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雷帝のメイド  作者: なこはる
六章-神様ロックオン-
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誇りクエスチョン

「移動の方が長かったな」

「ええ」


 再び大理石の回廊を歩きながら、しょうもないその一言に同意した。正確無比のナナキタイマーによれば移動に十分、会話に五分といったところ。何やらぶつぶつと呟いてはいたけれど、比較的早めに要件を告げた皇帝陛下とそれを即断で足蹴にした我が主。必然の結果とも言える。


「もう嫌……なんなのこの二人……そもそもナナキの担当はエンビィでしょう……何やってるのよあの子。皇帝陛下の首を掴むなんて……いや、それよりもゼアン・アルフレイドは敬語も使わないで……もう嫌……」


 ぶつぶつと呟く覇気のない者がここにも。五帝が一人、天帝サリアが何という有様か。皇帝陛下にグッバイナナキをしてからというもの、陰鬱とした空気を醸し出しながら付いてくるサリアを見た。本来ならばサリアが先導をしなければいけないというもの、我が主に失礼を働くとは良い度胸をしている。


 と、言いたいところだけどナナキはサリアのことが嫌いではない。また、ナナキの知ったことではないから遠慮はしないけれど、その苦労は理解しているつもりだ。よってナナキはサリアの不敬を許容、この懐の深さは敬愛なるお母様に通ずるものが在る。さすがナナキと言えるだろう。


 苦労、苦難は乗り越えてこそだよサリア。ナナキもそれらを乗り越えてここまで来た。超越者とそう呼ばれる者の責任を果たしてほしい。エンビィ程ではないけれど、共に戦い共に過ごした日々の感謝を示そう。差し当たり、世界の希望とも呼べるナナキの笑顔が妥当か。妥当だ。


 応援のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。


 最高品質の笑顔をお届け、笑顔のお求めはナナキまでどうぞ。


「……笑いごとじゃないのよナナキ」


 知ったこっちゃナナキ。


「――――お兄様ッ!」


 サリアのため息を掻き消す大きな声。貴族の女性にあるまじき行為ではあるものの、現存する人類の中で最高位に当たる皇帝陛下に呼び出された兄を待つ妹としては、仕方のないことなのかもしれない。行き帰りも含めておよそ三十分、ただ待つだけの身には少しばかり長い時間。


 けれどナナキは駆け寄るミーア様に問いたい。彼女はナナキの実力を知っている、だからこそ不安を覚える必要などないのだと。ご覧の通り、主の無事はこのナナキが保証致します。帝都の、それもセントラルの面々を相手に無事を保証できるナナキの力を正しくご理解頂きたい。


 そう、これは胸を張ることなのだ。なればこそ、誇りを持ってご報告をさせて頂こうと思う。


「ただいま戻りましたミーア様。ご覧の通り、我が主は無――――どぅッ!?」


 なんでっ!?


 すれ違う瞬間にナナキのお腹へ叩き込まれたミーア様の拳。どうしてと、そう理由を問うよりも先に痛みで大理石の床に突っ伏した。死ぬ。


「ナ、ナナキに一発入れただと……!?」

「なんと……」

「私たち五帝が四人掛かりでも難しいのに……あの子いったい……?」


 大理石に突っ伏したまま、驚愕の表情を露わにしているシルヴァたちに色々と申し上げたいことがあるのだけど、残念ながらまだ呼吸が整わない。どうしてナナキは無様を晒しているのだろう。少しばかり考えてみたけれど、出た結論は一つしかなかった。


 ミーア様から見たナナキの立ち位置、主と被ってたから邪魔だったんだろうな。


 夏が過ぎ去った秋の暦、大理石のひんやりとした冷たさを感じながら理不尽を受け入れた。床に突っ伏すナナキを指差してゲラゲラと笑っている友がとても印象的だった。


 後でぶっ飛ばす。



「それで、エンビィはどこ行ってるのよ。引っ叩いてやるわ」

「やけに荒れてるな。何かあったのか?」

「何かあったのかじゃないわよッ‼ 死にかけたわよ! 私も! 陛下も!」

「なッ!? おいナナキ!? どういうことだ貴様ッ!」


 知らね。


 そんなことよりもエンビィだ。騒がしい五帝の面々は放っておいて、ナナキの心の姉の魔力を探る。エンビィには昨夜、一つだけお願い事をした。久しぶりの再会ということで、少しだけ甘えさせてもらったというわけだ。お恥ずかしい限り、シスターナナキ。


 才能の終着点と呼ばれるこの帝都、そこら中に大きな魔力が溢れるこの場所でエンビィの魔力だけをピンポイントで探るのは難しいことに思えるかもしれないが、その実はとても簡単。何故ならナナキたちは超越者、数多溢れる才能たちの中で輝く本物の才能。とどのつまり、五帝とただの帝国騎士では次元が違う。


 ということでピンポイントナナキ、本日もナナキソナーの感度は抜群。位置はちょうど三層目のペンタゴン辺りだろう。とすれば、こちらからも観光をしつつ合流を図るのが合理的と言うもの。神様とは違って人は生きれて百年、魔法壊死に耐性がない者はせいぜい四十年。時間を無駄にしてはいけない。


「サリア」


 そうと決まればナナキは早い。迅速に行動するべく、未だ荒れるサリアの名を呼んだ。


「な、何よ」


 露骨に一歩下がるあたり、先程のことで警戒されている様子。けれどご安心頂きたい、今回彼女にお願いしたいことはそう難しいことではなく、むしろとても簡単なこと。


「主たちの観光案内をお願いできますか、そうですね……五層まで」

「な、何で私がッ!」

「シルヴァは空気が読めませんし、ライコウは武術一辺倒で役に立ちません」

「こ、この小娘……ッ‼」


 言葉一つでわなわなと憤るシルヴァの様にはさすがに呆れを覚えると言うもの。普段こそクールなのだけど、彼はナナキに執着する節がある。恐らくは幼少期にコテンパンにしてしまったせいなのだけど。当時はやたら勝負を挑まれたものだ。懐かしい。


「落ち着けシルヴァ」

「しかしライコウッ!」

「良いではないか。お前はあの者たちを案内したいのか? 俺は御免だ」

「……言われてみれば」


 比べて、ナナキよりも三倍以上の人生を経験しているライコウはさすがの冷静さ。もっとも、彼も色々と弱点の多い男だけど。帝都のこととなるとすぐに熱くなって突撃する辺り、老獪とは呼べない。


 以上のもろもろを踏まえ、五帝の男性陣は使えないという評価を下す。


「私に案内を頼むのはどうして? ナナキはどうするつもりなの」


 さすがはサリア、必要なところだけを突いてくるところは実に好ましいと言える。そう、それこそがエンビィに頼んだお願い事の正体。


「少しだけ暇を頂けますか、主」


 サリアの質問に答える代わりに、主に申し出た。これがサリアへの解答、それで良い。サリアには意味不明の行動と映るのは仕方がない。けれど、これで良いのだ。これは語ったところで理解はできない。当事者であるナナキと彼女だけにしか分かり得ない。そんな御話だから。


「……早めにな」

「感謝致します」


 少しの沈黙の後、許可を頂けた。ここは帝都、そして先ほどは彼の皇帝陛下を足蹴にしたばかり。それでも許可を頂けるのだから、主の懐の広さも並みではない。唐突の申し出、これでは立派なメイドとはとても言えない。それでも、今はメイドよりも優先しなければいけないものがある。


「頼みましたよ、サリア」

「まっ――――」


 遠くにサリアの声が聞こえた瞬間、それを上書きするように知った声を聴いた。帝都に来るにあたって、ナナキはその正体を皆さまに明かした。けれど、ナナキが一番それを知ってほしかった相手はその時、その場にはいなかった。


 だから、呼んだ。正面から戦うために。


「……ナナさん?」

「お久しぶりです、シエル様」


 女性にしては高い上背、不健康をこれでもかと詰め込んだかのようなその太い身体は、一歩と歩くだけで脂肪の塊が大きく揺れる。ナナキはエンビィにお願いをした。シエル・マーキュリーをこの帝都に連れてきてほしいと。


 覚えているだろうか、シエル・マーキュリー。


 立場に逃げるなと、そう言った貴女の高潔を。ナナキは、私はようやく貴女に明かそうと思う。ナナではなく、ナナキとして貴女と戦おう。きっと、ナナキも貴女に同じ言葉を送ることになる。


 だから、次は貴女の番だ。


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