第59話 地下墓地ダンジョン
「地下墓地ダンジョン……ですか……?」
何故、今このタイミングでダンジョンの名前が出てくるのか?
俺は一瞬不思議に思ったが、すぐに察する。
「もしや、その場所で事件が起きていると?」
「然り。地下墓地ダンジョンとは、昨年発見されたばかりの全く新しいダンジョンでしてな……」
グレノンさんは説明してくれる。
――曰く、予てよりこの街の地下には、大昔の聖職者たちを埋葬するために掘られた巨大な地下墓地があると言い伝えられていたという。
その地下墓地は故人を葬るためにどんどん地下深くへと掘り進められ、いつの間にか迷宮のように複雑で長大な通路が入り組んでいたのだとか。
しかし時の流れと共に地下墓地は使われなくなっていき、幾百年が過ぎていく内に、人々の記憶からは入り口の場所すらも忘れ去られてしまったらしい。
彼の話を、俺は歴史の授業を受けるような感覚で聞き入っていた。
育成学校の時も、こういう大昔のことを勉強しているのは好きだったな。
「この街にそんな場所が……」
「はい、地下墓地の存在は半ば都市伝説のようになっていたのですが――街の住民が偶然、地下墓地への入り口を見つけたのです」
グレノンさんが説明すると、マイカが「ははあ」と声を上げる。
「読めたわよ。その地下墓地が百年だか千年だか放置されてる間に、すっかりモンスターの住処になってたんでしょ。人の入らない墓地なんて、ゴーストやスケルトンが跋扈するには最高の場所だもの」
「仰る通りです。ですがニベル教会にとって、地下墓地への入り口は歴史的な発見。内部の探索を見す見す諦めるなど以ての外でした。そこですぐさま冒険者ギルド連盟に掛け合い、地下墓地をダンジョンに指定。多くの冒険者と信徒を送り込み、順調に深部へ向かうルートが開拓されていったのですが……」
グレノンさんの表情が暗くなり、彼は俯き気味に両手の指を組む。
「……半年ほど前から、奇妙はことが起こり始めました。地下墓地ダンジョンに潜った上位ランク冒険者パーティが、次々と失踪したのです」
「ア、アイゼン様から聞いてはいましたが……改めて聞くと怖いですぅ……」
ブルっとヴィリーネが身震いする。
彼女は如何にもその手の話が苦手そうだもんな。
「……メラースさんも言っていましたが、失踪した冒険者たちは過去に仲間を追放したという共通点があるそうですね。失踪が人為的なモノであるならば、考えられるのはかつてパーティから追放された暗殺者や斥候による闇討ちでしょうか。よほど恨みを抱えていると見える」
手練れの暗殺者や斥候ならば、迷宮のように入り組んだダンジョンで人をさらうのは難しくないだろう。
それでも人目につかないままパーティをまるごと、となると骨が折れそうだが、それらの職業経験のある者が数名集まれば不可能ではないはず。
追放された経験のある者たちが、徒党を組んでいると考えるのが自然――か――
これも追放ブームが生んだ悲劇なのだろう。
しかし中にはサルヴィオのように考えを改めた者もいたかもしれないのだ。
自業自得、とは言うまい。
俺はそう考えていたのだが――
「いえ……話はそう単純ではないかもしれません」
「え?」
「消えてしまった冒険者は誰も彼も腕利きの熟練者ばかり。幾ら未開のダンジョンとはいえ、そう易々と後れを取るとは思えません。そもそもそんなことができる暗殺者や斥候がいたならば、素性を割り出すのは難しくない。仮に数名で徒党を組んだとて、中位ランク以上の実力を持つ者たちならば調べもつく」
「……なのに、暗殺者や斥候の追放者でそれらしき該当者たちがいなかった、と?」
「そうなのです。そしてなにより……失踪事件が認知されてくると同時に、とある噂が冒険者たちの間で囁かれるようになりました」
俺はゴクリと息を飲む。
コレットも緊張した面持ちで、
「…………なんスか? その噂って……?」
「とある下位ランク冒険者が目撃したと言うのです。上位ランク冒険者をダンジョンの奥へと連れ去る――――〝狼男〟の姿を」
――――それは、あまりにも意外な一言だった。
暗殺者や斥候でもなく、狼男。
俺は呆気に取られ、
「お……狼男、ですか……? それって、つまりモンスターの仕業じゃ……。コボルトの見間違いって可能性も――」
「いいえ、それはありえません。それにもしコボルトならば、AランクやSランクの冒険者がやられることはないはず」
まあ、それもそうだが……
そもそもコボルトは群れで戦うモンスターであり、単独の戦闘力は低い。
仮に群れからはぐれた1匹が街に入り込んだとしても、すぐに冒険者に駆除される。
それにコボルトは4本足で移動するから、一目見ただけでも〝狼男〟とは呼ばないだろう。
俺が首を傾げていると、
「……狼男はモンスターじゃないわ。正真正銘の人間よ。だけど、アタシたち獣人族とも違う」
マイカが、そう答えた。




