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雷帝のメイド  作者: なこはる
六章-神様ロックオン-
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あの日の誓い

 間抜けな兄を捨て置いて、ナナキの家へと急いだ。ナナキの家はペンタゴンの中心、宮殿と同じエリアにある。雷帝としての実力を認められてから皇帝陛下に頂いたもの。懐かしいその風景を駆けていけば、良く知っている二人の影を見た。


「止まれナナキ。先程のバカげた魔力の説明をしろ」

「そういう高圧的な態度をするとまた殴られるわよ」


 当然と言えば当然。ここは帝都の中心で、皇帝陛下も居られる最奥のペンタゴン。あれだけの騒ぎを起こせばすぐにでも帝国騎士、どころか五帝が飛んでくる。立ち塞がるシルヴァとサリアに朝の挨拶。グッドモーニングナナキ。


「おはようございます。シルヴァ、サリア」


 そしてさようなら。グッバイナナキ。


 申し訳ないけれどナナキは今急いでいる。問答無用で立ち塞がる二人の間を通り抜けた。さすがは五帝と言ったところで多少の反応はあったけれど、ナナキの速度には敵わない。どうか許してほしい、このままでは遅刻してしまうのだ。また後程お話をしよう。


 どうしても今すぐにお話をしたいと言うのなら、力尽くでナナキを止めてもらおう。残念だけど、言葉などではナナキは止まらない。最優先は主、これがマスターメイドの矜持というものだ。このナナキの誇りに懸けて、今すぐ御身の傍へ。


「エンビィに言い付けるぞ」


 Uターンナナキ。


 決してシルヴァの脅しに屈したわけではない。ただ、帝都を守護する五帝の頭目、彼の剣帝シルヴァが何と情けない真似をするのだろうと思い、叱咤しに来た次第である。他人の力を当てにするとは、なんたることか。それは軟弱である、ナナキが少し教育をしてあげよう。


「いけませんね、シルヴァ。私を止めたいのであれば自分の力で止めてみせなさい」

「ふん、そんなことはどうでも良い。何があったのか話せ」

「シルヴァ、何もそんな喧嘩腰に言うことはないでしょう」

「構いませんよサリア」


 昔のナナキであればその太々しい面を引っ叩いてやるところだけど、生憎とナナキももう子供ではないのだ。一々安い挑発に乗ってやるほど暇ではない。必要だと言うのなら簡潔に事情だけを説明しよう。決してエンビィが怖いわけではなく、後々の面倒を今片づけておこうという深い思慮の末の判断である。


「あら、大人になったわねナナキ」

「立派なレディですから」


 Are you a lady? サリアの問いかけにイエス、ふふん。


「これのどこが大人だ、甘やかすのはよせサリア」


 Are you ready? シルヴァに問いかけてみる。


「今どこ見て言った?」


 返答次第ではぶっ飛ばすから覚悟しろな?


「そ、それよりも何があった! さっさと答えろ!」


 少し声が震えていた。まだ少し気に食わないけれど、いつまでも睨んでいても仕方がない。大人なナナキとしては、ここで誤魔化されてやることにした。ナナキの懐の大きさに感謝することだ。けれど次はないぞシルヴァ、もし次に間違えたのならその整った顔が大変なことになる。せいぜい気を付けることだ。


「レオンと戦いました」

「……やはりか。どうやら捨て身に出てもこの怪物には届かないらしい」

「なるほど、レオンが切り札でしたか。良かったですね、ナナキと戦う道を選ばなくて」


 此度の五帝会談でもし何かが違えばその道は在った。そうなった時にナナキへの切り札が必要になる。それがレオンだったというわけだ。なるほど、確かにレオンがイクシード・マギアを発動している状態ならば五帝の誰よりも強いのだろう。あの魔法はそれだけ強大なものだ。


「それで、レオンはどうした」

「ま、まさか殺したの……?」

「殺そうと思いましたが、その前に神様たちが連れていきました」

「なッ……!? 追わなかったのッ!?」

「お前ならその神たちを止められたんじゃないのか、答えろナナキ」


 首を傾げて、考えて、それから悩んで、ようやく思い至った。


 最初は何を言っているのだろうと、そう思った。多分、シルヴァとサリアは勘違いしているのだ。互いの立場を今一度、しっかりと認識する必要が在る。


「私はもう、雷帝では在りません」


 そう、ナナキはもう雷帝じゃない。


「だから、帝都のことはどうでも良い。私にとって大事なのは主とそのご家族、ご友人方です」


 帝都を守るのは五帝の役目。レオンのことに関しては、そもそもナナキの敵となった。助けてやる必要がいったいどこに在ると言うのか。確かにナナキはかつては雷帝と呼ばれ、この帝都のために戦ってはいたがそれは過去の話だ。今のナナキには何一つとして関係のないことだ。


「だ、だけど力を合わせて神を全て倒せば世界は……」

「ですから、そもそも共闘するという段階まで話は進んでいません。サリア」

「え……?」

「確かに、共闘できるのであれば喜ばしいことではありますが」

「なら……!」

「ですが、今の私は従者なのです。サリア」


 あの会談で、エンビィの推測から出てきた予言の真実。それが本当に真実であるかはわからないけれど、その憶測から人類に一つの選択肢が生れたことは確かだった。それでも、まだ何一つとして決してはいないのだ。ナナキの主は、まだ何も決めていない。


 魔法壊死という人類が受けた呪いについての御話は伺った。そのために科学を封印していたことも知った。けれどそこまで、本来語るべき本質はまるで話が進んでいない。力を合わせる、結構。神を全て倒す、実に結構。主がそう言ったのなら、ナナキは喜んで手を貸そう。


 けれど。


「私の主はまだ何も決断してはいない」


 五帝の味方になるか、敵になるか。


「なッ……」

「ナナキ……お前……」


 そう、知っている。貴方たちはそうやって絶句することを。ナナキにとってはただ当たり前のことを言っただけに過ぎないというのに、返ってくる反応はいつもそれだ。だからナナキは察した。ずれているのは自分なのだと。けれど、だからなんだ。ずれてるからと言って自分を変えるほどナナキは弱くはない。


 理解されなくてもナナキは行くぞ、そうやって生きてきたのだから。


「た、たった一人の……それも子供の決断で世界を見捨てるつもりかお前は……ッ!?」

「私は誓ったのです、シルヴァ。彼の従者となることを」

「バカなッ‼ バカげてるッ!? そんなことで世界が滅びていい筈がないッ‼」


 サリアも、シルヴァも酷く取り乱した。それでも変わらない、ナナキは変えない。


「誓いとはそんなものなのか?」


 酷くずれているこの世界に、言ってやる。


「誓うという行為はそんなに軽いものなのか、シルヴァ、サリア」

「一つの誓いと世界の命運、どちらが大事かなんて聞くまでもないだろうナナキッ‼」

「それを決めるのは私だ。私が誇りを忘れない限り、彼が主人として相応しい限り、この契約は続く」


 それが誓うということだ。


「誓いを果たせないのは弱いからだ」


 世界の命運よりも誓いを優先する、そう言えば非難されるのだろう。良いとも、好きなだけこのナナキを罵倒すれば良い。その程度のことで誓いを破るとでも思うのか、つくづくと思うが人の言葉は軽すぎる。自身に、相手に誓うという行為はそうも容易く破って良いものなのか。


 否だ。


 このナナキの誇りに懸けてあの日に誓ったのだ。彼の従者となることを、その栄光の道に立ち塞がる全てを払うことを。他の誰かの意見なんてものは一切関係がない、賛同を求めてもそれはナナキの力になりはしない。必要なのはただ一つ、この誓いを破って自身を誇ることができるのか。


 答えるまでもない。


「お前は狂ってる……」

「私はそれでも良いよ、シルヴァ」


 だって私たちは、主従だから。

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