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雷帝のメイド  作者: なこはる
六章-神様ロックオン-
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ドラマティックバイバイ

 無くなった腕を見た。


 脇を締めても滴る鮮血が物語る、ナナキの負傷。これまでに多くの傷を作っては来たけれど、ここまで大きく分かりやすい負傷は初めてだった。突き刺さる痛みに酷い熱、無い筈の腕が痛む幻想。そう、ナナキの腕はそこに落ちている。そこに在る筈のものがない、なかなかに不思議な体験だった。


「……イクシード・マギア」

「おい……何で知ってる」


 それはこちらの台詞だ。


 お母様が危険だからと、そう言って最後までナナキに教えなかったその魔法。身体を這う無数のルーン文字が生み出す破滅の力。全ての理を捻じ曲げる絶対強者の証。魔法壊死への高い耐性を持っていたお母様すらをも食い殺した忌むべき呪い。そう、それは代償だった。最強という名の称号の。


 最早、細かい事はどうでも良かった。


 レオン、その名、その存在についてはナナキは考えない。きっと、ナナキと彼は他人ではないのだと思う。たった一つを聞くだけで、ナナキと彼の関係は証明されるだろう。でもそれは不要なものだ。それはナナキに必要のないものだ。


「ンハハ……」


 万里一空、ナナキは揺るがない。


 確かにそれは最強の証。ナナキですら届かなかったあのお母様が行使した魔法。ああ、友よ。これは僥倖である。ナナキは機会を得たのだ、真なる最強の称号を得る機会を得た。天下無双、ナナキが掲げる己の強さとはそうでなくてはならない。


 お母様が安心して眠れるように、ナナキが生きていけるように。


「……失礼。続けましょうか、レオンお兄様(・・・)

「……なんだと?」

「いいえ、気にすることはありません。些細なことです」


 必要なのは真実では無い、ナナキはそれを知っているから。


 家族とは至高の存在だ。けれど、ナナキは血が繋がっているだけでは家族とは認めない。敬愛なるお母様の血族で在ると言うのなら、これまでの惰弱な発想に対しての謝罪が必要となる。お母様は弱さを決して許さない。それでは生きていけない、お母様は誰よりもそれを知っていた。


 そうだ、弱さは要らない。イクシード・マギアを行使したレオンの力は確かに凄まじい、それはナナキの力を超え得るのかもしれない。それで、だからどうしたのだろう。諦めるのか、許しを請うのか、まったくもってお笑いだ。それでは生き残れはしない。


 今更になって生き様を変えることは絶対にない。そうとも、ナナキに屈辱は似合わない。飛ばされたこの腕を見てほしい。これがナナキの在るべき姿か。満場一致の否ナキ、これはナナキに相応しくない。ナナキは特別な存在だ。ならばその期待には応えなければならない。


 それが特別な存在、その責任だろう。


「今一度、定義致しましょう」


 そう、仕切り直しだ。つまらないことで動揺を見せてしまった。大変な失礼をお詫びしたい。ナナキは正直者だから取り繕うことはない、だから本音を告げようと思うのだ。相手にもならない、そう思っていた。レオン、彼の誇りも正義も理解して、それでも尚ナナキには届かないと。


「レオン、貴方は正しく私の敵」


 ナナキは侮った。やはりこの身はまだまだ愚か、お母様の高みに届くにはまだ時間が要るのかもしれない。それでも、紛い物如きに食い殺されるほど無能でもない。一言だけ謝罪しておこう、期待をさせてしまって申し訳なかったと。


 ナナキの兄、レオン。


 兄だと言うのなら、特別な妹であるこのナナキのために。


「――――ここで死ね」


 兄妹、だからどうした。生まれが同じで在ったのなら、育ちが共に在ったのなら、愛情がそこに在ったのなら、それはナナキの味方になり得ただろう。けれど重要なのはただ一つだ、レオン。敬愛なるお母様はお前の存在をナナキに教えることはなかった。それが何を意味するか、貴方にわかるだろうか。


「要らないんだよ、お前(レオン)

「何をわけのわからないことをッ!?」


 敬愛なるお母様がその存在をナナキに伝えることはなかった。つまり不要なんだ、ナナキが生きていくことにその存在は必要ない。当たり前だ、お母様はナナキが一人で生きていけるように育ててくださった。力を誇りをくれた。


 お前はナナキを攻撃した。それが事実だ。だから、お前はナナキの敵。兄であろうが、家族であろうが、何であろうが、揺るぐことのないナナキの敵だ。もう腐るほどに言ってきた、それでいて、その度に潰してきた。それでも今、また言おう。


「――――敵は殺す」


 ナナキが生きるために。


「行こう、友よ」


 紛い物ではあるけれど、それでもその魔法は本物だ。最強の証、イクシード・マギアを撃ち破るのはほかでもない、このナナキと神話の雷イルヴェング=ナズグル。最強を継承するのはそんな紛い物ではない、継承するべきはお母様の娘であるこのナナキこそが相応しい。


 だからさ、死ねよお兄様。


「人の腕ちょん切りやがって……痛てえんだよクソがあッ‼」

「な……ぐおぇッ!?」


 その死に酔ったクソみたいな面をぶん殴った。思いっきり、全力で。お母様の魔法、存分に行使すると良い。最強という名はさぞかし気分の良いことだろう。だけどその代償が命の終わりだと言うのなら、まるで話にならない。そんなものを絶賛する屑は死んだ方がマシだ。とっととナナキの前から去ると良い。


 ナナキが断言しよう、生存こそが至高で在る。


「勘違いするなよクソ野郎」


 雷に包まれる。心地よさの中に在るのは友からの強い友情だった。そう、彼はいつもナナキのことを心配してくれる。ナナキは人間で、イルヴェング=ナズグルは神様で。互いに殺し合った種族が共に手を取り合った。私たちは人神一体、見ると良い。これが究極だ。


「――――この程度でナナキに勝てるわけねえだろ?」

「っ…………肉体すら捨てると言うのか……」

「捨ててないよ。ただ、雷になってるだけ」


 ”全能の雷騎(マギア・シュヴァリエ)“なんて形にしたものじゃない、ナナキと友の絆そのものを示そう。叩き切られた腕すらをも雷として合流し、損傷という概念すら無くなる。イクシード・マギア、古いその魔法にナナキが引導を渡そう。


「――――ッアアアアアア!?」


 レオンの叫びだけが響いた。いいや、それはまるで嘆きの様だった。


「デタラメだろ……こんなのは……ッ!?」

「それの何が悪い、誰が悪い? 教えてやるよ、弱いお前が悪い」


 繰り出される全ての攻撃がナナキを貫く。それでも痛みはない、苦しみもない。ただ剣が、魔法が、雷となったこの身を通り抜けていくだけ。誇ると良いレオン。紛いものとは言え、その力は確かにお母様の足元には匹敵する。だからこそ、ナナキと友の力を引き出した。


 それがどんなものかも知らないで。


 あらゆる攻撃がこのナナキの身体を突き抜けて、霧散していく様を見て、諦めたようにレオンが呟いた。まったくなっちゃいない、ナナキの兄で在ると言うのならもっと凛として頂かなければ。その情けない面でもう一度正義を謳ってみろよ。このナナキの前で。


「お前はどうやれば死ぬんだよ……」


 ああ、それはとても簡単な質問だ。


「寿命」

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