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雷帝のメイド  作者: なこはる
六章-神様ロックオン-
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ナナキナンデ

 閑話休題、ナナキは御料理を致します。


「……今のうちにエンビィ様を」

「……はっ!」


 ほとんど使った覚えのないキッチンで献立について考えていれば、ひそひそ話が聞こえてくる。ナナキのお耳は本日も感度良し、雑音のないクリアな振動をお届け。特別なナナキであればひそひそ話も筒抜け、ウサギさんも顔負けなナナキイヤー。でもウサギ扱いはイヤ。


「可能であれば他の五帝の皆さまにも応援を頼みなさい」

「……了解です!」


 後ろは捨て置いて良し。むしろやってきたエンビィたちにもナナキの作った朝食を振舞ってあげようと思う。この機会を決定打に、となればやはりナナキが自信を持ってオススメできる料理でなければいけない。誰かにナナキの作った料理を振舞うという貴重な経験をするチャンス、逃してなるものか。


 差し当たり必要なのは食材。


 魔力を原動力に今日も頑張る冷蔵庫にこんにちは、ナナキです。ナナキが生活していた頃には大して使われなかったこの子も、大切な客人たちのために高級な食材の数々を蓄えていた。エクセレント。けれどここで一つの問題が浮上、ナナキは文明の料理に詳しくない。


 もちろん、毎日リドルフ執事長の作る美味しい食事を頂いてはいる。けれど何が使われていて、どう料理されたものかというのはナナキには知る術もないのだ。何故なら、ナナキは単独で厨房に入ることを禁止されている。まったくもって心外、特別なナナキを何と心得る、と思わなくもナナキ。


 結論から言って、やはりナナキが慣れ親しんだ味を提供するのが無難。


 考えても見てほしい。文明の料理を大して理解もしていないナナキが変に意識してそれを作るより、この誇り高きナナキがこれまで食してきたありのままの食事をお届けした方が良い。得体の知れない料理で失敗するよりも、失敗のないナナキの料理を選ぶべきだ。実に合理的、さすがナナキと言えるだろう。


 そうと決まればこの冷蔵庫の中にある食事に用はない。ナナキが提供する料理に保存されている品質の悪いものは必要がない。文明の料理に対して未熟なナナキであっても、一つだけ共感を覚える言葉がある。それこそが、食材は鮮度が命、正にこれ。


 というわけで。


「少し出かけて参ります」

「……どちらへ?」


 ちょっと森まで。


 コチコチと時を刻む時計を見上げてみれば、主たちが活動し始める時間までの余裕はそうはない。時間に十分な余裕を持ってエンビィ宅を出た筈なのに、無能な兄のせいでナナキの早起きが無駄になった。残された時間は僅か、これから人数分の食料の調達と調理を済ませる必要がある。


 造作もない、求められるものが速度であるのならそれはナナキの得意とするところだ。よろしい、それでは電撃戦と行こう。帝都からナナキの故郷とも呼べるあの森はこのナナキであれば近所と言える。あそこならば正にナナキの庭だ、どこに何が生息しているのかも熟知している。


「貴女も同行しますか……と、お名前を伺っても?」

「……ハーミィと申します」


 必見に値する綺麗なお辞儀だった。内心ではナナキを良く思っていないだろうに、それでも下げるその頭はナナキの好きな高潔。ナナキと同じくらいの背丈、年齢はナナキの方が少し上だろうか。もし従者同士として出会えたのなら仲良くなれたかもしれない。残念。


 ああいや、従者同士なのだけどね。悲しきかな、ちょっとした行き違いで敵視されてしまった。機会が在れば、後々仲良くなりたいと思う。ナナキは誇りを持っている人間が好きだから。


「初めましてハーミィ、ナナと申します」


 今は仲良くなれないとわかっても、せめてもの抵抗としてナナキもこれ以上にない美しいお辞儀をお見せした。どうだろう、ナナキの所作は。お眼鏡に適っただろうか。もしそうなら仲良くなろう。その時はナナキの本名も明かそうと思うよ。


 どうもハーミィはナナキを知らない様子。残念なことに今は時間がない、であれば本名を告げて説明をしたり、ひと悶着があるのは後で良い。


「私はここに」

「わかりました」


 まあ、そうだろうね。


「ハーミィはセントラルに来て日が浅いのですか」


 時間がない、のだけど困ったことにナナキは彼女と話がしたかった。多分、本当の彼女とは今しか話せないのだ。ナナキと同様に、その年齢で帝都のセントラルに身を置く彼女とは。ナナキを知れば、敵意を持つか、或いは萎縮をするか、そういうつまらない人間になる確率が高い。


 だから今、尋ねてみようと思った。なんてことはない、歳が近いせいで生まれるちょっとした仲間意識。この才能の終着点と呼ばれる帝都の中心に、ナナキと同じくらいの少女が居た、それが珍しかっただけ。でもやっぱり、応援したくなってしまうというものだ。


「……二ヵ月程です」

「そうですか、良いところでしょう。セントラルは」

「……まるでここを知っているかのような口ぶりですね」

「ええ、知っていますよ。ここでは年齢も性別も関係ない、才能と実力だけが評価されます」


 現にハーミィが従えている多くの給仕は彼女よりもずっと年上の女性ばかりだ。それは一重に、彼女たちがハーミィよりも劣っていることを表している。年齢が上か下か、性別は男か女か、そんなくだらない理はここには必要がない。


「誇りなさいハーミィ、貴女は優秀ですよ」


 これは勝手な応援。それで良い、ナナキは勝手で良いのだ。それが許される。


「私を知らない貴女が勝手なことを言わないでください」

「言いますよ。私はハーミィより優秀ですから」


 ナナキの方が優秀だから、否定できない。撤回させられない。このナナキが優秀だと、そう告げたのだ。大人しく自分を誇れば良い。勘違いする人間が実に多いけれど、力とはこういうことを言うのだ。覚えておくと良い。


「ナナ……貴女はいったい何なのですか」

「エンビィに聞いてみなさい」


 お喋りはここまでとした。困惑の表情を浮かべるハーミィにナナキスマイルを添えて、その場を後にした。さあ友よ、長らく待たせてしまったね。今日は久しぶりにあの森で獲物を狩るよ。そうとも、ハンティングナナキだ。


 幼少期のナナキの主食と言えばネズミだけど、今回は人数が多いからネズミはあまり向かないかもしれない。となると、食べごたえのある大型動物が望ましいと言えるだろう。あの森で生息しているのは主に熊か虎だろうか。奥の方まで行けば象もいるけど、あれは美味しくないからね。固いし。


 やる気満々な友と獲物の相談をしている間に森へと到着。


 昨日お母様のお墓参りに来たばかりだけど、やはり生まれ育った場所は落ち着く。一先ずは降りて足跡だったりの痕跡を探そう。この森の獣は大型動物であっても巧妙に気配を消しているからね。さあ故郷よ、大自然の王者ナナキが帰ってきたぞ。


「あらら」


 地に足を付けると、茂みからナナキを覗いている生き物がいた。体長はおよそ三メートル、人間と比べればその体躯は遥かに大きい。たまたま降りた場所でいきなり獲物とランデブー、鋭利なその牙と大きな爪を駆使してこのナナキと戦うおつもりか。


 そんなわけナナキ。


 その生き物は情けない悲鳴を上げながらドスドスと地面を抉って駆けていく。予め説明をしておくなら、あの生き物は非常に獰猛であり人間だって食べる。魔法を使えない人間が出会えばまず食べられてしまう。そんな巨大生物がナナキを見て逃げるのは、この森のルールなのである。


 この森で生息する全ての生き物はナナキを知っている。親を、兄弟を、或いは自身の天敵を食らうナナキの姿が本能に焼き付いていることだろう。弱肉強食のこの世界で、ナナキと出会うその意味とは。


「どうも、クマさん」


 ナナキです。


 駆けだした熊に追いついてご挨拶。挨拶は大事、エンビィもそう言っていた。


「食べきれるかな?」


 クマっちゃうね。


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