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雷帝のメイド  作者: なこはる
六章-神様ロックオン-
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帝都観光ツアー

「観光などいかがでしょう」


 どうしてか阿鼻叫喚となってしまった朝食を済ませば、本日の行動予定を提示した。理由としては二つ。まず一つに朝食を終えてからというもの、主たちは昨日の件について大して進展のない議論を交わすばかりで在ったこと。


 無論、神様との戦争、それこそレオンが言っていたように神界戦争の再来とも呼べるその決断に迷うのは仕方がないことなのかもしれない。微塵も理解はできないけれど、許容はしよう。それでも、そればかりに囚われているようでは甚だ未熟。それはナナキの主として相応しいものではない。


 であれば、助言をしようと思ったのだ。


「観光か……相変わらず人とは言うことが違うな、ナナキは」

「決まらないのなら決まるまで楽しんでいればよろしいのでは。せっかくの帝都、主の経験にもなるかと思いますが」

「呑気なこと言ってんなよ。規模が人類全体なんだぞ、わかってんのか?」


 主とナナキ、絆が通う二人の会話に飛び込んできた異物ことヴィルモット・アルカーンは不機嫌そうに口を挟んできた。遺物にしてやろうか。


「主の利益になる決断をすれば良いかと」

「……聞きたくないけど、その結果出てくる犠牲についてはどう思うのかしら、ウサギさん?」


 助言のつもりが会話の主導権を得てしまったように見える。やはり慣れない真似はするものではないね、友よ。従者は従者らしく慎ましく在れば良かったのだろう。主の役に立とうと思う心が出しゃばった。これは良くない、反省すべき失態だ。


 けれど反省は後にして、ミーア様の質問に答えなければいけない。難しい話は苦手だが、幸いにもミーア様の問いかけは簡単なものだ。これくらいならナナキも答えることができる。


 例えば、主が己の利益のために帝都を滅ぼせと言うのなら、ナナキは帝都を滅ぼすだろう。その犠牲について、ナナキはどう思うのか。これがミーア様の質問、相違ないね友よ。よろしい、それではナナキの結論をお伝えしようと思う。


「捨て置きましょう。それらは主の役には立ちません」


 平等と言う言葉は千年前に終わったそうだよ。生きていくためには適応するしかない、それがこの世界。魔法を使わないものは、才能のないものは必要がない。それが理でナナキの存在そのものを象徴している。適応ができないということは、何もできないということ。


 覚悟もない、誇りもない、才能もない。それでも守ってほしいのなら、終わってしまったという世界に帰ると良い。それができないのなら大人しく死んでいけばいい。どんな理不尽に晒されようと、自身の命の責任は自身に発生する。誰のせいで、ということはなく、全ては自身のせいで。


 ――――だから死ね、弱いのならば。


「……お兄様の頭は大丈夫かしら、心配だわ」

「今ので俺の頭が心配されるのか」

「こんな恐ろしいものを雇っているんだもの、当然でしょう」


 ミーア様の危惧。人とは違う、ずれている、その指摘には望むところであると声を高くしよう。それは特別である証で、畏怖されることは強さの証。理解の及ばないものを恐れるのは至極まっとうな感情、それは決して恥ではない。だからナナキは微笑もう。にこにこナナキ、慈愛のナナキスマイル。


 けれど撤回しなければいけないこともある、それを忘れてはならない。まず第一にナナキはウサギではなく霊長目のナナキ上科ナナキ科ムツヒメ属ナナキ種のナナキである。詰まるところナナキです。自己紹介のナナキスマイル。


「ふぅ……どっちにしろ意見がまとまらないな」

「では息抜きということで、再度提案させて頂きます。帝都にはサクラという美しい花を咲かせる木がありますが、あの美しさは必見ですよ。我が主」


 観光を勧める理由、その二つ目は私情だ。その木の名を告げた時に過剰な反応を示したのは一人。普段からクールな彼女がその瞳を輝かせてナナキを見ていた。今こそ新技のお披露目をする時。ご覧頂こう、新時代を切り開くナナキウィンク。確かな友情をお届け。


 サクラを見た後は帝都観光。未熟者ではございますがガイドは不肖、このナナキが務めさせて頂きます。アテンションプリーズ、右に見えますのがナナキの雷によって少し焦げた五帝の頭目、剣帝シルヴァ。その隣に居られますのはナナキの心の姉、炎帝エンビィになります。好き。


 予行演習もばっちり、さすがナナキと言えるだろう。どうだろう友よ、ナナキは立派なガイドに見えただろうか。なに? サクラより美しいガイド? うん、知ってる。だってナナキはお母様の娘だからね、仕方ないね。


「あの、ナナキ様……? もうすぐ十月ですが……」

「フィオの言うとおりよ。咲いているわけないでしょう」


 友とじゃれているところにフィオさんとミーア様からの御指摘。


 帝国魔法士と騎士を目指して帝都の魔法学院に通っていた御二人はサクラを知っている。となれば当然の指摘が二人から寄せられるのも無理はない。ところがドスコイ、あのサクラという木は皇帝陛下のお気に入り。このセントラルには魔法によって管理されているサクラの木が存在するのである。


「お、おい待てナナキ! 貴様まさか、宮殿に入るつもりか!?」


 それまで静観していたシルヴァが再び口を開いた。ナナキの雷を食らってもう口が回るとは、さすがは五帝の頭目と言ったところ。未だ口を閉じているエンビィが気になるが、ここから口論となるであろう議題に関してはナナキが正しい。だからエンビィはきっと口を挟んではこないだろう。


「皇帝陛下の居られる宮殿にお前たちを入れるわけにはいかない!」


 春にしか咲かないサクラが咲いている、その場所は今シルヴァが口にした。


「皇帝陛下のことを恨んではいませんし、危害を加えるつもりはありません」


 だけど。


「あの日から私が皇帝陛下を気に掛ける必要もなくなりました」

「どこまで勝手なんだお前は……ッ‼」

「どこまででも。むしろ勝手はそっちだろう、シルヴァ。皇帝陛下が居る? それがどうした、それはシルヴァ、エンビィ、貴方たちの事情だろう。彼女はもう私の主ではない。私の主はゼアン・アルフレイド様、そして私には主にサクラを見せることができる。その力が在る」


 主はこの帝都の住人ではない。それなら皇帝陛下に敬意を払う必要はなく、またそうであるのならこのナナキもそれに敬意を払う必要はない。何故なら、力が在るからだ。主にはナナキが居る、ナナキには力が在る。それなら、こちらが引く理由がどこに在る。


「そちらの事情はそちらで片づけなさい、シルヴァ」


 視線を主に向けてみれば、取り乱す様子はない。そう、主もまたずれている。ナナキの発言に戸惑う他の皆さまとは違って、実に落ち着いた表情で成り行きを見守っている。制止の声はない、ならばナナキは進もう。だってあのサクラの木は本当に美しいから。


 主もきっと気に入る、だから見せてあげたい。主に、アキハさんに、皆に。


「この――――」

「止めなシルヴァ、今お前に死なれたら困るんだ」

「ならこの暴君を何とかしろエンビィ‼ こいつはまるで悪魔だッ‼」

「それも無理。現状でナナキを止める方法があるとすればそこのゼアン・アルフレイドを人質に取ることくらいだけど、それをしたら完全にナナキと敵対する。帝都なんて半日も持たないよ」

「ならこいつの恩人であるお前から言い聞かせろッ‼」

「無理」

「何故だッ‼」

「この子バカだから」


 おい。



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