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雷帝のメイド  作者: なこはる
六章-神様ロックオン-
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ナナキとレオン

「それでは行って参ります」

「うん、行ってらっしゃい。私も後で顔を出すよ」


 お見送り感謝、両手でふりふり。こういうのも懐かしい。少し前までは当たり前だった日常、ナナキが好きだったもの。互いに譲ることのできない道で在ったそれは、不思議な軌跡を描いてまた別の道へと成ろうとしている。


 これまでを想いながら、ナナキの家へと向かった。


 雷で駆ければ一瞬の距離、それでもこの道を歩いたのはきっと、必要だったから。懐かしさを覚える風景をてくてくと歩けば、やがて見えてくるのは私たち(・・・)の歪みだ。


 主には野望が在った。シルヴァには義務が在った。エンビィには愛が、サリアには空が、ライコウには経験が在った。そして、ナナキには誇りが在った。


「それならば、五帝候補レオン。貴方には何が在る?」

「――――”正義“だ」

「正に。このナナキが定義致しましょう、五帝候補レオン。貴方が正義だ」


 道は一つになろうとしている。それでも、それはまだ混じらない。このナナキから見れば取るに足らない、脅威にもならないその力。それでも、ナナキの力を以てしてもその固い意志は動かすことはできない。彼はあの日の約束を覚えているのだろう。それで良い、そうでなければナナキの前に立つことは許さない。


 ナナキの名を知ったその時から向けられる憎悪と殺意。思い浮かべたのはフレイラインで妹の仇討ちに来た愚か者のことだった。


「家族でも居ましたか」

「いいや。けどな、帝都の民はみんな家族なんだよ」


 友は青臭いと一蹴した。そうかな、ナナキは嫌いではないしわからなくもない。血は繋がっていないけれど、ナナキにも確かな姉が居る。それと同じことなのだろう。正義を謳うだけある、良い志だった。ならばナナキはその感情に答えをあげようと思うのだ。


「ならば”仇“を討ちなさい、五帝候補レオン」

「……言われなくても、そのつもりだ」


 伝わってくる気迫に魔力。神を連れないその身でこのナナキに挑む、少しばかり美しい。


「神の居ない世界? 共同戦線? ふざけるな、お前がやろうとしているのは第二次神界戦争だ……ッ‼」

「だからそれが惰弱だと言っているんだよ、レオン(・・・)


 実に人間らしく、途方もない存在に牙を折られている。戦いもしない、けれど奪われるのは嫌だ、それはダメだ、間違っている、そんなものは正義じゃない。だから生きていないと言っているんだナナキは。お前たちは生きてすらいない、心折れた弱者ならば相応に這いつくばっていろ。上を見上げるな、それはお母様の空だ。


 と、本来なら君にも言っていた。


「……五帝候補が取れたじゃねーか」

「認めたということです。それなら、不名誉な称号は侮辱にあたる」

「五帝候補が不名誉かよ」

「ええ。それは才能の無い者がぶら下げるものです」

「本当にてめえは……ッ!」


 まったく、不思議な話だった。


 神には挑めない、戦えない。それなのにこのナナキとは戦えるという。こんなおかしな話があるだろうか友よ。まあ、だからこそナナキは彼を認めたのだ。


「今一度、問いましょう」


 あの日に尋ねたそれを。


「レオン、貴方自身の価値は」

「お前を殺す覚悟が在ることだ」

「――――結構」


 あの日の自分自身の価値すらをも定めることのできなかったレオンはもう居ない。この眼前に立つのは確かな誇りを持った正義の使徒。彼は彼の正義を貫くだろう。そこに言葉は要らず、届かない。そう、だから混じらないと言ったのだ。全ての道が。


「レオン、貴方同様に私には誇らなければいけないものが在る。見せつけなければならない生き様が在る」


 ナナキはずっとそれを証明してきた。証明し続けてきた。混じらない道が在る、だからまたそれを証明しなければいけない。それはレオン、貴方も同じ筈だ。そうでなければこのナナキの前には立てない。この力はそんなに生易しいものではない。


「「――――正義は」」


 だから。


「必要だ」

「不要です」


 戦おう。


 互いの立ち位置は完全に決した。これが交わることは絶対にない。必然として、必要となるのはどちらかの存在の消失だった。ナナキが死ねば、世界は神と戦う選択を取らないのだろう。レオンが死ねば、五帝はまとまり人類は神に立ち向かうだろう。


「俺にとっての正義は――――」

「それも不要です」


 言葉を制した。だってそれは不要なものだから。


「その信念、その誇り、既に重々承知しております」


 それでも、もうそんなものはどうだっていい。


 彼にもそれなりの苦難が在ったのだろう。ナナキはレオンの生い立ちを知らない、過ごしてきた日々を知らない、そんなものを知ろうとすら思わない。それはどうでもいいものだ。意志を貫くために必要なのは決して言葉ではない、そのことを知っているから。


 ナナキにはナナキの誇りが。レオンにはレオンの正義が。それだけで良い。互いの心情に意味はない。ナナキの過ごしてきた日々をレオンに語り、この想いを知らせて何になる。そう、言葉じゃないんだよレオン。


 認めてもらうのではなく、認めさせるんだよ。


「レオンにとっての正義、レオンにとっての戦う理由、そんなものはどうだっていい」


 戦う理由なんかただ気に食わない、それだけで良い。殺し合うのに理由付けをする必要はない、そんなルールはこの世界のどこにもない。正義の証明はこれから行ってみせろ。このナナキを打倒し、正義こそが至高なのだと思い知らせてみると良い。


 天地長久、ナナキにも決して無くならないものが在る。それはお母様の教え、この世界で最も尊いもの。強者生存、弱者必衰。正しさは必要ない、生きていくために必要なのは強さと誇りだ。だからナナキは何度でも証明してみせよう。


 武装顕現。


「――――”全能の雷騎(マギア・シュヴァリエ)“」


 さあ、行こう友よ。


 弱者に当て嵌まったこの世界の楔を今一度破壊してみせよう。都合の良いルールが、決められた理が、どれだけ脆いものなのかを。不要なものなのかを。間違っているものなのかを。君とナナキで証明しよう。そこにルールなんてないことを。


 この雷帝ナナキと神話の雷イルヴェング=ナズグル。


 この存在を否定する弱者諸君に強者たる私たちを止める術はない。それはレオンも同じ、五帝も同じ。誰で在ってもこのナナキと友を止めることはできない。刻むと良い、この世界の真実、残酷なルールを。ナナキが生きてきた世界を教えてあげる。


 あの日に誓った通り、敬意を以て沈めてやろう。


 この世界で大切な、大切なたった一つのこと。


「――――お前はナナキの敵だ」

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