至高の血統
ナナキは問おう、強者とはなんだ。
この愚問への回答はこれよりナナキがこの身を以て示す。強者の本質とは、存在の価値とは、全ては自分で決定付けるもの。人任せにしてそれをサボる弱者諸君、満足だろうか。自分には価値が在る、そう言えない君たちはそれで満足なのだろうか。他人の評価が全てだと思い込む弱者のなれの果て。醜いとすら思わないのだろうか。
ナナキは言うだろう、ナナキこそが強者そのもので在ると。
それはナナキに誇りが在るからだ。絶対不変、ナナキが自らを疑うことはない。この生き様は決して非難されるものではなく、笑われるようなことではない。ナナキがそう信じている、認識している。それだけで良いのに、弱者にはそれができない。正しく弱者、たった一つの勇気すらも持てない。
笑われることがそんなにも怖いのか、叩かれることがそんなにも怖いのか。その恐怖に負けて言いたいことも言えずにただ下を向く、訪れる結末は妥当でしかない。そうやって沈んでいくと良い。そうして妬み嫉み憎み、それは集まり、固まって声を上げる。平等にしろと、自分は悪くないと。
ナナキが告げよう。
――――お前たちが悪い。
何もしなかったのは誰だ。声を上げなかったのは誰だ。言いたいことを押し殺したのは誰だ。諦めたのは誰だ。その奈落へ堕ちるまでの間、必死に生きたとそう言えるのか。生きるための努力は、強くなるための覚悟は、前に進むための勇気は。お前たちは誇れないだろう、自分自身を何一つ。だから、お前たちが悪い。
弱い、弱い弱い弱い、吐き気がする程に。
言いたいことは言えば良い。笑われたのならぶっ飛ばせ。例えその後に負けるのだとしても、自分が間違っていないとそう思えるのなら、最後まで自分を信じてやらなければいけない。誇りを、尊厳を傷付けられて押し黙るな、下を向くな。バカにされて何もしないから、いつまでも変わらない。
ナナキは弱者が嫌い、大嫌い。だから今、目の前で奮うその姿が美しく見えた。事実それは美しいのだと思う。彼は届かない。遠く遠く、どこまでも遠くに居る。それでも声を上げ、このナナキには屈さない。これは誇りだ、強者が持つものだ。
「ク……ソが……」
刮目せよ、ナナキはそれを踏み潰す。
レオン、彼は強者で在った。彼には譲れない正義が在った。才能も、素質も在った。それでも届かないのがこのナナキだ。それを容易く踏み潰せるのがこのナナキだ。ぶつかり合えばより強い方が勝つ。どれだけ強い想いが在っても、叶えたい理想が在っても、ナナキを倒すことはできない。
強者とは、ナナキである。
「見事でした、レオン」
這いつくばる彼に、称賛を送った。
この土壇場でその才能を更に開花させた。そうでなければ、武装顕現を行ったこのナナキを相手に生き残れる筈がない。事実、戦闘の最中でレオンは急激に成長し、このナナキの攻撃をずらし致命を避け続けた。ライコウの直撃を受けて動いていたことから察してはいたが、大した防御力も相まってその命は粘り続けた。
それでも防戦一方。雷と等しいこのナナキの速度に反応は出来ず、ただただ削られ続け、やがてはその膝を折って大地へと倒れた。ナナキの雷でも斬れないその防御力は見事の一言。けれどそれだけだった。到底ナナキには届かない。
終幕だった。
「なんで……お得意の範囲魔法で一気に殺さなかった……」
「私は敵しか殺しません」
「追放された日に大勢殺しただろうが……」
「それは全て敵、ナナキの命を狙った敵だった」
「……そうかよ」
そうだよ。ナナキは間違えない。
気に食わないと、その顔が言っていた。弱々しくも、その瞳に確かな怒りを宿して再び立ち上がろうとする彼をナナキは待った。まだ何かを語る、あれほどに無駄だとナナキは言ったのに。そうであるのなら、ナナキはそれを聞こう。そこまでして、何を謳うのかが気になってしまったから。
「俺は親父に多くの人の役に立てって言われた」
同じ言葉はどこにでもある。それでも、やはりお母様の顔を思い出した。そうか、彼もまた親から託されたものを持つ人間だったのか。けれど、力が無ければその想いを継ぐことはできない。弱くては生きていくことができない。
「だから守ることばっか教わったし、痛てえことばっかだった」
双眸がナナキを射抜いた、心地の良い明確な敵意。
「笑えよ、どうせ死ぬならって奴だ」
「卑屈になる必要はありません、誇りなさい」
レオンの魔力が爆発的に増加した。魔法壊死を恐れない、文字通りの最後の力。彼は証明してみせた。彼にとっての正義とは、自身の命すらをも差し出すことのできる尊きものなのだと。それはナナキにすらできない偉業。ナナキは、私は死ねない。生きていく、それが約束だから。
消えていく筈の灯が、大きく爆ぜた。
「届かないなら……届かせてやるッ……!」
信念を聞いた。
滅びゆく命が燃やすもの、それは信念なのだと知った。己の望みを燃やし、最後まで牙を剥く。諦めて下を向くことばかりを考える弱者とはまるで正反対、それは生きていることの証明だった。許せないものを許さない、そんな当たり前を彼は貫いた。
「オオオオォォォ――――ッ‼」
咆哮、正義はナナキへと突貫した。
驚嘆はなかった。命を賭した死を伴う突貫、ましてやレオンには才能も素質も在った。だからこのナナキの速度についてくることに、特別驚きはなかった。やることはいつも同じ。これを打ち砕く、それだけだ。
「ダアアアァァ――――ッ‼」
振り下ろされるのは正しく魔剣。膨大な魔力をありったけに注ぎ込んだ破壊の剣。さあ友よ、これを打ち砕こう。合わせて放つのは天上の一閃、全てを断つ雷の一撃。この一振りに限り、ナナキの全力を注ごう。雷の剣が次元を歪ませてその力を示す。
「――――ッ‼」
さあ、世界を穿とう。
「―――――――――」
一瞬、本当に一瞬だった。
ナナキはそれを知っていた、それを見たことがあった。だから考えてしまった。眼前に迫っているレオン、その存在の可能性について考えてしまった。
「ナナキィ――――ッ‼」
「ッ」
腕が飛んだ。ナナキの腕が。
無くなった腕が酷く熱い。痛い。それでも、そんなことがどうでも良くなるくらいにナナキは、私は今動揺している。友よ、待って、少しだけ待ってほしいのだ。お願いだから、ナナキに考えさせてほしい。いや、いやそれよりも聞かなければいけない。
「……レオン、その魔法はどこで覚えたのですか」
「これは親父のもんだ」
レオンの身体を這うようにして伸びるルーン文字の羅列。それは絶対的強者の証。何故それをレオンが知っているのか、何故それが使えるのか。真っ先に出てくる可能性は、一つしかなかった。
「父親の名は」
「アレス」
同じ漆黒の髪、お母様が一度だけ呟いたことのある誰かの名前。
そして何よりもお母様の魔法。
「レオン、貴方は――――」




