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【一般】現代恋愛短編集 パート2

好きな人に照れ隠しで義理チョコならあげても良いよって言ったら、誰かから本命チョコ貰って喜んでいた……

作者: マノイ
掲載日:2026/02/14

「はぁ~あ」

「すっごい露骨な溜息吐いてどうしたの?」

「露骨って言うな」

「私が通りかかるタイミングで聞かせるようにやっておいてそれはないでしょ」

「はは、だな」


 そうやって照れ臭そうに笑うのは、クラスメイトの空閑(くが)君。


 私の好きな人。


 以前、放課後遅くまで私の無くし物を一緒に探してくれた時から気になっていて、それから良くお話するような仲になった。


「それでどうしたの?」

胡桃坂(くるみざか)さんは優しいなぁ。ちゃんと聞いてくれるんだもん。他の女子なら白い目で見て来るだけで終わりだぜ」


 そりゃあ好きな人とお話が出来るなら喜んでそうするよ。空閑君の近くを歩いたのも、話しかけてくれるかなって思ったからだし。


「そういうのは良いから。それで?」

「来週の月曜のことを考えてたんだ」

「来週の月曜?」

「そう、バレンタインだろ。今年も貰えないのかって思ったら凹んできてさ」

「なるほど、それで私に催促してるってことなんだ。ふ~ん、なるほどねぇ~」


 顔が赤くなりそうなのを必死に我慢して、ニヤニヤして揶揄う風を装った。だって私からのチョコが欲しいということは、そういうことだから。


 もちろん他より仲が良い女子だから義理チョコくらいくれるかもしれないと単純に思っているだけかもしれない。だとしても私を好意的に思ってくれているということに違いは無い。


「さ、催促とかそんなんじゃねーし」

「じゃあ要らないんだ」

「欲しいです!」

「あはは、最初からそう言えば良いのに」

「え、じゃあくれるのか!?」

「う~ん、どうしよっかな~」


 迷うフリをしているけれど、心の中では決まっていた。


 本命チョコを渡して告白しようと。


「そこをなんとか!」

「そんなに欲しいの?」

「欲しい!超欲しい!」

「あはは、分かった。じゃあ義理チョコ用意しておくね」

「マジで!? やった!」


 どうして嘘をついてしまったのか。

 本命チョコだなんて先走って言えないのは当然だけど、わざわざ義理だと事前に伝えたのは照れ隠し。という意味もあるのだけれど、義理だと思わせておいて実は本命だったというギャップ効果も狙っている。


 当日驚く姿を見るのが楽しみだね。


「でも少し意外かな。空閑君ってモテそうなのに」

「ないない。全くない。俺には胡桃坂さんしか居ないって」

「っ!そ、そういう言い方は卑怯じゃないかな」

「え……?あ、いや、その、そういう意味じゃなくて……」


 空閑君が私のことを想ってくれているだろうことは察している。でもやっぱりどこか不安で、他に仲が良い女子がいないかって探ってしまった。

 そうしたらやっぱり脈ありだってことが分かったんだけど『胡桃坂さんしか居ない』は反則だよ。必死に気持ちを隠してたのに顔が赤くなっちゃったじゃん。


「まったく。バレンタインだからって無理矢理口説かなくても良いんだよ?」

「別に無理矢理じゃないし……」

「何か言った?」

「いや、何でも。それよりチョコ楽しみにしてるぜ」

「はいはい。それじゃ楽しみに待っててね」


 私は逃げるように慌てて教室を出た。


 だって小声で呟いていた空閑君の言葉が聞こえてしまったから。

 無理矢理じゃないということがどういうことなのか、分かってしまったから。


 成功が確約されたバレンタイン。

 月曜までの日々は幸せなカウントダウン。


 そう、思っていたのに。


--------


 日曜日。

 バレンタインデーを翌日に控えた今日、私は街に遊びに向かっていた。


 だって……だって緊張してどうにかなってしまいそうだったんだもん!


 ベッドの上でゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ転がって、『ダメだったらどうしよう~』とか、『付き合うってどうやるんだろう!』とか、永遠と繰り返してた。このままじゃ心がもたないと思ったので、気分転換に散策することにしたの。流石に外では挙動不審な行動は出来ないからね。


 あっ、あの袋ってチョコかな。

 あの二人、なんかぎこちない感じだけど明日から付き合い出すのかな。

 あそこの人達もチョコを渡すのかな。


 チョコらしいものが目に入れば反応し、男女のペアを見つければ反応し、結局心が休まることなんかない。


 はいこれ約束のチョコね。

 やった!サンキュ!あれ?これって……

 な、何よ。

 だってこの前は義理だって……も、もしかして。

 言わせないでよ、恥ずかしいんだから。

 ありがとう。本当にうれしい。

 え……じゃあそれって。

 俺も胡桃坂さんのことが好きだ。


 きゃああああああああああああああああ!

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。


 危ない、また妄想に憑りつかれて街中なのに悶え転げるところだった。

 でもついシミュレーションをしちゃうのは仕方ないよね。本命チョコを渡そうってドキドキしてるんだもん。バレンタインに関係するものを見るたびに、その時やその後のことを妄想しちゃうのは当然だよ。


 はぁ……前日が休みだから心の準備が出来るかと思ってたのに、これじゃあ疲れて潰れちゃうよ。いっそのこと空閑君に偶然会って、もう渡しちゃえたらな。チョコ持って来てないけど。


 なんて考えていたからだろうか。


「あれ、胡桃坂さん?」

「え!?」


 目の前に空閑君がいた。


 ま~た妄想しちゃったか。

 流石にそんな都合の良いことがあるわけ……


「休日に街で会うなんて奇遇だね」

「…………本物?」

「え?どういうこと?」


 ぎゃああああああああ!


 ふ、服、服は大丈夫かな。

 ちゃんと可愛いかな。

 髪もセットしてたっけ。


「良く分からないけど、胡桃坂さんの私服凄く良いね。可愛くて似合ってるよ」

「!?」


 い、今、可愛いって言われた!?

 やっぱりこれ、私の妄想!?

 でも空閑君の存在感はとてもリアルだし、妄想だとか夢の中だとは思えない。


 あ、そうだ、思い出した。

 空閑君とのデートを妄想してコーデして出かけたんだった。私ないすぅ!


「く、空閑君も中々良いじゃない」

「そう? 普段着だから少し恥ずかしいな」


 普通に似合っていてデートでも通用しそうな良い感じだよ。って褒めてあげたかったのに、まだ動揺が治まらなくて伝えられなかった。


「それにしても、今日は凄い良い日だ」

「そうなの?」

「うん。胡桃坂さんに会えたし、欲しい物も手に入ったからな」

「え!?」


 ああもう、空閑君ったら天然なんだから。

 私に会えたのが嬉しいだなんて、そんなのもう告白しているようなものだって、どうして気付かないのかな。


 もし空閑君と付き合うことになったら、こういうセリフを沢山言われちゃうのかも。どうしよう、心臓耐えられるかな。


「そ、そう。良かったね。ちなみに、欲しい物って何?」


 それは単なる照れ隠し。

 話題を私の事から別の事へと逸らすために思いついた質問。


 でもそれが、私を絶望に叩き落とすことになってしまった。


「それは……あ、な、なんでもないよ」

「え?」


 空閑君は手に持っていた小さな袋を背中に回して隠した。

 でもそれは間に合わず、私はその袋を見てしまった。


 今年本命チョコを渡すならコレ!

 様々な雑誌で紹介され、SNSでもバズっていた今年一押しの本命チョコ。


 私はそれを知っている。

 だって持っているから。


 空閑君に渡す予定のものだから。


 それには専用の小さな手提げ袋がセットでついていて、知っている人であれば渡された瞬間にそれが本命チョコだと分かる。空閑君が気付くかどうかも楽しみの一つだった。


 その袋を空閑君は持っていた。

 本命チョコを持っていた。


 そして空閑君は、それを手に入れて嬉しいと喜んでいる。


「胡桃坂さん? なんか突然顔色が悪くなったけどどうしたの?」

「…………な、なんでもない。用事思い出したから!」

「え?あれ?」


 目の前が真っ暗になるというのはこういうことなんだね。

 何処をどう走ったのか全く記憶にない。


 気付いたら家についていて、ベッドの上で横になっていた。


「うわああああああああん!うわああああああああん!」


 どうして告白が成功するだなんて思っていたのだろう。

 そうあって欲しいとあまりにも強く思い込んでいて、空閑君の気持ちを勘違いしていたのだろうか。


「ひっぐ、ひっぐ、うわああああああああん!」


 こういう結果だってありえたはずなのに、絶対にありえないと思い込んでいた。


「ずぎなのにぃ!こんなにもずぎなのにぃ!どうしてええええうわああああああああん!」


 もっと早くに告れば良かったのかな。

 義理チョコじゃなくて本命チョコを渡すって言えば変わってたのかな。


 分からない。

 何にも分からない。


 悲しい。

 辛い。

 苦しい。


 溢れて来るものはネガティブな気持ちばかりで、生きていて苦しいとさえ思ってしまう。


「空閑くん……う゛う゛う゛う゛……」


 私の恋は、こうして花開く前に終わってしまった。


--------


「…………」


 いつの間にか朝になっていた。

 学校に行きたくない。空閑君に会いたくない。


 お父さんもお母さんも事情を察してくれたみたいで、そっとしておいてくれた。


 今日は休もう。

 そう思った時、スマホに通知が来ていることに気が付いた。


「え……?」


 それはクラスメイトの女子からのものだった。


『胡桃坂さん!諦めちゃダメ!』

『絶対大丈夫だから!』

『あの馬鹿は分からせておいたから!』


 どういうことなの。


 私を励ましてくれているっぽいので、私の現状を知っているらしい。

 どうして私が失恋したことを知ってるの?

 そもそも私が空閑君に告白する話もどうして知ってるの?


 私が告白しても大丈夫らしい。

 どうして本命が他にいるのに大丈夫なの?

 分からせておいたってどういうこと?


 まるで恐怖すら覚えるくらいの状況なのに、逆に頭が冷静になった。

 悲しみ疲れてしまったから感情があまり動かなかったのかな。


 ひとまずメッセージの最初の方から読んでみることにした。


「あはは……」


 どうやら私の気持ちは普段の雰囲気からバレバレだったらしい。

 教室で義理チョコを渡す話を聞いて、本命チョコを渡しそうだと察したらしい。

 日曜日の私と空閑君が会った場面を目撃していたクラスメイトがいたらしい。


 精神的なダメージがなければあまりに恥ずかしくてベッドの上をゴロゴロ転がっていたに違いない。


「大丈夫……どうして……」


 クラスメイトが空閑君に何かをして大丈夫になったらしい。


 文脈から考えると『大丈夫』というのは本命チョコを渡すことについて。

 でもどうして大丈夫なのかな。

 空閑君には本命がいるはず……なのに。


 胸が痛い。

 また涙が溢れてしまいそうになる。


 でも『大丈夫』という言葉が私に少しだけ勇気をくれた。


「期待……して良いのかな」

 

 怖い。

 断られるのではと不安で一杯だ。


 以前のように絶対に付き合えるだなんて思えない。

 昨日の空閑君の嬉しそうな顔が、他に好きな人がいるのではという疑いに繋がってしまう。


 告白の結果まで大丈夫だと保証してくれれば良いのに。

 というのは、高望みすぎだね。

 こうして応援してくれるだけでもありがたいもん。


 悩みに悩んだ結果、学校に行ってみることにした。

 どうしても無理そうだったら早退すれば良いやって、半ば投げやりな感じで。


--------


 昨晩泣きながら早くに寝てしまったからか、起きた時間はかなりの早朝で、色々と悩んだ時間があったのに登校時間はいつもより早かった。


「おはよ~」

「お、おはよう」

「がんばって」

「う、うん」


 クラスの女子は私に挨拶と一言のエールをくれるだけで、特別構ってくるようなことは無かった。女子だけで集まって近寄り難い妙な空気を作らないようにとのことらしい。でも笑顔で励ましてくれるだけで、不思議と元気が出た。


「おはよう」


 来た。

 この声は空閑君だ。


 彼は自分の席に向かう途中で、私の前を通る。

 まずはその時に挨拶をしてみよう。


「…………」


 声が出ない。

 彼が目の前を通り過ぎてしまう。


 失恋の恐怖を勇気が上回ってくれない。

 やっぱり私には無理だよ。


「お、おはよう」


 そう思っていたら、空閑君から挨拶してくれた。

 いつもそうだったはずなのに、どうして忘れていたのだろう。


 せっかく挨拶してくれたのに、ここで無視するような嫌な女にはなりたくない。

 たとえ彼に本命が居ようとも、彼の前では良い女でありたいと思う。


 だから顔をあげた。

 こんなにも顔が重いと感じたのは人生で初めてかもしれない。


「お、おは……え!?」


 どうにか空閑君の顔に視線を向けると、彼の左頬が物凄く腫れていてびっくりしちゃった。


「どうしたのそれ!?」

「まぁちょっと……って俺より胡桃坂さんの方が酷い顔してるじゃないか。大丈夫か?」

「え、私? ちゃんとお化粧して隠して……ってそんなのはどうでも良いよ!そっちの腫れの方が大事だって!」


 泣きすぎて酷い顔になっていたのは化粧で誤魔化したけれど気づかれてしまった。ちゃんと気付ける空閑君が好き、じゃなくて問題は腫れだよ腫れ。


『あの馬鹿は分からせておいたから!』


 まさか!?


 慌てて教室を見回したら、何人かの女子がサムズアップした。

 サムズアップじゃないよ! 空閑君に何してくれてるの!?


「ご、ごめんなさい!私のせいで!」

「胡桃坂さんのせいじゃないだろ」

「いや、その、間接的に私のせいっていうか……本当にごめんなさい!」


 ええと、どうしよう。

 薬にガーゼに……持ってないよ。保健室にいかないと。というか、どうして空閑君は手当しないで放置してるの。


「とにかく保健室に」

「待って。これは俺が馬鹿だった罰みたいなものだから気にしないで」

「意味分からないよ。それに気にしないなんて出来る訳ないって」

「まぁまぁ。そこをなんとか。その前に昨日のことを謝らせて」

「え?」


 昨日のこと。

 その言葉で、気持ちがまた切り替わってしまった。


 顔の腫れのことですっかり忘れていた本題を思い出し、体が硬直してしまう。


「本当にごめん。俺があまりにも無神経だった」

「…………」


 一体何を謝っているのだろうか。

 それが分からないと反応のしようがない。


 空閑君はとりあえず謝るのではなく、ちゃんと説明してくれる素敵な人だ。

 これで終わりなんてことがあるはずがない。


「実は俺……」

「…………」

「…………」

「…………」


 空閑君は顔を赤くして私から目を逸らし、とても言いにくそうにしている。

 やっぱり好きな人がいるってことなのかな。私からのチョコは受け取れないとかって話なのかな。


 涙が溢れそうになる。

 逃げ出したくなる。


 これ以上、話を聞きたくない。


 でもここで逃げたら後悔する。

 何故かそんな風に思った。

 そしてそう思えたことが幸せに繋がっていた。


「チョ、チョコがすげぇ好きなんだ!」

「…………え?」


 全くの予想外の言葉に、きっと私はとてつもなく間抜けな顔をしていただろう。


「だからバレンタインは普段売ってないチョコが沢山売られているから欲しくてさ」


 まさか私からチョコを欲しがったのってそれが理由だったの?


「胡桃坂さんから義理チョコ貰えるって分かって嬉しくて、でももっと沢山欲しくなって……」


 あれ、これって空閑君が何かを謝ろうとしてたんだよね。

 話の流れが見えなくなって来たんだけど。


「隣町にさ、俺みたいにチョコが好きでバレンタインチョコを食べたい男向けの男性専用バレンタインチョコ販売店があって、そこであのチョコ買って来たんだ!」

「はあああ!?」


 あれって本命彼女から貰って来たんじゃなくて、自分で買って来たの!?

 それが恥ずかしくて隠そうとしたってこと!?


 何なのそれ!?


「胡桃坂さんが義理チョコくれるって話だったけど、どんなチョコになるか分からないから、だったら本命チョコの定番商品を買えば被らないかなって思って買ったら、帰りに胡桃坂さんと会っちゃって……」


 そしてそれを見た私が、本命彼女から貰った物だって勘違いした、と。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………ぷっ」

「え?」

「あはは、あはははは!なにそれ!?そんな店があるの!?あはははははは!」


 あまりにもくだらなくて、というのは空閑君には失礼かな。

 でも私にとってはやっぱりくだらなくて、勝手に勘違いして失恋したとショックを受けてこの世の終わりかと思ってしまったくらい悲しんだのは何だったのかと思ってしまった。


「あははは、あ~もう、おっかっしいの。ほんっと、笑いすぎてお腹痛っ涙でちゃう」

「…………笑いすぎだろ」

「ごめんごめん。でもそうだよね。バレンタインチョコって美味しそうなの沢山あるのに男子は買いにくそうだもんね」

「そうなんだよ!」


 女子は自分用になんて買ったりもするけど、男子がそれが出来ないのは不公平かも。だとすると男性専門店なんてのも需要があるのかもしれない。


「あれ、でもなんでそれで謝ったの?それにその頬の腫れは?」


 安心して気持ちが落ち着いて来たら、まだ疑問が残っていることに気が付いた。


 チョコが好きで自分で買ったことを恥ずかしくて言い出しにくかったのは当然として、別にそれを私に言わなかったことを謝る必要は無いもん。


「いや、だってチョコをくれるって言ってくれた女子の前で、まるで本命チョコを貰ったかのような振る舞いはマズイだろ」

「なるほど、それをクラスの女子に分からせられた、と」

「超怖かった」

「あはは。なんかごめんね」

「どうして胡桃坂さんが謝るんだ?」

「え?あ、そ、それは……」


 たとえ空閑君がデリカシーが無かったとしても、顔が腫れるまでのことをするのは流石にやりすぎで理不尽だと思う。


 そしてもう一つ。


「わ、私が最初から本命チョコを渡すって言ってればこんなことにならなかったから……」

「…………」

「…………」

「…………」


 わー!言っちゃった言っちゃった!

 しかも教室の中で、皆が見ている前でやっちゃった!


 でもどうせ私の気持ちなんて皆にバレてるし、今やらずにいつやるのって流れだったし、しょうがない!


「あ~、で、でももう本命チョコ自分で買っちゃったから要らないか~」


 はい、意気地なしでした。

 甘酸っぱい空気が我慢出来なくて退いちゃいました。


「要る!」

「え?」

「欲しい。く、胡桃坂さんからの本命チョコが欲しい!」

「……で、でも、もう食べたんだよね?」

「そういう問題じゃない。胡桃坂さんからのチョコが欲しいんだ。普段からあんなにアピールしてるのに、ここまで言わないと分かってくれないのか……」

「え?アピール?」


 チョコが欲しいとか、私服が可愛いって褒めてくれたこととか、これまで似たようなことが何度もある。その度に、天然だからそういうことをサラっと言ってしまうんだなって思ってたけど、まさかそれ全部私へのアピールだったの!?


「じゃ、じゃあ空閑君って、大分前から……」

「胡桃坂さんが好きでした」

「!?」


 じゃあさっさと告白してよ!

 って反射的に言おうとしてギリギリで踏みとどまった。


 私が恥ずかしくてアピールしなくて、いつも冗談に変えてしまっていたからだ。

 私の気持ちが見えない状況で、今の関係が壊れるかもしれないと分かっていて簡単には告白なんて出来ないだろうし、だから沢山褒めたりして私の気持ちを探っていたんだ。


「あ、あはは……な、なんか恥ずかしいね」

「でも嬉しい」

「っ! やっぱり空閑君って天然だよね!?」

「だってはっきり言わないと分からないかなって」


 もうとっくにたっぷりと分からされてます!


「うう……じゃ、じゃあこれからは、恥ずかしいけどちゃんと言葉にするね」

「た、たすかる」

「…………」

「…………」


 顔が熱い。

 幸せすぎて全身がポカポカする。

 感情がジェットコースター並みに激しく動いて、もう倒れそう。


 でもその前にやらなければならないことがある。


「は、はいこれ。義理チョコ、じゃなくて本命チョコだよ」

「あ、ありがとう」

「その、す、す、す…………………き、です」

「俺も好きです」


 きゃああああああああ!

 告っちゃった!オッケー貰えちゃった!


 やったぁ!


「待って胡桃坂さん」

「え?」


 告白が成功した最高の瞬間に、クラスの女子が話しかけて来た。

 いくらなんでも空気読まなすぎじゃない?


「やりすぎ」

「え?」


 慌てて教室中を見ると、大半の人が気まずそうにしていた。


「あ…………」


 せめてチョコは後で渡せば良かったのに、わざわざ皆の前で見せつけるように渡してちゃんと告白するなんてバカップルやってるようなものじゃん!


 超恥ずかしい!


「く、空閑君行くよ!」

「え!?ど、何処に!?」

「そんなの保健室に決まってるでしょ!」


 彼の手を握り、慌てて教室から逃げ出した。


 果たして診察が必要なのは真っ赤に腫れた彼の頬か、あるいは全身が真っ赤に火照る私の体と心か。


 どちらにしろこの熱でせっかくのチョコが溶けないと良いな。

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― 新着の感想 ―
クラスメイトがいい人たちでほっこり
今後これを読む方々へ。 ビターチョコをどうぞ。
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