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雷帝のメイド  作者: なこはる
六章-神様ロックオン-
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宮廷給仕vsマスターメイド

 誓いという言葉、その重みについて語ってみれば存外に意表を突いたらしく、シルヴァとサリアは絶句してしまった。心配することはない友よ、こんなことは日常茶飯事、ナナキがずれていることなんて今更だ。人とは違う、言い換えればそれは特別ということ。つまりはスペシャルナナキ、パーフェクトヒューマン。


 完全のナナキスマイル。世界の皆さま、ナナキです。


 別に良い、理解はされなくて。ナナキの前に立ち塞がるのでないのなら、お互い自由にしよう。生きている限り、好きに生きて行けば良いとナナキは思うのだ。もし衝突した時は簡単だ、より強い方の誇りが輝く。それだけのこと。


 ここは帝都、才能の終着点。


 気に入らなければ才能を以てこのナナキを排除すれば良い。ペンタゴンの中心、ここに居る者たちはそうやって才能を競い、優劣を決めて、蹴落としてきた筈。ならばナナキも蹴落としてみせろ、それができたのならナナキも考えを改めると約束しよう。


 つくづく、お母様は正しいのだと、そう思うのだ。弱ければナナキは自分を貫き通すことはできなかっただろう。より強い者が、他者の意志をも跳ね除けて誇りを守るのだ。特別であることを恐れる等と、否定されることを恐れる等と、そんな生き方をしてきたのなら進化できなくて当然だ。適応できなくて当然だ。


 このナナキは世界にすら否定され、それを受け入れた。


 この生き様を、この教えを、この選択を、誇らずに何を誇ると言うのか。ナナキ万歳。


「さて、意見がぶつかりましたがいかが致しますか、シルヴァ、サリア」


 先程告げたように、我が主はまだ何も決めてはいない。それはつまり、ナナキと五帝たちの間柄は依然として敵同士のまま。主がもし決めたのであれば、その時は笑ってその手を取ろう。それでも、今はまだそれはできない。そんな状態で意見がぶつかり合ってしまったのならば、より簡単な決着をナナキは求めたいが。


「ナナキと戦いますか?」


 いかがだろう?


「ぐっ……」


 五帝としての誇りを貫くか、或いはこのナナキにそちらの世界の道理を説くか、好きに選ぶと良い。ただ忠告をするのなら、それはどちらも半端では通れない道。眼前のナナキを見てみると良いシルヴァ。幸運だろう、天上は目の前に在る。超えてみたければ、挑むと良い。


 正しさの証明とは、常識という名の枷は。それらを纏った貴方は、このナナキを打倒することができるのか、どうか見せてほしい。


「……シルヴァ」

「わかっている……!」


 感謝。


 逡巡の後に身を引いたシルヴァに感謝のナナキスマイル。シルヴァには初めてお見せするかもしれない、ナナキの笑顔は綺麗でしょう。お母様のように。


「ふん、憎たらしい笑みだ」


 ぶっ飛ばすぞお前。



 懐かしい風景。


 宮廷から歩いて十分、駆ければ一秒の距離にある大きな建物。この八重のペンタゴンの中心に住まいを持てるのはこの才能の終着点で競い、打ち勝ってきた者だけ。皇帝陛下より頂いた亜麻色の屋根の豪邸とも呼べる大きな家。ここがナナキのハウス。


 家の前に立てば、ここで過ごした日々の情景が脳裏に浮かんだ。帝都を離れてからおよそ半年と言ったところだろうか。長くとは言い難く、けれども短いとも言い難く。それでも懐かしいと、そう思うのだからやはりここはナナキの家なのだ。ならば言うことは一つ、エンビィから教わった通りに。


「ただいま!」


 からの回避、ライトニングステップ。


「不法侵入を確認、各員迅速に対処」


 淡々とした命令、それを実行する者、どうしてナナキの家に宮廷給仕が居るのだろう。飛んでくる剣や魔法をぺしぺしと叩き落としながら考えてみる。ははあ、さてはエンビィのお気遣いかな。ナナキの主を大切に扱うとはさすがエンビィ、心得ている。


「こ、この動き……ッ‼」

「帝都の最奥に侵入しただけのことはある……応援を呼びなさい」

「はいッ‼」


 宮廷給仕とは、皇帝陛下が居られる宮廷で給仕をする者たちのことである。その所作はナナキも手本にしたくらいに美しく、無駄がない。極められた技術というものはそれだけで人を惹き付けるものだ。加えて彼女たちは主人を守るための最低限の力を備えている。


 繰り出される多彩な攻撃は必見、帝国騎士の中位くらいの実力を兼ね備えた給仕のスペシャリストたち。だけど残念、特化していないその才能でこのナナキを相手にするのは無謀だ。せめて攻撃する前にナナキの名前を聞くべきだったね。


「がッ!?」

「あうッ!?」


 同時に切り込んできた二人の急所を突けば、小さな悲鳴を上げて倒れこんでいく。恐らくはエンビィが手配したであろう宮廷給仕を殺すわけにもいかない。家が血で汚れるのも嫌だし。


「……これほどの力、何者ですか」

「こちらに泊まられたゼアン・アルフレイド様の従者です」

「従者」

「はい」

「嘘ですね」


 ぶっ飛ばすぞ。


「破れた給仕服を着て主人の前に出る給仕は居ません」


 恐らくは給仕長であろう彼女の言葉に右腕を見た。レオンとの戦闘で一度斬られた腕が在る。雷として合流して事なきを得たナナキの腕だけれど、服までは無事ではなかった。ふむ、確かにこの格好で主の前に出る従者は居ないかもしれない。一理在る。


「ゼアン・アルフレイド様一行は、炎帝エンビィ様より大事な客人と伺っております。貴女のような不審者を近づけさせるわけにはいきません。それにこの屋敷の主は恐ろしい力を持つ御方、死にたくなければ去りなさい」


 優秀。


 ナナキの実力を見て敵わないと判断したのだろう、エンビィの名前を出しこの屋敷の持ち主、つまりはナナキの存在も仄めかして退散を促してきた。元よりそこそこの実力が在るのも相まって、常人であれば虚勢には見えないだろう。


「……では主を呼んできてください。確認して頂ければ済む話です」


 少し考えてから、今回はナナキが折れることにした。給仕長が言うことも一理在る、何よりここで争ったところで何にもならない。せっかくのエンビィのお気遣いをトラブルで終わらせてしまうのは避けたいと思った。姉の好意には感謝しなければいけない。


「できません。貴女の速さは十分に理解しました」

「こちらは別に強行しても構わないのですが、ご理解頂けますか」


 かと言ってあまり付け上がってもらっても困るというもの。ほどほどの緊張感を持たせつつ、なるべく穏便に済む方法を模索することとした。どうだろう友よ、ナナキも成長したものだろう。この寛大な心を褒め称えてくれても構わないよ。


 友は鼻で笑うと同時にどこかへと消えていった。まさかの失笑、覚えていろよ。


「……わかりました、貴女の言葉を信じましょう」

「感謝致します」


 元よりそれしか方法がないのはわかっているけれど、彼女の誇りを守るために素直に頭を下げた。このナナキを止める術がないのだろう。追い返すだけの力がなければ、何を言っても無駄。ならばなるべく穏便になるように努めるのが最善と言うもの。朝一で大変な苦難の訪れ、ご苦労様です。


「従者……つまりは給仕なのですよね」

「正に」

「それでは朝食の準備をお願いします」


 やったぜ。

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