第58話 聖都フランコルシャンと枢機卿
――『聖都フランコルシャン』
ニベル教という信仰の聖地とされる街で、人々はこの街を〝聖なる都〟と呼ぶ。
勿論この街が聖地だから聖なる都なワケだが、その呼び名に対する実際の認識は少しばかり異なる。
ニベル教は昔から冒険者の信徒が多く、そんな信徒たちにとって聖なる都は、最後の魂の寄る辺。
もし冒険中に命を落としたら、その亡骸は『聖都フランコルシャン』で葬ってほしいと願う者が多いそうだ。
そのため『聖都フランコルシャン』では、長年に渡って多くの冒険者を弔ってきた。
中には英雄として今尚崇められる冒険者の名もあるのだとか。
つまりここは、数多の冒険者の魂が眠る街。
そこにニベル教の粛然たる雰囲気も相まって、先人が眠る場所を冒険者たちが聖なる都と呼び始め、それが広まった――と専ら語られている。
――そんな場所に、ヴィリーネ、マイカ、コレットの3人を連れて訪れた俺。
「ここが『聖都フランコルシャン』かぁ……聖なる都と呼ばれるだけあって、綺麗な街だね」
「本当ですね、街の家々も白一色で……とても美しいです」
ヴィリーネもこの街を気に入ったらしく、街並みを眺めてうっとりとしている。
実際『聖都フランコルシャン』は観光地としても有名で、冒険者や信徒以外の人々も多く訪れるほどなのだとか。
コレットも辺りをキョロキョロと見回し、
「はぇ~……なんていうか、神秘的な感じっスね。サルヴィオの兄貴にも来てほしかったっスよ」
少し残念そうなコレット。
ちなみに、サルヴィオは今回お留守番だ。
身体のこともあるし進んで遠征させたくなかったのが1番の理由だが、俺たちが不在の間は彼にギルドを任せたいという判断もあった。
今のサルヴィオなら安心して任せられるし、留守の間でも訓練を続けてもらえる。
そんなことを考えながら、俺たちが聖なる都の風景を楽しんでいると――
「……」
何故か、マイカだけが青ざめた顔で歩いている。
どこか気分が悪そうだ。
「……大丈夫か、マイカ? なんだか具合が悪そうだが……」
「あ、あんまり大丈夫じゃないかも……っていうかこの匂い、よくアンタたち平気な顔していられるわね……」
「匂い?」
俺は鼻をスンスンと動かしてみる。
すると、
「ああ、確かに変わった香りがするね。これは、お香のような……?」
「アタシにとっては嗅ぎ慣れた匂いだわ。たぶんコレ、街全体でお線香に近いモノを焚いてるのよ。死者を弔う匂いってヤツ。獣人族のアタシにはたまんないわね……」
ああ、そういえばマイカは獣人族だから、俺たちよりも鼻が利くのか。
それは確かに、街全体でお香を焚かれたりしたらさぞツラいものがあるだろう。
「でも……ハッキリ言ってアタシが1番キツイのは、その匂いの中に別のモノが混じってることよ。コレってたぶん……〝死臭〟だわ……」
死臭――彼女がその言葉を発した直後、俺たちの横を葬儀の列が通り過ぎる。
担がれた大きな棺桶と、それを囲う者たち。
身なりからして、冒険者たちがパーティメンバーの葬儀を開いているらしい。
……冒険者とは、常に危険と隣り合わせの職業だ。
当然冒険の最中に命を落とす者も多い。
そんな冒険者を大勢弔う街ともなると――どうしても、そういう匂いも混じってしまうのだろう。
俺はそんなことを考えつつも歩を進め、目的地を目指す。
「ところでアイゼン様、今回の依頼主さんはどんな方なんでしょうか?」
不意にヴィリーネが聞いてくる。
そういえば俺がメラースさんから聞いただけで、彼女たちには話していなかったな。
「うん? ニベル教会の枢機卿さんだよ。正確に言えば司教枢機卿の人らしいけど――」
俺は明け透けに答えるが、それを聞いた途端マイカが驚く。
「し、司教枢機卿!? それってニベル教会で7人しかいない最高幹部じゃない!」
「そうだね、凄いお偉いさんだ。メラースさんの紹介ってこともあるし、失礼のないようにいこう」
「失礼って……ハア、本当にマスターは肝が据わってるっていうか、なんていうか……」
頭を抱えてため息を漏らすマイカ。
そんなに驚くことかな?
俺としては冒険者ギルド連盟のジェラーク総代に招待された時の方がよっぽど緊張したけど……
いやまあ、逆にあの時の経験があるから、こうやって落ち着いていられるのかもしれない。
それにあんまり宗教にも興味ないし。
そうこう話している内に、俺たちは街の中でも一際大きな大聖堂へと到着する。
するとすぐに助祭の人たちが取り合ってくれて、司教枢機卿が待つ執務室へと案内してくれた。
俺たちが執務室へ入ると――
「やあやあ、ようこそおいでくださいました。『追放者ギルド』の皆様方」
紫色の礼服に身を包んだ白髪の老人が出迎えてくれた。
年齢はおそらく60歳を超え、温厚そうな顔には幾つもシワが入っている。
「初めまして、私はグレノン・ヴァローネ。ニベル教会の司教枢機卿をやっております。どうぞよしなに」
「こちらこそ初めまして、グレノンさん。俺はアイゼン・テスラー。『追放者ギルド』のギルドマスターです。彼女たちは団員のヴィリーネ、マイカ、コレットです」
「あなた方のお噂はかねがね、メラース女史から伺っておりますよ。アクア・ヒュドラを討伐し、さらには太古の竜までをも倒した勇敢な冒険者だと。ですがこんな可憐な少女たちだったとは驚きだ。さあどうぞお掛けください」
軽く握手する俺とグレノンさん。
ヴィリーネたちはやや緊張した面持ちだ。
俺たちは促されるまま椅子に座ると、
「はるばるお越しくださり、ありがとうございます。皆様、長旅でお疲れのこととは思いますが……さっそく本題に入らせて頂きたい」
「勿論です。こちらも大まかな話はメラースさんから聞いていますが――なんでも、上位ランク冒険者が次々と殺されているとか……」
「ええ……お陰で街は妙な噂で持ち切りです。しかしその内容に入る前に――〝地下墓地ダンジョン〟について、あなた方に話しておかなければなりません」




