですが。言い換えます、科学では制御不可能です。では、早い決断をお願いします」
『早い……といわれても、この件については議会でも慎重に検討を重ねている最中なのだよ? 何故、そんなに急いでいるのだね?』
何故って言われましても。
「私たち陸上自衛隊第1空挺団魔導編隊第一分隊の派遣期間は、あと十日です」
ええ、任務で来ている以上は、派遣期間が設定されているに決まっているじゃないですか。
私が単独で、全力で迷宮攻略を行うのでしたら必要な時間は一週間というところでしょう。
ですが、そこに同行者が……とか、フランス陸軍と合同で……とかいう話になりますと、恐らくは十日でも足りないでしょう。
異世界アルムフレイアでもありましたからね、新迷宮が発見され、その危険度が特Aクラスに認定されたときの、迷宮出現地域の領主がよく話していたのですよ。
『迷宮をうまく活用したい。詳しい調査を行いたいので協力するように』
と。
そりゃあもう、隅から隅まで調査させられましたよ、半年も掛けて。
その結果、国からは迷宮封鎖を申し付けられたものの、迷宮資産に欲がくらんだ領主は『迷宮は適切に封鎖しました』と王国に報告。
その一か月後、その領都はダンジョンスタンビートにより消滅しましたからね。
その後始末に、スティーブとヨハンナが引っ張り出されてしまって、もう大変だったらしいてす。
『メジャー・ウドウ、派遣期間の延長は可能かね?』
「フランスと日本国政府の交渉によります。ただ、私たちを都合よく利用するのであれば、こちらとしても非協力的にならざるを得ませんので」
おお、有働3佐が釘を刺しましたよ。
これには ジョルジュ・マルソー少佐も苦笑いしていますが、ロピンソン査察官はお怒りモードです。はあ、困ったもので。
『では、今から一週間で、このコンピエーニュ迷宮を制御できるようにしたまえ。あとは私達が引き継ぐので、いいね!!』
「それは構いませんが、誰が管理人になるのですか? ダンジョンコアの管理には、毎日一万ほどの魔力を消耗しますよ? 私が知る限りでは、そんな膨大な魔力を持つ人間はそうそういないと思われますが」
『それは私達が調査し、適切に管理・運営できるものに託す。だから君たちは、言われた通りに迷宮を攻略すればよい、いいね。マルソー少佐も、彼らに同行して状況を報告するように、以上だ』
プリプリと怒りつつ、ロビンソン査察官はその場を立ち去ります。
はぁ、こりゃああれですね、しっかりとやられていますねぇ。
「はぁ……七織の魔導師が誓願します。我が眼の『真偽の片眼鏡』に、精神感応を授けたまえ……我はその代償に、魔力二万五千を献上します……精神看破っ」
──キィィィィン
はい、私の右目に真偽の片眼鏡が出現。
さらにそこに別の術式を乗せてロピンソン査察官を確認。
すると、彼の後頭部から首筋に向かって、何かの生物が寄生しているのが見えました。
だから、マルソー少佐にも一言進言しておきます。
「マルソー少佐、ロビンソン査察官は何かに寄生されています。ええっと、実態を伴わない精神寄生体と申しますか、そういったものに感情の一部が支配されています」
『何だと? それは大丈夫なのかね?』
「今の私と彼の会話のやり取りを見たとおり。非常に攻撃的な性格になりつつあります。確か、私達がここに来たばかりの時は『疲れ果てた中間管理職』風だったのですが、今はもう、エゴの塊といった感じで……んんん?」
そこまで告げてから、もう一度車に乗り込もうとしているロビンソン査察官を確認。
ついでに魔力をもう少し注いでみたところ、彼に取り憑いているのが『使い魔』であるところまで突き止めることに成功。
ついでにですね、精神寄生型使い魔を使役している存在は、私が知る限りでも一人しか知りませんよ、ええ、夜魔キスリーラです。
「はい。彼は夜魔キスリーラの放った使い魔に心を支配されているようです。という事で恐らくは、コンピエーニュ迷宮は私たちを殺す、もしくはとらえるための罠が張り巡らされている可能性があります。今一度、調査を行うべきかどうか、フランス政府と協議を行ってください」
『分かった。上申してみるが、時間はあまりなさそうだな』
「はい。先ほど申した通りです」
そう告げると、マルソー少佐も急いでその場を後にする。
「……如月3曹、魔術による内部調査、いけるか?」
「はい、一晩寝て、魔力を回復すれば可能です」
「では、明日の早朝から、可能な範囲での調査を命ずる。方法は一任するが、迷宮外からの調査を行うよう」
「はっ!!」
有働3佐も、現状の危険性は理解しています。
そりゃあ、世界初の迷宮出現から数えて三度目の迷宮関連事件ですから。
私がどのような魔術を使用するか、とかも熟知しています。
「さて、それでは鬼が出るか蛇が出るか……もとい、夜魔が出るか魔王が出るか、どっちも出て欲しくない調査の準備をすることにしましょうか」
勝負は、明日の早朝。
果たして、どういう結論が見えてくるのか……不安です。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。





