第61話 慈善団体?
「い、痛ってぇ~……」
若い男――いや、少年と言った方がより正確か。
突然俺たちの前まで転がってきたのは、ボサボサな紺色の髪が印象的な冒険者の少年だった。
年齢は、たぶんヴィリーネと同じか少し下くらいだろうか?
鎧の類を一切身に着けない身軽な格好で、両腕に拳闘用籠手を装備している。
拳闘士というヤツだ。
そんな少年は俺たちの前まで転がって、頭を地面に、お尻を空に向けてぐったりとする。
続けて、冒険者ギルドからパーティらしき一団も出てきた。
「喧嘩で勝ったら、なんだって? えぇ? 弱っちい口だけのマグナくんよぉ」
「哀れ……。神徒ボラスの御許に、弱者の居場所なし……」
その先頭に立つのは、目の下に大きな隈を持つ細身の男と、前髪で目元が隠れた背の低い男。
細身の男は双剣士らしく腰に2本の短剣を携え、片や背の低い男は神官のようで白いローブと長い杖を持っている。
他にもメンバーがいるが、どうやらこの2人がリーダー格らしい。
「チ、チクショウ……! このオイラが蹴り飛ばされるなんてぇ……!」
「テメエにはがっかりしたぜ。腕が立つって言うから仲間にしてやったのよ。それに拳闘士が剣士に蹴りを喰らうとか、恥ずかしくないワケ?」
「そ、それは……最近は調子が悪いだけで……!」
「困るんだよなぁ。俺たち『ホヴド』は地下墓地ダンジョン開拓で先陣を切り続ける、今やこの街でも有数のSランクパーティなのにさ。足手まといなら、いない方がマシだと思わない?」
「カリスト、ジルベール、話を聞いてくれよ! オイラはまだまだ戦えるんだッ!」
「とか言われちゃったけど、どうするジルベール?」
「追放者に発言権などない……。尚もまとわりつくならば……」
ジルベールという神官は杖の先端を拳闘士の少年へと向ける。
それを見て――俺は、いよいよ黙っていられなくなった。
「おい待て……もうそのくらいでいいだろう」
「あん? なんだ、テメエ? 見ねぇ顔だな」
「俺は『追放者ギルド』のギルドマスター、アイゼン・テスラーだ。お前らの暴挙はこれ以上看過できない。悪いが割って入らせてもらう」
俺が堂々と名乗ると、カリストという双剣士はブフッと吹き出す。
「おい聞いたかジルベール! 『追放者ギルド』だってよ! 役立たずを集める慈善団体みたいだぜ!? そんなのが出来てたなんざ、クッソ笑えるぜ! ギャハハハ!」
笑いが止まらないといった感じで、ゲラゲラと声を上げるカリスト。
無論、彼の発言は俺を不快にさせたが、それ以上に――
「へえ……それなら本当にただの慈善団体かどうか、試してみるっスか?」
まず、コレットが俺の前に出た。
それにヴィリーネやマイカも続く。
「お? お嬢ちゃんたちもお仲間か? 見ろよジルベール、役立たずがガン首揃えて――」
カリストは小馬鹿にしつつ彼女たちを一望したが――3人の〝目〟を見るや、一瞬で顔色を変えた。
つい今しがたまでヘラヘラと笑っていた顔が、恐怖と緊張で凍り付く。
「うっ……!?」
「ガン首揃えてあげたけど、それでなに? アンタたちはアタシたちより強いって言いたいのかしら? 悪いけど、ぜんっっっっっぜんそんな風に見えないわね」
マイカが落ち着いた口調で威嚇する。
さらにヴィリーネが彼らを見据えて、
「私たちは追放者への迫害を許しません。発言の撤回と、彼への謝罪を要求します」
――カリストたちがどれほどの経験を積んできたのか知らないが……少なくともヴィリーネとマイカは2度、コレットは1度の死線を潜り抜けている。
ハッキリ言って、その眼光に宿る覇気は並の冒険者など比較にもならない。
現に、カリストは自身とヴィリーネたちとの力量差を本能で感じ取ったようだった。
この街でも有数のSランクパーティとか言ってたが、それはあくまで自称に過ぎないのだろう。
「ク、クソ……追放者の分際でよぉ……!」
「3人共、もういいだろう。これ以上怖がらせるんじゃない。――マグナ、と言ったかな? 歩けるかい?」
「へ? あ、ああ……。すまねぇ、旦那……」
俺はマグナを連れて、その場を立ち去る。
どうせカリストたちに追放者は決して無能ではないと解いたところで、聞く耳など持たないことを嫌というほど理解しているからな。
勿論、平然と背中を向けて歩き出す俺たちに対し、カリストたちが襲い掛かってくることはなかった。
「――――チクショウめが! なんなんだ、あの小娘共……あんな覇気のある冒険者、これまで見たことねぇぞ! いつから『フランコルシャン』にいやがったんだ……!?」
「カリスト、落ち着け……。僕らの〝目的〟は達した……」
苛立ちと恐怖で冷や汗を流すカリストに対し、ジルベールが諭すように言う。
「それに、これはむしろ僥倖……。どうせ奴らは、マグナのことをなにも知らないのだから……」




